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100話 ミシェル令嬢の想い

 リオンと別れ、俺はアリス達と合流する為に玄関へと向かった。

 S級冒険者のアリスとB級でも上位の実力を持つリンドバーグだ。

 ハッキリ言って普通の冒険者程度なら歯が立たないだろう。


 しかし戦闘中は何が起こるか分からない。

 思いもよらないアクシデントで、低ランクの魔物に高ランクの冒険者が殺される事もある。

 そんな場面を俺は今日まで何度も見て来た。


「ラベルさん! ミシェル様は?」


 しかし俺の心配は杞憂に終わり、すぐにアリス達と合流を果たす事となる。


「ミシェル様は無事だ。今はダンとリオンに任せている」


「あの二人が付いているなら安心ね」


 アリスの言葉に俺も頷く。

 S級冒険者のアリスが信頼できる位にはあの二人は実力をつけて来ている。

 その事が嬉しく思えていたのだが、感慨に浸る時間はない。

 

「それよりもここに来るまでの間、俺は襲撃者とはすれ違わなかったが、そっちはどうだ?」


「屋敷に入った所で数名の襲撃者には襲われたけど、その後は人の気配もないかな」


「マスター、玄関から入った私達と二階から屋敷に入ったマスターが合流したって事は、屋敷の中に侵入した襲撃者は全員倒したって事になりませんか?」


「そうだな、確かにリンドバーグの言う通りだ。しかし警戒は解かずにいる方が良い。俺達も今からミシェル令嬢に合流して、これからの方針を決めた方がいい」


 俺達は二階に戻り、ミシェル令嬢の元へと急いだ。


 ミシェル令嬢の側にはメイド達と執事長のマルセルさんがいた。

 そしてギルバート伯爵の弟であるブロッケン様もすぐ横に陣取っている。


 俺はリオンに視線を向けた。

 感の良いリオンなら俺の意図をくみ取ってくれる筈だ。

 俺の視線に気付いたリオンは首を左右に振った。


(ブロッケン様におかしな動きは無かったって事か、それじゃ俺の勘違い? いやブロッケン様は確実に何か隠している)


 そんな事を考えていたが、まずは現況の報告を行う。


「ミシェル様、襲撃者は全て撃退しました。これで一先ずは安心です」


「そうですか。今回はよくやってくれました。【オラトリオ】のおかげで使用人達にも被害は出ていないとの事です」


「ありがとうございます。しかし今は今後どう行動するべきか決めなければいけません」


「そうですね」


「私が言える事は敵の正体や目的が分からない以上、この屋敷に残る事は危険という事です。安全な場所に身を隠すのが第一かと」


「私もラベル様の意見に賛成でございます。お嬢様は安全な場所に身を隠すべきです」


 俺の意見にマルセルさんも同意する。


「だから私が迎えに来たんじゃないか! 今回の襲撃でこの屋敷が危険だと全員が分かった事だろう。私の屋敷に来れば、護衛の人数も多いからミシェルの身も守りやすいから安心だ。兄もそれがわかっていたから私にミシェルを託したんだろう。さぁ早く準備して出発しようじゃないか」


 ブロッケン様は威勢よくそう力説を始めた。


「その前に襲撃者の一人を捕虜として捕らえ、今は無力化しております。今から尋問し情報を引き出します。相手の目的に合わせて対応策を考えた方が良いでしょう」


「なっなんだと、一人捕まえているだと!?」


 ブロッケン様は開いた口が塞がらない程驚き、目を見開いている。

 その額には大量の汗が浮いている事を俺は見過ごさなかった。


 だが今それを指摘しても、ブロッケン様が裏で手を引いている証拠でもない為、のらりくらりと言い訳されてしまう可能性が高い。


 俺は危険を感じ、ミシェル様をブロッケン様から引き離す事を決めた。


「襲撃者の目的が屋敷から金品を盗む強盗の類なら、ブロッケン様の屋敷でもいいでしょうが、もし目的がミシェル様本人だった場合は、身内の屋敷に身を隠しても直ぐに居場所が見つかってしまう可能性が高いです。そうなった場合は今回と同様に襲撃されるかもしれません。敵を欺く為には別の場所に避難する方がいいでしょう」


「捕まえた襲撃者が嘘の証言をするかも知れないんだぞ。そんな信憑性もない情報で動くわけにはいかん。普通に考えれば私の屋敷に来るのが一番安全に決まっている」


(お前が信用できないからに決まっているじゃないか!)


