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気化魔法で世海征服  作者: 大沢雅紀
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船長

不安に思った俺たちは、あせりながら隣にある食料や日用品を取り扱う卸取引所に向かうと、意外なことに歓迎されてしまった。

「あんたがうわさの「キャプテン・ドライ」かい?ちょっと色をつけて割引してやるから、大量に買ってくんな」

商人の仕入れ向けの大口取引を取り扱う卸売屋は、そういって好意的な笑顔を向けてくる。

「俺のことを知っているのか?」

「もちろん。最新鋭の黒船を操って、伝説のモンスターを倒してお姫様を救った勇者で騎士に叙せられたってね。いいねえ。最近そういうスカっとした話がなかったからな」

どうやら単純に英雄視されているみたいだ。ギガントタートルを倒したのはどちらかといえば船や魔石のおかげで、俺はたいしたことやってないんだがな。

だが、名声は商売をしていく上に有利になる。ここは乗っかっておくか。

「そうか。これからは商人としてもバンバン稼いでいこうと思うんで協力してくれ」

「あいよ。今後ともごひいきに」

食料や日用品が大量に売れてご機嫌な親父に、ムンディーン商会のことを聞いてみた。

「そういえば、隣の酒の取引所じゃ断られてしまったんだ。どうやら酒場でムンディーン商会ともめたことが原因みたいなんだが、奴らについて教えてくれないか?」

「やつらか。あんまりいい噂は聞かないなぁ」

親父によると、ムンディーン商会は薬や酒の取り扱いだけにとどまらず、奴隷売買や娼館の経営など裏の商売も手広く扱っているらしかった。

「あんたもあんまり揉めないほうがいいかもな。下手に敵対すると、

どんな嫌がらせされるかわかったもんじゃねえぜ」

「忠告ありがとう」

俺は礼を言って取引所を出た後、軍務省に向かった。

「こんにちは。御用聞きにまいりました」

「おお。勇者ドライ殿。いらっしゃい」

わざわざ奥から軍務大臣であるウランが来て、執務室に招かれた。

「いや。あのヨードチンキとかいう薬は大変効きますね。しかも従来の薬より安くで使いやすい。耐火ジュルもこれからのイスタニア帝国の炎の一族との戦いには必要だ。あればあるだけ引き取りますよ。それと……」

「わかっています。取引の利益の3%は協力金という形でウラン様の懐に……」

大人同士の会話をした後、ウランのほうから話題をもちかけてきた。

「そうそう。ムンディーンとかいう商人ともめているんですって?」

情報が早いな。

「それをどこから?」

俺はヨードチンキや耐火ジェルの注文書を受け取りながら聞いてみた。

「いや、あいつの方からやってきて、軍であなたたちの薬の取り扱いをやめるようにいってましたよ。これからはムンディーン商会を通してくれって」

なんだよそれ。そもそも奴に薬を卸すって話は断ったはずなんだが。

「軍を味方に引き入れれば、ドライ殿に圧力を掛けられるとおもったんでしょうね」

そういうウランの顔には、軽蔑が表れていた。

「それで、これからは奴を通すことになるんですか?」

俺がおそるおそる聞くと、ウランは笑って首を振った。

「そんな話に乗るわけないじゃないですか。わざわざあいつを仲介にからませる意味がない。あなたたちからの搾取を増やしてこちらへのキックバックを増やすからなんていってましたけど、ドライ殿がへそを曲げれば薬の取り扱い自体ができなくなるんですから」

ニヤリと笑いながら否定する。どうやらウラン大臣は物事の道理がわかっている人みたいだな。ちゃんと直接キックバックを渡すことを先に提案していてよかった。

「それじゃ……」

「ええ。これからも直接取引をお願いします」

俺はウランと握手して、軍務省を出る。

用事をすませて、俺たちはカイロから出航した。


「お酒……」

船の舳先では、アリルが座り込んで残念そうにカイロの方角を見つめている。

「なんだ?そんなに酒が買えなかったことが残念だったのか?」

「うん。だってウンディーネ領でも飲みたかったし」

アリルがいじけているので、かわいそうに思った。

「わかったよ。次にカイロに行ったときに何とかしてみせるから」

俺がそういうと、アリルはパッと笑顔を浮かべた。

「本当?」

「ああ、本当だ」

「やったー。だからドライ兄大好き!」

アリルに抱きつかれてしまう。

ちょっと鼻の下を伸ばしていると、冷たい声とからかうような声が後ろから聞こえてきた。

「ちょっと。何しているの?」

「あらあら。これは先を越されちゃったかな?」

振り返ると、不機嫌なメイと面白そうな顔をしているウードさんがいた。

「べ、別に。今もめているムンディーン商会とのことも、何とか解決して酒を手に入れるって話をしていただけだよ」

「どうだか」

メイはプイッとそっぽを向き、ウードさんはくすくすと笑っている。

「うふふ。頼もしいわね。それで、これからどうするの?」

「まず、あのムンディーンとその取り巻きの情報を集める。よかったじゃないか。あいつからちょっかいを掛けて来てくれたから、少なくとも誰と敵対すべきかわかったしな」

俺はそういって胸を張る。

「やつらをやっつければ、あいつらの商売も奪えるかもしれない。そうなったら俺たちはもっと大きくなれるんだ」

「さっすがドライ様!頼もしい」

それを聞いていた船員たちから、キャーという歓声が沸きあがった。

「ほんと、口先だけは大きいことを言うわね」

メイは呆れているが、船長ってそういうもんなんだ。消極的で保守的な船長なんて不安で誰もついていきたがらないだろう?

ホラでもいいからみんなに明るい未来を見せて、強引にでも引っ張っていく。これが俺が船の一族であるシルフィールド家の元後継者として学んだことだった。

……やつらから学んだことが役にたつなんて、皮肉だけどな。

「よし。当面の仮想敵はムンディーン商会の制覇だ」

俺はそう目標を掲げて、船員たちを鼓舞した。

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