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気化魔法で世海征服  作者: 大沢雅紀
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ウンディーネ一族

数時間後

「はぁ……なんとか生き残れたか」

俺はすべての力を使い果たし、浜辺で倒れていた。

奇妙なことに雨を伴う暴風域はこの島を取り囲むように包んでいるだけで、島そのものには太陽がさんさんと降り注ぐ穏やかな気候である。

「助かった……だけど船が流されてしまった。俺はこの島から出られないのか」

こういう時につくづく自分が空を飛べないことが悔やまれる。「風舞(フライ)」の魔法さえ使えれば島から脱出できるのに。

俺はしばらく地団駄踏んで悔しがっていたが、とりあえず食料を探して浜辺をうろついてみた。

「おお……結構あるじゃん」

島を取り巻く暴風域に打ち上げられたのか、結構魚や貝が転がっている。

その中で一番大きな人間ほどもある魚の下半身が、岩の隙間に挟まってピチピチと跳ねていた。

「よし。おいしそうだな。こいつを焼いて食おう」

そう思った俺は、魚の尻尾をつかんでひっぱる。

次の瞬間、尻尾がズルッと外れて、人間の下半身が現れた。

「……尻?」

それを見た俺は目をパチクリとさせる。目の前に現れたものは、どうみても女の尻だった。

「きゃーーーえっち!」

いきなり頬に衝撃を受けて、俺の意識が刈り取られる。

俺が最後にみたのは、怒りの表情を浮かべる金髪美少女だった。


「ううん……」

俺がおきると洞窟のような場所に寝かされていた。周囲には水着のような服をまとった少女たちがいる。

その中から先ほどの美少女が出てきた。

「起きたわね。この痴漢!不審者!」

いきなりあらぬ濡れ衣を着せてくる。

「痴漢ってなんだよ!」

「私の『魚鱗のタイツ』を脱がしたじゃない!変態!」

美少女はプイッと顔を背ける。あれはタイツだったのか。ってわかるわけないだろ!

「誤解だ。俺は食べようとしただけだ」

「みんな!自白したわよ。私のカラダを貪ろうとしたんだって!」

違うって。面倒くさいな。

「これ。メイ。失礼ですよ」

その時、奥から30代ぐらいの美女がやってきた。

「はじめまして。私はウンディーネ族の長、メルディです」

「は、はい。私はドライと申します」

母さんに似た優しげな美女に対して頭を下げる。

「よければ事情を聞かせていただけませんか?」

おだやかに聞かれたので、俺は今までのことを話した。

「ひどい!外の人ってやっぱり野蛮なのね。やっぱり外にでれなくて正解だったわ」

メイと呼ばれた少女は俺の話を聞いて、なぜか怒っていた。

「外に出れない?」

「はい。このスライム島は暴風域に取り囲まれていて、なかなか外から入ることはできません。同様に中から出ることも難しいのです」

メルディは事情を話し始めた。

それによると、彼らは水をあやつることができる『ウンディーネ一族』らしい。

百年前、イスタニア帝国での政争に敗れて、一族皆殺しの危機にあったとき、当時活躍していた海賊キャプテン・ピエールの助けをかりて、スライムが大量に生息していて誰も住んでなかったこの島に隠れたとのことだった。

「なるほど……」

「それにしても、あなたには不思議な親近感を感じますね。よければ事情を教えていただけますか?」

「実は……俺にもわからないんですが、この鱗のおかげで助かったみたいです」

俺は自分の首元の鱗を見せた。

「それは我がウンディーネ一族の証。あなたの母はなんとおっしゃいますか?」

「母の名は……ディーネと申します」

そういった途端、メルディは泣きながら俺を抱きしめた。

「良くぞ帰ってきてくれました。我が甥よ」

「俺があなたの甥……?」

困惑する俺に、メルディは事情を話す。

「この島に、外の世界にあこがれた者がいました。私は止めたのですが、彼女は制止を振り切って島の外に飛び出して」

その少女は嵐の夜に行方不明となり、死んだと思われていたという。

「それが私の妹であなたの母。ディーネです」

メルディは淡々と告げた。

「そんな。まさか……」

「その胸元の『海人鱗』が証拠です」

そういわれて、俺は思わず喉元を押さえる。よく見ると、メイやほかのウンディーネ族にも同じような器官がついていた。

「俺はシルフィールド族だけじゃなくて、ウンディーネ族の血をひいていたのか」

二つの血が合わさった結果、水分を蒸発させるという「気化」なんてしょぼい魔法しかつかえなかったんだな。でもそのおかげで船から投げ出されても生きていられたのか。

複雑な顔をする俺に、メルディさんは笑いかけた。

「それで、ディーネはどこに?あなたと一緒に帰ってきたのでしよう?」

「実は……」

俺は母さんが若くして死んだことを告げると彼女は悲しそうな顔になるが、すぐに気を取り直して俺に告げた。

「ディーネの人生は報われました。こうして『海男(マーマン)』となった甥を生んで連れてくれたのですから。おかえりなさい。我が同胞よ。ここはあなたの故郷です」

こうして、俺は一族に受け入れられたのだった。


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