 そう思ったが、口には出さない。


 ミシェル様にもブロッケン様の不自然な行動は事前に説明しているので、今のブロッケン様の姿を見ればミシェル様も察する筈だ。


 しかしミシェル様は俺の予想に反する反応を見せた。


「少しだけ考える時間を下さい。メアリー、マルセル。メアリーの部屋まで来てください。相談したい事があります」


 そう言うとメアリーの部屋に三人は消えて行く。

 その後十分位で三人は戻って来た。


「私はおじ様の屋敷に向かいます。準備を急いでください」


「ミシェル様は、本当にそれでよろしいのですか?」


 焦った俺はもう一度確認を取ってみる。


「はい」


 どうしてそう決めたのか理由が分からない。


 しかしミシェル令嬢はブロッケン様の屋敷に行く事を決めてしまった。

 ミシェル令嬢が決めた事なら、護衛の俺達は付き従うしか出来ない。

 もし俺の予想通りブロッケン様が裏で動いているなら、一度でも敵の懐に入ってしまったなら簡単には逃げ出せないだろう。


 全員が重い表情を浮かべている中で、ブロッケン様だけが口角を吊り上げていた。


「屋敷はマルセルが新たな冒険者を雇い入れ、警護させる事となりました。マルセル頼みましたよ」


「承りました」


「それでは私も疲れました。後はメアリーの部屋で休みます。出発は明日の朝、それまでは誰も部屋に入って来ないでください」


 そう言うと、メイドのメアリーと共に部屋の中に消えて行った。

 次にブロッケン様も自分が休んでいた部屋に戻って行く。


 その後マルセルさんがテキパキとメイド達に指示を出し片付けが開始される。

 

 その場に残されたのは俺達だけだ。


「マスター、大変な事になってしまいました。我々はどうしますか?」


「俺達の仕事はミシェル様を守る事だ。ミシェル様がブロッケン様の元に行くなら当然俺達もついて行くしかないだろう」


「でも身内だとしても、どうしてあんな怪しい人について行くって、言っちゃうのかな? ラベルさんから事前に忠告を受けていたんでしょ?」


 アリスは腕を組んだまま頭を傾け、理解に苦しんでいた。


「俺もミシェル様の行動は良くわからないが、今は気を抜かずに警護を再開するしかない。もう一度襲撃される可能性だってあるんだからな」


 俺は手を叩き、全員の気持ちを一度リセットさせた。


「ダン、お前は部屋の前にいてくれ。アリス達には部屋の外を守らせる」


「うん。任せてくれ! あっ、さっきメアリーさんからラベルさんにって、手紙を渡されていたんだ」


 ダンは小さく折られた紙を俺に渡してきた。


 俺が紙を開くと何か書かれていた。




◇  ◇  ◇



【オラトリオ】の皆様へ

 私の行動で混乱していると思います。

 ラベルが忠告してくれた通り、今回の騒動におじ様が関与している可能性は高いと思います。


 もしそうならおじ様が何故、私の所に来たのか?

 それが重要になってきます。


 おじ様は最初の説明でお父様とは暴動が起きて離れ離れになってしまったと言っていました。


 きっとそれは真実なのでしょう。

 だけど暴動を主導したのはおじ様なのではないでしょうか?

 

 おじ様が暴動を起こしてお父様を捕らえようとしたが、逃げられてしまった。

 なので私を人質として捕らえに来た。

 こう考えると筋が通る気がします。


 私の考えにマルセルとメアリーも同意してくれました。


 ならお父様は今も何処かで生きている。

 だから私はお父様を救い出す為におじ様の元へ行きます。


 

 【オラトリオ】にも同行してもらって、お父様を救い出して欲しいのです。


 貴方達が優秀なのはこの目で確認しました。

 今、私が頼れるのは【オラトリオ】しかいません。

 

 私もメアリーと共に屋敷でおじ様の行動を監視し、不正の証拠をつかんで見せます。


 マルセルには反対されましたが、私にはメアリーや貴方達がいます。


 お父様が【オラトリオ】は私の傭兵団だと言ってくれました。

 どうか私の願いを聞き入れて下さい。

 マルセルに指示していますので、屋敷にある物は何を使っても良いです。


 もし反対された場合は私とメアリーだけでもおじ様の所へ向かいます。



◇  ◇  ◇



 俺は手紙をメンバー達にも読んで聞かせた。

 手紙には強い意志が込められている。

 手紙に書かれている通り、もし俺達が止めたとしてもミシェル様は行ってしまうだろう。

 止めても仕方ないなら応援するしかない。


「へぇー、危険だってわかっているのに行くって、伯爵令嬢は凄い勇気があるんだね」


 アリスは感心した様子で頷いている。


「えへへ。やっぱこの行動力、あのお嬢様らしいや」


 ダンは鼻先を指でこすり、笑みを浮かべていた。


「ミシェル様にはもう父親のギルバード様しかいない。私も両親を助ける為ならミシェル様の立場なら同じ事をするかも」


 身内の事でずっと苦労して来たリオンは、ミシェル様の気持ちが理解できるのだろう。

 真っ直ぐと俺を見つめている。


「マスター、私はマルセルさんと話をして、持っていくアイテムを整理しておきます。なのでマスターも後で来て、持っていく備品の確認をして下さい」


 リンドバーグは既に準備を始める為に動き出していた。

 

「俺達よりも幼いお嬢様が【オラトリオ】を信用して命を掛けるって言うんだ。応えるしかないだろう!」


 俺も気合を入れて準備に取り掛かった方が良い。

 思いもよらない事態になってしまったが、幸いにもここは伯爵家だ。それなりの備蓄はあるだろう。

 それに捕まえた襲撃者から情報が手に入れば、対応策も取れるかもしれない。

 

 こうして俺達はブロッケン様の屋敷に向かう事となった。

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伯爵本人が私兵の1人も残さず連れて行ってなお対処不能な事柄を小娘が新参の寡兵を率いて何とかなるって思われるとか、伯爵どんだけ無能なんや
[一言] 100話おめでとうございます♪
[一言] 物語だからしょうがないけど、護衛する冒険者が護衛対象者に言われたからって、行っちゃダメだと思った。
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