三姉妹
「よろしく。僕はアリルだよ。この島一番の職人なんだ」
そういって手を差し出してくるのは、栗色の髪をショートカットにしたかわいい子だった。カラダに似合わない大きなハンマーを持っている
「あらあら。妹が失礼しました。私はアリルとメイの姉のウードと申しますわ。よろしくお願いします」
杖を掲げた黒髪の色っぽいお姉さんも挨拶してくる。
彼女たちはメイの姉妹で、俺たちと一緒に討伐戦に参加する戦士だった。
「君はぼくたち一族の新しいお勤め相手になったんだよね。ボクもよろしく。サービスするよ。お兄ちゃん」
アリルはそういって俺にすりよってくる。
「あらあら。あんまり頑張らせたらだめよ。ほどほどにね。早死にしたら困るから。ドライ君、体は大切にね」
ウードもそういって、俺の頭をなでてきた。
「アリル。それからウード姉も、そんな奴を認めるの?」
それを見て、剣を持ったメイが不機嫌そうになる。
「そんな奴って、ドライ兄はディーネ様の息子なんでしょ?だったら同胞じゃん」
「ドライ君とならいい子が生まれそうだわ。お姉さん楽しみ」
二人はそんなメイを見て、きょとんとしていた。
「もう……いいから、みんなしっかりしてよ!私たちは「ウネビ号」を取り戻して、広い世界に出て行くんだから!」
なぜかやたら張り切ったメイが先頭に立って、島の奥地に向かっていく。
「なんでそんなに張り切っているんだ?」
「当然じゃん。私だってこんな狭い島で一生を過ごすのはいや。広い世界に出て行って、素敵な王子様を探すんだから!」
どうやらメイは俺のことは眼中にないらしい。
ちょっと落ち込みながら進んでいくと、島の反対側の海に面した湾に出た。
そこは山から流れる川が滝になっているところで、その滝の裏側にうっすらと穴みたいなものが見える。
『気をつけてよ。この洞窟はジェルスライムの巣だから」
メイの注意を聞きながら、俺たちは洞窟に入っていった。
その洞窟の天井は所々裂け目があって、上から太陽の光が差し込んでいる。
中に入ると、巨大な鉄の塊が停泊していた。
「お、おい。あれって船……なのか?」
まず前方に巨大な筒が設置されていて、船体は鉄で覆われている。
そして本来マストがあるべき場所には、途中でへし折られた柱がむなしく立っているだけだった。
「あれじゃ帆が立てかけられないぞ」
「お母様が言ったでしょ。「ウネビ号」は帆がなくても進む船だって」
メイがそうたしなめるが、俺はどうみてもこれが船とは思えず、何かの建物なんじゃないかと思っていた。
そのとき、いきなり上からグニッとした感触の何かが落ちてくる。
「うわぁぁぁ!」
俺は思わず持っていた松明を押し当ててしまうが、その物体は離れてくれなかった。
触れている場所に激痛が走る。
「いたいいたい!」
「大変!」
あわてたメイが、無理やり引き剥がして投げ捨てる。触れていた部分が炎に当てられたように皮がただれていた。
「くそ。なんなんだ!」
「あれがジュルスライムよ。触れた部分を溶かして食べるの。気をつけて!囲まれている」
メイが言うように、いつの間にか洞窟全体にジェルスライムが現れて、じわじわと俺たちに迫ってきていた。
「きゃーーーーー!やだー!」
アリルはパニックを起こしてハンマーを振り回している。危ない!俺に当たりそうになった。
「くっ!この!」
メイは必死になってジェルスライムを剣で叩いているが、ぶよぶよしたやわらかい体液に阻まれてダメージを与えられてなかった。
「『水壁』」
ウードさんが杖を掲げて結界を張るが、いつしか俺たちは壁際まで追い詰められてしまった。
「も、もうだめ!」
メイがそう叫び声を上げる。
スライムに追い詰められて、自然と俺たちの体が密着する。
そして一斉に襲い掛かってきた。
全方向から飛び掛ってきたスライムが、俺たちの体に体当たりする。
「ひいいっ。ボクたちはもうだめだー!ここでこいつらにたべられちゃうんだぁ……」
『任せろ。えい。『気化』
彼女たちのやわらかい体を堪能する余裕もなく、俺は呪文を唱えて全身から魔力を放った。
「え?」
泣き叫んでいたアリルがきょとんとする。飛び掛ってきたスライムは、俺たちの体を溶かすことなく動きをとめていた。
「ふう……うまくいったようだな」
俺はスライムの一体を持ち上げて確認する。ぶよぶよした粘液だったそれは、水分を失ってカチカチになっていた。
「何をしたの?」
「俺の「気化魔法」で水分を蒸発させた。そうしたら動けなくなるだろう?」
俺の言葉どおり、粘液から固形物となったスライムは動きをとめていた。
「えいっ!」
メイがきりつけると、あっさりと両断される。
「すごいよ。ドライ兄!」
「ふふ。こんなやり方があったなんてね。偉いわ」
アリルとウードが尊敬の目を向けてくる。
「ふ、ふん。少しはやるようね。でも、ここは戦場よ。油断しないでね」
メイはそんな俺たちを見て、プッと頬を膨らませる。
「これで大丈夫だ。どんどんいくぞ」
俺は目に付いたスライムを「気化」魔法でカラカラにしていく。残ったスライムは、船の外に逃げていった。