あ
目の前で、私の書いた手紙が、ビリビリに破られて、風に舞った。
もはや文字の羅列など無視された、その紙の破片たちがクルリクルリと踊り狂う様には、感動すら覚える。
ホッと、ため息をつきそうになるのを堪えて、前を見つめた。
そこには、今しがた手紙を散り散りにした、蛙が座っている。
「な、直してよ、私の手紙」
「ふん、分かったとも」
蛙は、苦しげに何かを吐き出した。
受け取ってみると、それはどうやら本当に私の書いた手紙のようだった。
「あれ、でも……」
前を向き直ってみる。しかし、ちぎれた紙はもうなくなっていた。
「不思議なことってあるものね」
「あるものだよ」
蛙も頷く。
私は礼を言って、こそこそ階段を駆けて、屋上へ上がった。
そこで、顔を紅潮させたまま、手紙を広げる。
『美希ちゃん
元気ですか。体は大事にしてますか。勉強はほどほどに、してますか。スルメイカを見て泣くことはありませんか。万事大丈夫でしょうね。あなたはそうなのでしょう。が、私はそうではありません。時々、自分が惨めな雑巾のように感じます。あの、学校の雑巾かけに吊るされた、牛乳臭い、黒ずんだ、カピカピに固まった、あれです。あれは立派ですね。もしかしたら私よりずっと尊いかもしれない。あんなに忘れ去られやすくて、毛嫌いされて、それでも毎日のように使われる道具って、他にないでしょう?私はあのような姿を目指すべきでしょうか。あるいは、別の道へ進む?それはどこ?ああ、あなたには全て分かっているのでしょう。なのに、私の目の前は未だ真っ暗です。この違いは、天と地が生まれたのと同じように、必然に、できてしまった溝なのです。それが、私とあなたの差です。だから、私は怖い。自分があなたと違うことが、怖い。いっそ、あなたを殺してしまいたい。それもできないから辛い。どくどくと波打つ血脈を、この手で断ち切ってやりたいのに、動くことができない。これを読んでも、あなたは一笑に付すだけでしょう。ああ、ああ!どうしてこんなことだけがはっきりした確信を持って私に宿っているのか!他のどの問いにも答えられないで、しかしあなたが取り合ってくれないことだけは明白なのです!……私は、あなたが嫌いです。それでいて、こうして連絡を取ろうとしている。こういう自分って、なんなのでしょうね。ただの寂しがり屋なら、まだ救いようもあったのかもしれませんが、私はこの通りひねくれていて、もうどうしようもないのです。あなたはこの手紙を読了すると、すぐに別のことへ関心が移るのでしょう。こっちの気も知らないで。私なんか、あなたが山へ行ったと聞けば、さめざめとその光景を頭に描き、あなたが海へ行ったと知れば、あの冷たい水の感触を思い出すのです。だから、あなたとはすれ違う。どうしてもコンタクトが取れないでいる。それに満足している自分さえ……、そう、今の空は秋空に見えますね。みんな消えてしまえばいいのに。
美希より』