ウネビ号
「ば、ばか!どこ触っているんだ。痛い!千切れる!」
複数の手が俺を雁字搦めにする。俺は女というものに心底恐怖を感じてしまった。
「わ。わかったから。痛くしないで……」
ついにあきらめて観念しようとした時、救いの手が差し伸べられた。
「こら。みなさん!お待ちなさい。無理やりして、使い物にならなくなったらどうするつもりですか!」
メルディさんがやってきて、少女たちを引き離してくれる。
俺はようやく立ち上がることができた。
「あ、ありがとうございます」
「いえ。失礼いたしました。それで、今晩は誰をご所望されますか?」
ニコニコして言うメルディさん。周囲にはキラキラした目で俺を見つめている少女たちに取り囲まれている。
命の危険を感じて、唯一安全そうなメイにすがりついた。
「き、今日はメイで頼みます」
「まあ。娘のことをそんなに気に入ってくださったのですか。いい子ができそうですね。それでは皆さん。今日のところは失礼しましょう」
メルディさんがそういうと、少女たちはしぶしぶ引き下がっていった。
「それではドライさん。ごゆっくり」
メルディさんも去り、後は俺とメイの二人だけが残された。
「こ、怖かった……」
俺は安堵のあまり、膝をつく。
「何よ。男って女の子に迫られるとうれしいんじゃないの?」
「程度による。一人ずつにしてくれ。あんないっぱい来られたら、うれしい以前に命の危険を感じてしまうんだよ」
「ふーん。まあどうでもいいわ。ふわぁぁ」
メイは眠そうにあくびをして、俺の抗議を聞き流す。
「ま、そうやって節度を保ってくれるなら、早死にすることはなさそうね」
またメイが物騒なことを言い出した。
「おい……まさか、この島に若い男がいないのって?」
「そりゃもちろん。「お勤め」のやりすぎで長生きできないからに決まっているでしょ。私のパパは15年前に死んだって聞いたけど、
その時はまだ18歳だったって聞いたわよ。それから一人も男の子が生まれなかったから、あなたは久しぶりの男ってわけね」
マジか?ここは天国じゃねえ。地獄じゃねえか!あんな大勢相手したら確実に死んでしまう!
「お、おい。なんとかしてくれ!」
「仕方ないわね。明日お母さんに話をしにいきましょう」
そういって、メイは自分の洞窟に帰っていく。俺は恐怖に震えながら一夜を過ごすのだった。
次の日、俺はメルディさんに直談判していた。
「この島から出て行きたいのですか?」
「は、はい。同胞として受けいれてくれることには感謝しているのですが、俺にはまだやることがあるのです」
そう。俺を追放し、死に追いやろうとしたシルフィールド一族には眼にもの見せてやらないと気がすまない。
そう力説したら、メルディさんはため息をついて首を振った。
「仕方ないですね……できるだけのことはしてさしあげたいのですが」
あれ?絶対に反対して、最悪俺を幽閉するかもとおもったんだが。
そのことを聞くと、メルディさんは寂しく微笑んだ。
「たしかに、あなたにはこの島にとどまっていただきたいのですが、たとえ子作りに励んでいただいたとしても、このままでは我が一族は滅びる運命なのです」
話を聞くと、この島は元々スライムの生息域だったが、近年大発生して人間が住める領域がどんどん侵食されているらしい。このままではいずれ増え続けるスライムに食われてしまって、ウンディーネ一族は滅亡してしまうそうだ。
「ですので、それを危惧したディーネは外の世界に飛び出しました。なんとかして助けを呼んでくると」
なるほど。母さんがシルフィールド一族の親父に嫁いだのはそういう思惑もあったんだな。だけどあいつらはメリットもないのに人助けするような人情あふれる一族じゃない。俺を役立たずとして追放したように、人を利用できるかどうかでしか見ない冷たい奴らなんだ。
おっと、怒りで我を忘れるところだった。今はウンディーネ一族も含めて、どうやってこの島から脱出するかだ。
「そういえば、母さんは脱出できたんですよね。どうやって?」
「この「魚鱗のタイツ」を使えば、潜水して水中から脱出できる可能性はあります」
メルディさんは魚の尻尾みたいなタイツを見せて告げた。
うっ。格好悪いけど仕方ない。貸してもらおう。
「それを使えば……」
メルディさんは黙って首を振る。
「だめなのですか?」
「私たちもなんとかして外に出ようとしていたのです。ですからメイに「魚鱗のタイツ」を着せて、外にでれるかどうかを試してもらっていました。ですが……」
「嵐は水中にまで影響を与えているわ。全力で泳いだけど、結局押し返されて、浜にうちあげられちゃったの」
メイが後の言葉を引き継ぐ。
「今まで成功したのはディーネただ一人のみ。泳ぎに長けた私たちが魔道具の力を借りてもだめなことを、少し前まで陸で生活していたドライさんができるとは思えません」
俺はそれを聞いてがっかりする。
ちくしょう。俺はこの島で種馬になり、ハーレム死するしかないのか。
ある意味理想の死に方かもしれないけど、俺はまっぴらごめんだ。なんとしてでもこの島から逃げ出してやる。
そう俺が考え込んでいると、メイが口を開いた。
「お母さま。キャプテン・ピエールの「ウネビ号」を使えばいいのでは?」
「ウネビ号ですか……」
メルディさんは考え込む。
「何か問題があるのですか?」
「実は、ウネビ号は私たちをこの島に逃がしてくれた伝説の海賊、キャプテン・ピエールが乗っていた船なのですが、少々問題がございまして……」
キャプテン・ピエールは100年前に活躍した海賊で、義賊として有名だった。
商人としても有能で各国の間の交易で大金を稼ぎ、魔道具の作り手としても有名だった。
敵対する海賊を何人も滅ぼし、その財宝を奪って最後にはいずこへともなく消えたといわれている。
「そのピエールが残した「ウネビ号」は、帆を張らなくても自力で海の上を進むことができたという伝説があります。これなら暴風域を乗り切れるかもしれません」
それを聞いて俺は喜ぶ。その船さえ手に入れればこの島から脱出できるんだな。しかも財宝だって?テンションがあがる!
「よし。すぐに行きます。その船はどこにあるんですか?いてっ!」
いきりたつ俺の後頭部に、メイが突っ込みをいれる。
「何すんだよ」
「あわてないで。私たちが今までそれを考えなかったとでも思う?
今、ウネビ号はスライムたちの巣になっているの」
「スライムだって?そんなの簡単だろ?焼き殺せばいいだけだ」
「甘いわね。ここのスライムは特別なのよ」
メイによると、この島のスライムは火傷の薬になるカラカラ草を食べて繁殖したため独自の進化を遂げて、炎にたいする耐性をもったジュルスライムになってしまったらしい。
「普通は炎であぶれば簡単に焼き殺せる弱いモンスターなんだけど、火耐性を持ってしまうと無敵になっちゃうのよ。水分の塊みたいなものだから、剣で切っても棒で叩いても無意味だし。中央の核を貫けなければどうやっても倒せないわ」
俺はそれを聞いて落ち込む。やっぱり俺はハーレム死するしかないのか?
「まてよ。その核を守っている水分をなんとかすれば倒せるんだな」
「え、ええ」
俺の食いつきに、メイは若干引いている。
「なら、なんとかなるかもしれないぞ。とりあえず人を集めてくれ」
俺の頼みを受けて、ウンディーネ族の戦士が集められるのだった。