イシリス国
「なんじゃあこれは!」
甲板に王女の声が響き渡る。イシリス船の横にはそれよりはるかに大きな亀の甲羅が浮かんでいた。
「ほ、ほんとうにこんな巨大なモンスターを倒したのか?」
「ええ。彼女たちにも協力してもらって」
俺は甲羅を曳航している鉄の船を指差す。甲板の上にいたアリルとウードさんが手を振ってきた。
俺が合図すると、鉄の筒から砲弾が飛び出し、はるか先に水柱を立てる。それを見て、王女も信じる気になったみたいだった。
「勇者ドライ殿。失礼した。ぜひわが国に来て、父上に会ってはいただけないだろうか?」
「ご招待ありがたくお受けいたします」
こうして、俺たちは南のイシリス国に行くことになるのだった。
イシリス王国首都カイロについた俺たちは、住民の大歓迎を受けた。
「すげえ!伝説のギガントタートルを倒したんだって」
港にはギガンドタートルの甲羅も曳航されているので、俺たちが倒したことは誰も疑ってなかった。
「鉄の黒船だ!」
「帆がないぞ。どうやって進むんだ?」
町の人は俺たちのウネビ号を見て騒いでいる。しばらく待っていると、城から豪華な馬車がやってきた。
「勇者ドライ殿。お待たせしました。陛下がお待ちです」
俺はウンディーネ族の代表としてメイ・アリル・ウードさんを伴い、馬車に乗り込む。
城につくと、貴族たちが立ち並ぶ豪華な謁見の間に通された。
玉座には40代くらいの威厳のある男性が座っている。
俺たちは彼の前にうやうやしく跪いた。
「卿が我が娘クレオをギガントタートルから救ってくれた、ドライ・シルフィールド殿か?」
おだやかな声で呼びかけられると、俺は顔を上げて答える。
「恐れながら申し上げます。私はとある事情で生家を追放された身。現在では姓を無くした、ただのドライでございます」
「ほう。面白い。卿のような勇者を追放するとは、イスタニア帝国もいよいよ斜陽の時代を迎えたとみえる」
イシリス王は薄く笑う。
「いずれにしろ、卿は王女を救った恩人じゃ。何か褒美を与えねばならん。なにがよいか?」
来たぞ。ここで金銭とか財宝とか要求するのもひとつの手だけど、俺はもっと将来の為になりそうな報酬を考えていた。
「では、お言葉に甘えてひとつ」
「うむ」
イシリス王と貴族たちは俺の言葉にじっと聞き入る。
「われら、放浪の一族に『国』をお与えくださいませんでしょうか?」
俺の言葉を聴いた貴族たちがざわめいた。




