南へと
「だけど、船はどうしようかなぁ」
ムンディーンから徴収した五隻のガレー船があるけど、船を動かすのに人手がかかりすぎる。従事していた奴隷たちはすでに解放してスエズ港の建設作業員として働いているので、いまさら奴隷に戻すわけにはいかない。
そのことを悩んでいたら、アリルが解決法を編み出してくれた。
「ガレー船を無帆船に改造すればいいんだよ」
確かに、無帆船にできれば漕ぎ手がいらなくなるので大幅に必要な人数を節約できる。でもすでにある船を改造なんでできるのか?
俺はそう疑っていたが、アリルに予算を渡して自由に作ってもらった。
「ドライ兄。できたよ!」
一ヵ月後にカイロ港の船体ドッグに赴いた俺たちが見たものは、船体の両脇に多くの水車がつけられた元ガレー船だった。
「なにこれ?」
「ガレー船のオールをはずして、その代わりに水車の輪を取り付けたんだ。歯車によって中の水蒸気機関と連結させているから、帆がなくても動かせることができるよ。マストが最初からないから、モンスーン領域の暴風雨の影響も受けずにスライム島までいけるし」
アリルはドヤ顔で胸をそらす。
「すばらしいですな。これは我が軍の既存の船にも応用できそうです」
そんな声がかけられる。振り向くと、軍務大臣のウランがにこにこと笑っていた。
「へへん。どうだ。ボクは天才だろう」
「ええ。できれば我が軍に参加してほしいぐらいです。技術将校の地位を約束しますよ」
ウラルはにこやかに笑いながら手を差し出すが、アリルは首を振った。
「残念だけど、ボクは将来ドライ兄のお嫁さんになってウンディーネ一族の長になるから、この話はお断りさせてもらうよ」
「こら!アリル!」
横で聞いていたメイがふくれっつらになる。それを見ていたウラルは苦笑して差し出した手を引っ込めた。
「残念ですな。それにしてもドライ殿はうらやましい。若くて美しい娘たちと、自由自在に海を駆け巡って冒険ですか。ああ、私も30歳若かったら、そんな旅に出てみるのに……」
そんなおっさんの羨みを聞き流し、俺は営業をかける。
「これでカイロとウンディーネ領の直通便ができます。ぜひ軍の将兵には休暇に慰安地としてご利用ください」
「ええ。利用させていただきましょう」
ウランや彼の部下はそういって頷くのだった。
「さて。これで領地開発はどうにかなるだろう。いよいよ世界に打ってでるか」
俺はそう気合を入れなおす。世界一の交易商人となって、俺を追放したシルフィールド一族を見返してやるのが俺の夢である。
ウンディーネ領の領主という小さい成功で終わるつもりはなかった。
「それで、どこにいくの?」
「地内海の北側はイスタニア帝国の同盟港でいっぱいだ。アフリカン大陸の西側を回って、南の方にいってみよう」
こうして俺は西側に船を進めるのだった。
二週間後
「なんにもないね」
海岸沿い広がる砂漠を見ながら、つまらなさそうにメイがつぶやく。
アフリカン大陸の沿岸に沿って南下していたが、町らしきものは何もなかった。
「あっつーい」
どうやらこのあたりは温暖を通り越して暑い地方らしく、ウンディーネ族の船員たちはしきりに暑い暑いと不満をもらしている。
「もう我慢できない!」
アリルはセーラー服を脱ぎ捨てると、止める間もなく海に飛び込んだ。
「つめたーい!気持ちいい!」
一人が先陣を切ると、我も我もと下着姿になって海に飛び込む。
うむ。すばらしい光景だが、君たち仕事放棄だよね。
「ドライ兄もおいでよ!」
下着姿になったアリルが誘ってくるので、俺も飛びこもうとしたらメイに肩をがしっと捕まれた。
「あなたには仕事があるでしょ」
「……はい」
俺はしぶしぶ船倉にもどり、仕事を再開させる。
「なんで俺がこんなこと……『気化』」
そう、俺の仕事とは真水を作り出すことである。長期間の航海で水が少なくなってきたので、気化魔法が使える俺が水をつくるしかないのだ。
それはいいんだが、狭い部屋にこもって気化魔法を使っていると暑くてたまらくなる。
「なんで俺が……」
ぶつぶつ良いながら樽の海水に手を触れると、なぜかすごくひんやりしていた。
「冷たい!。よーし」
海水を頭からかぶって遊んでいると、メイにジト目で見られた。
「何しているの?まじめにやって!」
はい。がんばります。




