ギガントタートル
島を少し離れると、暴風雨が襲ってきた。激しい雨と風で、船体がギシギシと音を立てる。
「怖い!」
「だ、大丈夫だよ。この船にマストはついてないから、風に押し倒されることはないから」
抱きついてくるメイを慰めながら必死に舵をにぎる。
ウネビ号は風に吹かれながらも、帆船とは比べ物にならない耐久力を発揮してくれて、しばらくしたら暴風域から脱出できた。
「これでしばらくはスライム島ともお別れね」
ウードさんが後方の島影を見ながら、切なそうにつぶやく。
「ああ。だけどたぶんまた来ることになるよ」
俺はそういって、ウンディーネたちを慰めた。
「なぜそう思うの?」
「俺たちは今のところ、どこの国にも属してない流浪の存在だ。安心して寄航できる港はスライム島しかない。しばらくはその周辺を拠点にして、商売ができる港を広げるしかない」
俺の言葉に、メイたちも納得する。
「それで、キャプテン・ドライ。どこにいくの?」
メイが聞いてくる。
「そうだな。村でウンディーネ一族が作っていた薬は売れそうだ。まず南大陸のイシリス王国首都、カイロを目指そう」
俺は南に舵をきる。ウネビ号は順調に航海を続け、イシリス王国の近くまでやってきた。
「前方に船影を確認!」
元マストだった柱の上で、水魔法を使ってレンズを作り周囲を監視していたウードさんから警告が入る。
「どこの国の船だ?」
「ちょっと待ってね。確認してみるから」
ウードさんは手元の資料を確認する。俺は彼女にすべての国や貴族の紋章を絵に描いて渡していた。それを見れば、どこに属している船かわかる。
「イシリス王国のフリゲート船よ。それを追いかけているのは……船なのかしら?それともクジラ?」
それを聞いた俺に緊張が走る。フリゲート船は中型の高速船。それを追いかけることができるということは……
「様子はどうだ?」
「フリゲート船は必死に逃げようとしているけど、もう一方のほうが早いわ」
やばいな。もしかして。
「あ、追いつかれた。ええっ?な、なにあれ?大きな亀?」
やっぱりな。ウードさんが船だと思ったのは、海の覇者とよばれる魔物。ギガントタートルだ。
このモンスターは亀のくせに動きが早く、船を沈めて乗っている人間をくらい尽くす。しかも硬い甲羅に覆われているので、どんな武器や魔法も使えないという伝説のモンスターだ。




