海戦 ①
俺たちはムンディーンたちの船を引き寄せながら、スエズ港が見える所まで誘導する。ここに来るまで5日ほどかかっていた。
「しかし、がんばるな」
こっちにまで鞭打たれる奴隷の悲鳴が聞こえてくる。
あんなに痛めつけて大丈夫かね?奴らはいざという時の戦力になると思って奴隷でオールをこぐガレー船にしたみたいだが、人間である以上昼夜問わず酷使されつづければ疲れて役立たずになっているはずだ。
「そろそろいいぞ。停船!」
ウネビ号はその場を旋回して、船首をムンディーン船団に向ける。その舳先に立って呼びかけてみた。
「俺たちをつけてくる船団に告げる。ここはすでにウンディーネ領に入っている。領主であるドライ・ウンディーネの名において、貴船たちの入港を認めない。すみやかに立ち去るがいい」
領主としての威厳をこめて警告する。一応形式は守らないとな。これで奴らはこの港にいられなくなったはずだ。イシリス国の法律に従う気があるなら。
俺の警告に帰ってきたのは嘲笑だった。
「何が領主だ。小僧のくせに」
「おとなしく降伏しろ!そうしたら命だけは助けてやるぞ」
ムンディーン船団の船員たちはそうはやし立てる。その中から太った男が出てきた。
「いいだろう。あんな砂漠しかない港には興味ないからな。その代わりその黒船と女をよこせ」
無茶な要求をしてきたのは、ムンディーンだった。
「ほう。この船を手に入れてどうするんだ?」
「決まっている。イシリス王国に未来はない。やがてイスタニア帝国に呑み込まれて滅亡するだろう。だから今のうちに、その船と女どもを手土産に帝国に亡命するのだ。そうすれば、ワシは貴族になれるだろう」
ムンディーンは嬉々として勝手な夢を話し始めた。
「つまり、俺だけじゃなくてイシリス王国にも反逆する意思があるということだな」
「それがどうした!」
それを確認して、俺はメイに合図する。
「ハイドロショット!頭を冷やしなさい」
メイの手からでた水魔法の放水が、ムンディーンとその周囲の船員たちをなぎ倒した。
「くそっ!おのれ!」
水浸しになった甲板て、ムンディーンは鬼の顔になる。
「全船に命令する。乗り込んで皆殺にしろ!」
その命令にしたがい、五隻のガレー船はウネビ号を取り込んだ。
巨大な黒い船を、木造のガレー船が取り囲んでいる。それは大きな熊を駆り立てる猟犬の群れに見えた。
「碇を下ろせ!」
カレー船はウネビ号を包囲すると、流されないようにその場に碇を下ろして停泊する。
「鉤橋をかけろ」
それから先が鉤爪になっている板の橋を取り出して、ウネビ号の甲板柵に引っ掛けた。




