ダイヤ
「ドライ様。我らが救世主よ。心から感謝いたします」
神殿に新たに作られた玉座の上で、ロッテが礼を言う。彼女の周りには各部族の酋長たちがいて、同じように俺に向かって頭をさげていた。
「ウンバ・ウンババ」
「あなたのおかげでゴブリンたちへの対抗策がわかった。今後ゴブリンの駆除がたやすくなるだろう。偉大なる勇者よ。心から尊敬をささげると言っています」
通訳がウンババ語を翻訳する。酋長たちは笑顔を浮かべて、俺の肩を叩いていた。
「私たちは協議の末、『ガーナ王国』として一つにまとまることになりました。その初代女王として私が就任することになりました。これもあなたのおかげです」
玉座のロッテがそう説明する。俺がきっかけで一つの国が誕生してしまったのか。なんだか誇らしくなるな。
「つきましては、ガーナ王国女王の名において、ドライ・ウンディーネ殿に『名誉酋長』の地位を授けようと思います」
ロッテが合図すると、酋長たちがつけているような首飾りが運ばれてきた。透明な石がふんだんに使われていて美しい。
それを手に取った俺は、思わず動揺してしまった。
「こ、これは……いいんですか?」
「はい。周辺の山で取れる透明な硬い石を紐で結び合わせた飾りであまり価値はないのですが、心をこめて作りました」
おいおい。この石の価値がわかってないのかよ。まあ確かに良く見たら磨きあげられてないからただの石だろうけど、これを北にもっていったら……。
「あ、ありがとうございます」
満面の笑みを浮かべて礼をする俺を、ロッテは首をかしげてみつめていた。
「こほん。それでは名誉酋長となったドライ殿にお願いがあります」
「なんなりとおっしゃってください」
俺はロッテの前に跪く。
「今後もわが国と北方を交易路で結び、鉄や砂糖などを運んでくださいませんでしょうか?」
「この名誉酋長ドライ、全身全霊をもって女王陛下のご信頼にこたえようとおもいます」
俺はうやうやしく一礼するのだった。
「ねえ。いいの?ドライはイシリス国の騎士なんでしょ?ガーナ国の名誉酋長なんかになっちゃって」
帰りの船の中でメイが心配するが、俺は上機嫌だった。
「心配ないって。名誉職みたいなもんだろう。陛下にはちゃんと
伝えておくから。だいたい、名誉酋長って貴族の階級の中でどれに相当するのか説明できる者がいるのか?」
そんなこと、俺にだってわかりはしない。ただロッテ……ガーナ国女王から信頼されているという証になればそれでいいんだ。
「それもそうか」
話を聞いたメイも納得する。
「さあ、イシリス国に凱旋するぞ!」
俺はウネビ号を北に向け、船足を速めた。
行きは周囲を探索しながらゆっくり進んでいたので時間がかかったが、帰りはルートがわかっているので早い。
ガーナを出て一週間後、俺たちは無事首都カイロにたどり着いた。
首都に帰った俺は、陛下に謁見を申し出る。
数日後、ガーナでもらった首飾りを手土産に、俺は王と面談していた。
「ほう。南方の新国家ガーナとな?」
「はっ。わが国に比べれば未開なれど、それなりに面白い物を手に入れられると思います」
俺は首飾りを差し出しながら陛下に申し上げる。それを手に取った陛下の顔色が変わった。
「これは……もしかして?」
「ええ。磨かれていませんが、金剛石の原石かと」
金剛石-ダイヤモンドは磨かれなければただの石である。その研磨には高い技術が必要で、それはガーナにはないものだった。
「ガーナ国には鉄が不足しております。わが国の砂鉄を精錬して剣や鎧をつくって輸出すれば、大きな利益があがるかと」
それを聞いた陛下は笑顔を浮かべた。




