♪ 02 白亜の邸
『ブラッドツインズ〜薔薇の印に捧ぐセレナーデ〜』を訪問頂きありがとうございます
ヒロインの背景説明の為の過去の話がしばらく続きますがお付き合いいただければ幸いです
パステルブルーの壁と花柄のベッドカバー意外、白色の家具で統一された部屋に合わせる様に置かれた先程まで弾いていた白いボディのアップライトピアノ。
譜面板に載っているのは演奏した狂想曲のページを開いて置かれた蛇腹折の楽譜ノート。
開かれたページは、紙が傷んでいるためか黄ばんだ色をしており黒い皮のノートは所々剥げていて年期を感じさせる。
黄ばんだ蛇腹折の紙をそっと畳み表紙を閉じると隣りにやって来た彩香が、譜面板に乗った楽譜ノートを覗き込んだ。
「これは誰のノート? 」
煤けてボロボロの楽譜ノートの表紙を見て、おそらく私の物では無いと判断したのだろう彩香は、訝しげに尋ねた。
「これはリリーお婆さんから譲り受けたノートなの」
リリーお婆さんは私の母方の祖母でオーストリア人であり、娘にあたる母はオーストリア人と日本のハーフで、その娘である私はオーストリア人の血が流れるクォーターだ。
母は日本で日本人の男性と結婚して私を産んだが
私を産んで3年がたった頃、私の父であった夫と意見の衝突で喧嘩した。
原因は私にあった 。
テニス選手だった父は私に何かスポーツをさせたがったので
私は何となく父と同じテニスを習ってみようと思い、父にテニスを習う事になったが、練習中に私は原因不明の発作を起こしてしまい救急車で病院に運ばれる事になったのだ。
医者に診てもらっても発作の原因はわからないまま、医者からは激しい運動を控える様にとだけ告げられた。
テニスの最中に私が発作を起こしたことで母が父を責めて中睦まじかったはずの2人は私の知る限り、始めての喧嘩をした。
父と喧嘩した母は、私を連れて家出して私と母はリリーお婆さんの暮らすオーストリアへと渡った。
始めてリリーお婆さんの家を訪れた私は息を呑んだ。
リリーお婆さんの家は中心都市より北方向に位置する郊外の村外れに建つ白亜の邸で
色とりどりの鮮やかな薔薇が咲き乱れる庭園の様な広大な庭に、薔薇の花弁が漂う噴水の奥に邸があり、白亜の邸は太陽の光に照らされ輝いていた。
その様はまるで純白の城の様であり、 幼いながら私は母がオーストリアの金持ちの令嬢である事を悟った。
玄関扉で私達を出迎えてくれたのは白い毛並みのチシャ猫を抱えた老女だった。
「エリー大丈夫かい? 」
「家出をして来たようだけど…… 」
「リリー大丈夫よ!! 心配しないで !! 」
母、恵理の事をエリーと呼ぶ老女は眉を下げて心配そうに尋ねるが
母は怒ったように老女を名前で呼び、半分投げやりに答えた。
私はそんな2人の遣り取りをぽかんとした表情で眺めていた。
母方の祖母には今まで会った事は無いから確信は持てないがここは母方の祖母の家の筈であって、会話から察するにこの老女がオーストリア人の祖母なのではないかと思い、2人をよく見比べる。
母は私と同じ黒い瞳に丸みを帯びた輪郭の童顔で若い印象を持たれやすいと言っていた。
肩に掛かった髪は明るい茶色で緩く巻いている。
祖母の方を見ると母より明るい髪色で茶色と言うより栗色に近く、切れ長の目は母とは正反対。
ただ祖母は栗色の髪に白髪が混じり、目元にはうっすらと分かりずらい皺が刻まれているものの、真っ直ぐに通った鼻筋と形の整った唇からは今の母の面影を感じることが出来、やはり親子であると思えた。
「まぁ 」
「お茶でもしながらゆっくり話しを聞きますかね」
祖母は怒る母に微笑むと私達を邸の中へと招き入れた。
序曲 (2)を最後までお読み頂いた方はありがとうございます
しばらくヒロインの背景説明の為の過去話が続きますがこの先もお付き合いいただければ嬉しいです