騎士叙任
「「国」を与えよとは面白い要求だな。我が王位を求むか?ということは王女の婿にでもなりたいのか?」
王はちょっと面白そうに聞いてくる。
「ち、父上!」
それを聞いたクレオは顔を真っ赤にしていた。あれ?言い方を間違ったかな。
「いえ。そういう意味ではありません」
俺がきっぱりと否定すると、なぜか王女は俺を睨んできた。
「どういう意味じゃ?ワラワが気に入らぬともうすか?」
そうじゃないよ。頼むから黙っていてくれ。
「いえ。私ごとき卑賎な身、殿下のような美しい女性はもったいのうございます。そのような畏れ多いことではございません」
それを聞いて、王女はうれしそうな顔をしてひきさがった。
「ほう。では国を所望とは、どういう意味かな?」
「はっ。今の私は生家を追放された身。運よく母の一族であるウンディーネ一族と合流して船を手に入れましたが、所属する国すらない根無し草。このままでは生きていくことすらできません」
俺の言葉を、イシリス王は黙って聞いていた。
「ですので、このたびの恩賞として、「国籍」をいただきとう存じます。我々をイシリス国に迎え入れていただければ、陛下に絶対の忠誠をささげさせていただきます」
俺の言葉を聴いた貴族たちは、水を打ったように静まり返っていた。
「なるほど。亡命したいというわけですな」
「我が国は元々多くの民族が共存する多民族国家。水の一族が加わってくれれば、侵攻を深めているイスタニア帝国に対抗できるかもしれません」
貴族たちからも賛成の声が上がる。
「よかろう。卿に「ウンディーネ」の姓とイシリス国騎士爵を与えよう。我が国に尽くすがいい」
こうして、俺たちは正式にイシリス王国の民になることができたのだった。
「さて、ウンディーネ卿よ」
「はっ」
俺は騎士の礼を取って、王の前に跪く。
「最近、イスタニア帝国の船が我が商船を襲い、交易に支障が出ておる。やつらは「風」の力を使って海上を自由自在に動きまわるので、わが国が誇る艦隊も捕らえきれずに困っておる」
王は困りきった顔で最近の海上事情を説明する。
「卿の持つ黒船は、奴ら帝国とは違った形で風に関係なく航海できるようじゃ。黒船をゆずってはもらえまいか?その代わりに領地を下賜しよう」
そうきたか。なかなか強かな国王だな。
しかし、今の段階ではこの取引は飲めない。ウネビ号は俺たちの切り札であり、これからウンディーネ一族の飯の種を稼ぐための大事な資産である。それを失ったら、辺境の領地におしこめられて一生貧乏暮らし確定である。
そう思った俺は、交渉にでることにした。
「光栄なことでございます。しかし、あの黒船-ウネビ号は特殊な構造をしておりまして、今のままお引渡しをした所で運用に支障がでるでしょう」
なるべく相手のプライドを傷つけない言い方で、申し出を断る。
「そこでご提案です。我が一族から技術と設計図を提供させていただきます。同じ構造を持つ船を一からご建造なされたらいかがでしょうか?」
「ふむ……」
俺の提案に、イシリス王は考え込んだ。
まあこの提案は呑むだろう。わけのわからない船一隻を軍に組み込んだって高が知れている。それより技術をものにしたほうが、はるかに国益にかなうもんな。
「よかろう。技術提供と引き換えにわが国の東方「スエズ砂漠」一帯を領地として下賜しよう。それと我が同盟港に対する交易許可とイスタニア帝国船に対する私掠許可も出そう」
交易や私掠の許可する一方で、何もない砂漠を領地として下賜するか。稼いだ金で発展させてみろ。それができなければ飼い殺しってわけだな。
まあこれくらい有能じゃないと逆に不安になる。どうやらイシリス王はイスタニア帝国に対抗できる人物みたいだ。
「勅命、謹んでお受けいたします」
俺たちは王の前でうやうやしく跪く。こうして、しばらくカイロに滞在することになるのだった。




