ムンディーン
東のスエズ砂漠に向けて出航して数日間、イシリス王国の巡回船がみえなくなった海域で、俺たちは後をついてくる複数の船に気づいた。
「船影確認。中型のガレー船みたい。」
見張りをしていたアリルから報告が入る。
「紋章を確認できるか?」
「だめ。何もつけてないみたい」
ということは海賊船か。厄介だな。
俺はそう思ってしまうが、メイたちは余裕だった。
「大丈夫だよ。私たちにはこれがあるもの。あーっ。早く発射したい」
メイは船首砲を撫でながら、うずうずした様子だった。
「ふふふ。海の上で私たちを襲おうなんて可愛い子たちには、お仕置きしなければなりませんね」
ウードさんも余裕たっぷりなしぐさで、杖を用意して船員に配っている。
そうか。そもそも周囲にいくらでも水がある海の上で、水の一族にかなうわけがなもんな。
そう思った俺は、ついてくる船を見つめながらニヤリと笑った。
「進路そのまま。速度を落として、奴らに追いつかれないギリギリの距離を保て」
俺の指示を聞いて、メイが不満そうな顔をする。
「えー?反転して海の藻屑にしようよ」
「そんなもったいないことしてどうするんだ?いいから」
俺はなんとかメイをなだめて、警戒態勢をとらせる。
「ドライ兄、どうするつもり?」
「あの船たちは高く売れそうだ。捕まえて売り飛ばそう」
見たところ、状態のいいガレー船みたいだ。五隻もあれば金貨5万枚にはなりそうだな。
「スエズ領まで連れて行くぞ。追いつかれないようにうまく誘導するんだ」
俺の命令を受けて、ウネビ号はゆっくりと東に向けて進んでいった。
ガレー船
「ムンディーン様。あれが噂の黒船です」
私は報告を受けて甲板に出てみる。まるで鯨のように黒い肌をした巨大な船が悠然と航行していた。
「ぐふふ。あんな小僧にはもったいない」
調べたところ、あの船は100年前に失われた伝説の無帆船だ。捕まえてイスタニア帝国に売り飛ばせば、金貨100万枚はくだらない価値がある。
それに加えて、美女ばかりといわれる幻の水の一族-ウンディーネたち。
奴らは現れるやいなや、どんな手をつかったのかイシリス王国の庇護を受けてしまったが、そんなのは私には関係ない。
この二つを手土産にもっていけば、私はイスタニア帝国で念願の貴族になれるだろう。
そう思った私は全財産をつぎ込んで船団を組織し、奴らを追いかけた。
そうしてあと少しで手が届く所まで来ているのだが、なぜか奴らにおいつけない。
「もっと船を早めろ!奴隷に鞭を当てろ」
私に命令で、船員たちは奴隷を痛めつけてオールをこぐ力を早めた。




