薬
俺は傷が癒えるまで、この島で過ごすことになった。お世話係になったのは、メイである。
「勘違いしないでね。お母さまの命令だから、仕方なく面倒みてあげているんだから!べーーっ!」
そういって舌をだす彼女が小憎らしいが、意外なことにちゃんと面倒みてくれた。
「ほら。包帯を取替えあげるから。服を脱ぎなさいよ」
一応従妹にあたるせいか、なぜか遠慮がない。平気な顔をして俺の服をぬがして、赤い色の薬を塗った。
「お、おい。これはなんだ」
「伝説の海賊キャプテン・ピエールの船にのっていた、ヤポン人が使っていた「ヨードチンキ」という薬よ。海草から作ることができて、血止めや化膿止め効果があるの」
見た目は気持ち悪いが、その薬を塗ったから俺の傷は簡単に治っていった。
「これは海草とエボシ貝のスープよ。さっさと飲みなさい!」
こうやって甲斐甲斐しく料理を作ってくれたりして、俺は数日で元気をとりもどした。
歩けるようになった俺は、メイに連れられて村を案内される。
彼女たちは海の近くの斜面に洞窟を掘って生活していた。
「なんで木で家をつくらないんだ?」
「風雨域が島の中心部にまで影響を及ぼして、暴風雨にさらされることがあるのよ。だからこの島には高い木が育たないの」
「なるほど」
洞窟に住んでいるから原始人かと思ったけど、意外と合理的な理由からだった。
洞窟から外に出て歩くと、村の様子がよくわかる。なぜか働いているのは女性が多く、男性は1/10ほどしかいなかった。しかもみんなお年寄りばかりで、元気がないように見える。
「なあ、なんで女の人が働いているんだ?」
「男の人は「お勤め」ですぐ体力を使い果たしちゃうからね。若くて元気な人がいないのよ」
「お勤め?」
それは何かとメイに聞こうとしたときに、若い少女たちから声をかけられた。
「ドライさん。こんにちわ。元気になったんですね。これ取れたての魚です。食べてぐださい」
水着姿のきれいな女の子たちからちやほやされて、思わず鼻の下が伸びてしまう。
「あ、ありがとう。後で食べさせてもらうよ」
俺が魚を受け取ると、少女たちからキャーと歓声が上がった。
「かっこいい」
「元気そう。これでウンディーネ族も安泰ね」
そんな声が聞こえてきて、俺は思わずにやけてしまう。もしかして俺って天国に来たのかな?
そんなことを思っていると、隣のメイからつねられた。
「いたっ。何するんだよ」
「何よ。デレデレしちゃって!」
メイは不機嫌そうにそっぽを向いている。
「なんだ。妬いているのか?」
「調子に乗らないで!」
メイは走っていってしまった。
(むふふ……可愛いじゃないか。みんながちやほやしてくれるし、シルフィールド家にいたころとは大違いだな。このままこの島でずっと過ごしてハーレムを築くのもわるくないかも)
そんなことを思っていた俺は、なぜこの島に若い男が少ないのかを考えていなかった。
その日の夜。
与えられた洞窟で寝ていると、誰かが俺の寝床に入ってきた。
「だ、誰だ」
『静かにして。私よ」
入ってきたのはメイだった。
「どうしたんだ?こんな夜中に。夜這いか?」
冗談めかして言うと、なぜか彼女は涙を流してきた。
「うう……お母様の命令とはいえ、よく知らない男の子を生まないといけないなんて……ぐすっ」
途中からガチで泣き出したので、俺は慌ててしまった。
「お、おい。マジで夜這いだったのか。いったいどういうことだ?」
「仕方ないのよ!」
メイはやけになったように、ウンディーネ族の事情を話し始めた
「実は、私たちは百年もこの島に篭っていたせいで、すっかり血が濃くなって男の子が生まれにくくなっちゃったの」
生まれた数少ない男の子は、『お勤め』として子作りに励むが、そのことがますます一族間の血を濃くすることにつながった。
「そんな中、外の血を持つあなたは私たちの希望なの。お母様からあなたの種をもらいなさいって言われて……」
「た、たね?」
そういわれて、俺は思わず股間を押さえてしまう。
「ええーん。私は長の娘だから、みんなより何事も率先してやらないといけないっていわれて……ぐすっ。嫌だよぅ」
「そんな嫌がらなくても」
そりゃ、俺だって男だからそういうことをすることはやぶさかじゃないけど、こんなに嫌がられたら萎えてしまう。
「わ、わかったよ。無理しなくていいから」
「でも……」
「いいから」
俺は紳士的に、メイを洞窟の外に連れ出した。
すると、あっというまに50人くらいの少女に取り囲まれてしまう。
「もう終わったの?」
「やだ。はっやーーーーい」
そんな声が聞こえて、俺は精神的ダメージを受けてしまう。
「ぐはっ。だ、誰が早いじゃ。なんもやってねえよ!」
必死になって弁解するが、彼女たちはそれならそれでいいと納得しているみたいだった。
「早いってことは、回転率がいいってことだね」
「やったー。これでみんなに行き渡るね」
「いい種がもらえそう」
「これでたくさん子供が生めるわね」
俺を放って置いて、なにやら不穏な言葉が聞こえてくる。
「よーし。次は私がもーらい!」
少女たちの中から何人かが飛び出してきて、俺を押し倒した。