歓楽街建設
そんな彼らの前に、15歳くらいの子供が現れる。
「本日はよく集まってくれた。私の名はドライ・ウンディーネ。恐れ多くも陛下から卿らとの交渉を任されたものである」
俺はあえて尊大ともいえる態度で名乗った。マフィアたちは多少怒りを感じながらも一礼して迎える。
「卿らを集めたのは他でもない。陛下のご意向をお伝えするためである。だが、その前にひとつ余興を見せよう」
俺がパチンと指をはじくと、ボロをまとった太った男がつれられてくる。彼の足首には奴隷の証である鎖がついていた。
「ムンディーン殿?」
彼らの仲間の一人が無残な姿をさらしていることに、マフィアたちは衝撃を受ける。
「この者は、商人の分際で国家反逆の大罪を犯した。だから全財産没収の上奴隷に落とされたのだ。そしてこれは卿らも他人事ではない」
俺がギロリとにらみ付けると、いろいろと後ろ暗いことがあるマフィアたちは怯えた顔になった。
十分に脅しに効果があると確認した俺は、さらに畳み掛けた。
「今後、王都に娼館や酒場を持つ商人は海上交易を禁止される」
「そんな!それでは私たちの持っている船はどうなるのです」
マフィアたちの一人が声をあげる。彼らにとって裏の商売も大切だが、表の商売も重要な収入源である。それを取り上げられるとなれば大事だった。
「わからぬか?交易を許したことで、たかが平民の商人が国家反逆などだいそれた考えをもつほど財力をもった。そのことが問題なのだ」
「そんな……それじゃ私たちはどうすれば」
それを聞いたマフィアたちは絶望的な顔になる。
それを見て、俺はニヤリと笑った。
「よく聞くがいい。『王都』に歓楽街を持つ商人たちが規制されるということだ」
「と、いうと?」
「王都にお前たちのような胡散臭い連中がいることが目障りだと陛下はおっしゃられておるのだ。つまり、他の土地に移転させれば問題はない」
マフィアたちは、俺の言葉を聴いて考え込む。
「……おっしゃることはわかりますが、では私たちにどこにいけと」
「お前たちさえよければ、我がスエズ領を提供しよう」
俺はもったいぶって提案してやった。
「スエズ領……ですか?あの砂漠しかない土地の。しかも王都から離れていて交通に不便な土地。果たしてそんな所に移転して客が集まるか……?」
不安そうな顔をするマフィアたちに、俺はある物をみせる。それは陛下から下賜された歓楽街の開設許可証だった。
「このように王国のお墨付きもいただいている。また、王都とは定期船を運航する予定だ。一度移転してしまえば堂々と商売ができるということだ。この際王都の歓楽街をすべて売り飛ばして、その資金を元に開発すればよいのではないか?」
「……」
それを見て、マフィアたちはあきらめたような顔をした。
「……わかりました。こうなったら我々の全力を挙げて、スエズ領を一大歓楽街にしてみせます」
「結構」
俺は交渉が成功したことを確信し、腹の中で笑うのだった。
王都の歓楽街の取り壊しとスエズ領への移転は、急ピッチで行われた。貴族たちは大量に売り出された元歓楽街の土地をこの機会にと買いあさり、自分の別邸を立てたり配下の貴族に売りつけたりする。
そしてマフィアたちは俺の子飼いの商人となり、酒場や娼館をスエズ領に移して建設を始める。
そして王都との船による定期便が開始されることになり、その役目は俺が受けもつことになった。




