勝利の宴
「あっはははは、俺たちは自由だ!」
スエズ領はお祭り騒ぎになっている。俺たちはガレー船を接収して、積んでいた荷物をすべて奪った。その中には大量の酒もあったので、協力してくれた奴隷たちにふるまったのである。
「本当、かっこよかったですよ」
「あいつらをやっつけてくれて、胸がすーーっとしました」
解放された奴隷たちにお酌しているのは、ウンディーン一族の女たち。彼女たちは美人が多いので、奴隷たちはメロメロになっていた。
うーむ。ここに酒場を作るのもいいかもな。女たちには向いている仕事かも。
俺がそう思っていると、メイが近寄ってきた。
「お疲れ様。かっこよかったわよ。キャプテン・ドライ」
いつもツンツンしている彼女だったが、今日はどういうわけか優しくお酌してくれる。
「珍しいな。いつも冷たいのに」
「今日は特別。あなたには人の上にたつ長の資質があると思ったの。まさか奴隷たちを寝返らせるとは思わなかった」
メイは上気した顔で褒めてくれる。
「買いかぶりかもしれないぞ」
「それでもいいの。あなたについていけば、私たちウンディーネ一族の未来は明るいわ」
メイは周囲を見渡してにっこりと笑う。俺がカイロから運んできた食料で料理を作り、服を着飾ったウンディーネ一族の女たちは生き生きとしていた。
「それで、次はどうするの?」
「また王都に戻って、事の顛末を王に訴えるさ。一応筋は通しておかないとな。その後はそうだな……ここスエズ港を歓楽街にするのもいいかもな」
俺は奴隷たちのデレデレとした様子を見てそうつぶやく。何もない砂漠を発展させるには、そこに娯楽を置けばいい。人間の本能に根ざした娯楽といえば、女と酒と金だった。
「酒は手に入った。女はたくさんいる。金……つまりギャンブルは、ウネビ船の娯楽室に面白いものがたくさんあるしな」
そう、異世界のニホンとかいう国には独自の文化があったみたいで、いろいろ面白い賭け事を書いた本があった。
「たしか『サイコロ賭博』とか『ハナフダ』『スゴロク』とかだな」
特にサイコロの奇数か偶数があてるゲームは面白い。いろいろイカサマの方法もあるみたいだし。
そんなことを話していると、メイがしなだれかかってきた。
「お、おい」
「うふふ。これからも私たちをよろしくね。その為だったら、私はこの身をあなたに捧げてもいいかも……」
お酒に酔った顔でそんなことを言われると、こっちが困ってしまう。
「い、いいのか?」
俺がそうきくと、メイはこくんと頷いた。か、可愛い。
「そ、それじゃ……」
「あーーーー!メイ姉が抜けがけしている!」
そう叫びながら乱入してきたのは、アリルだった。
俺とメイは顔を真っ赤にして、パッと離れる。
「べ、別に何もしてないぞ」
「そ、そうよ。ちょっとお酒飲んでいただけよ」
そう弁解するも、アリルは納得せず、俺のひざの上に座り込んで尻を股間の上に乗せてきた。
「……やっぱりちょっとおっきくなってる。ずるい」
何をどこで計っているんだ。やめなさい。
「あらあら、いいじゃない。メイちゃんにも覚悟ができたってことで」
ウードさんがにこにこしながら諫めてくれるが、アリルは納得しなかった。
「メイ姉は世界中を旅して王子様をさがすのが夢なんでしょ。だからドライ兄は私のもの!」
そういいながら、すりすりとカラダを摺り寄せてくる。
「ふん。勝手にすれば!」
それを見たメイは、ぷいっと顔を背けて向こうにいってしまった。
「あっ……待って」
俺は引きとめようとしたが、ウードさんに優しくとめられてしまう。
「いいのよ。怒ったメイに下手にちょっかいをかけたらもっと意固地になっちゃうから。嫉妬させておきなさい」
そ、そういうものなのかな?女心はよくわからん。
こうして、最初の勝利の夜は更けていくのだった。




