海戦②
「いけ!」
上半身裸の男たちが、カットラスを振り上げて乗り込もうとしてくる。
それに対して、俺たちウンディーネ一族は落ち着いて迎撃した。
「ハイドロショット!」
周囲の海から海水を持ち上げて、橋を渡ろうとする男たちを放水で狙い撃ちにする。
男たちは足元を水の鞭で打たれ、もんどり打って海に落ちていった。
海に落ちた男たちを救おうと、慌ててボートが下ろされる。
そのボートに向けて、俺は気化魔法をこめた魔石を投げる。
「スチームエクスプローション!」
「ぎゃぁぁぁ!」
ボートはいきなり起こった水蒸気爆発に飲まれ、海底に沈んでいった。
「ぐぬぬ。何をやっている。数で押しつぶせ!」
甲板のムンディーンはがなりたてているが、ただでさえ不安定な海の上で細い板の橋を渡らないと俺たちの船には乗り込めない。
当然、周囲に海で囲まれているこの状況では放水が尽きることはなく、戦闘船員たちはどんどん海に落ちていった。
「助けてくれ!」
ガレー船の周囲には落ちた船員が群がっているが、彼らを助ける暇もない。ムンディーン船団はどんどん戦える船員をうしなっていった。
「これ以上落とされると、船の運航ができなくなります!」
「ぐぬぬぬ」
部下からそう報告を受けたムンディーンは、悔しそうに歯軋りしている。ふとその視線が、下で休んでいる奴隷たちに向いた。
「……やつらの鎖をほどいて、黒船に突っ込ませろ」
「で、ですが彼らは今までずっとオールを漕いできました。まともに戦えるとは思えません」
反対する部下を、ムンディーンはどなりつける。
「鞭で脅して戦わせろ。あんな奴らでも捨て駒にはなるだろう」
こうして奴隷たちは甲板につれてこられるのだった。
その様子を見ていた俺は、勝利を確信する。
「ついに奴らは奴隷にまで頼りだしたか。頃合だな」
そう思った俺は、奴隷たちの足首に巻かれた鎖が解かれたのを見て、彼らに呼びかけた。
「おーい。お前たち。いつまでそんな奴に従うんだ?」
それを聞いた奴隷たちは、最初は無表情で聞き流していた。命令されるままにノロノロと橋を渡ってこっちにこようとする。
「奴らの目をさましてやれ」
「了解!『冷雨』!」
冷たい霧が沸き起こり、奴隷たちの頭上で雨を降らす。冷たい水に洗われた奴隷たちは、はっとした顔になった。
「今が奴隷から解放されるチャンスだぞ!お前たちを脅しつけていた船員は海に落ちてもういない。残虐な主人に反逆しろ!」
俺の言っていることを理解した奴隷たちは、振り返ってムンディーンとその取り巻きたちを見る。
「な、何を言うか!奴隷ども!さっさとそいつを殺してしまえ!さもなければワシが殺すぞ!」
ムンディーンは鞭を甲板に叩きつけて、奴隷たちを威嚇する。彼らは困ったように俺を見た。
「だ、だけど俺たちは丸腰で……」
「武器ならそのへんに落ちているだろ?」
俺は事実を指摘してやる。船員たちが落としたカットラスやナイフ、弓などが甲板中に転がっていた。
「やれ!今こそお前たち自身の力で、自由を取り戻せ!」
俺の煽りを受けて、何人かの奴隷が武器を手にする。そしていっせいにムンディーンや船長たちに襲い掛かっていった。
「き、貴様ら、身分をわきまえろ。いたっ!」
「や、やめろ!奴隷の分際で!やめないと!」
残った船員たちが必死に抵抗するが、もともと奴隷たちのほうが数が多かった上に戦闘員たちは海に落ちている。
数時間ほどでガレー船は制圧され、ムンディーンと船員たちは捕らえられてしまうのだった。




