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8話 男爵令嬢は、違いを知る

 今日こそ、父上にお聞きしますの。


「ちーえ、ちーえ」

「セーラ? 抱っこかな?」


 抱っこなんて、いりませんの。

 セーラの質問に答えて欲しいのですわ。


「あれ、抱っこ違う?」

「ちーえ、ちーえ、おひめちゃまなんでちゅの?」

「え? 父上は姫君じゃないよ」

「ちがいまちゅの!」

「うん、そう。父上は王子だからね」

「ちがいまちゅの!」


 父上は、セーラの言うことをわかってくれませんの。


「ちーえ、きらいでちゅわ!」

「えっ! セーラ、今、なんて言った?」

「きらいでちゅわ!」

「アグネス、アグネス!」

「なんですか、あなた。大きな声を出して」

「セーラが、セーラが、嫌いって!」


 あら、母上が来ましたの。母上に、お聞きしますわ。


「セーラ、どうしたのですか?」

「はーえ、はーえ、おひめちゃまなんでちゅの?」

「姫君ですか? 母上は、姫君ではありませんよ」

「ちがいまちゅの!」

「はい、違います。姫は、広い意味で高貴な女性を呼ぶ言葉ですからね。

昔は、未婚の女性……ご高齢から生まれたての赤子まで、幅広い高貴な女性を『姫』と呼んでいました」


 セーラの母上は、とても物知りですわ。父上よりも、セーラの気持ちをわかってくれます♪


「はーえ、おひめちゃまちがいまちゅの?」

「はい、母上は姫君では、ありません。姫君は、貴族の女性をさす言葉ですからね。

今では高貴な若い女性、未婚の貴族の女性をさす言葉に変わっています」

「ちぇーりゃ、おひめちゃまちがいまちゅの?」

「半分はそうで、半分は違います」

「ちぇーりゃ、ちがいまちゅの?」

「はい、高貴な女性という意味では、セーラも姫君です。

ですが、王族と言う意味では、セーラは王女です。貴族ではないので、姫君ではありません」

「ちぇーりゃ、おーちょちょ、にゃーいたー!」

「セーラ、舌をかんだんだね? 父上が治してあげるから泣かないで

ほら、口を開けて。うん、これでよし」


 王女さまの言葉は、セーラには言いにくいですわ。お姫さまの方が簡単ですの。


「セーラは、おバカさんだね。ゆっくり話さないからだよ」

「……ちーえ、きらいでちゅわ!」

「なんで? 父上、治してあげたよ!」


 治してくれたことには、感謝しておりますわ。

 ですが、それ以上に、嫌なことを言う父上は嫌いですわ!


「……あなた。あなたは本当に、女心がわからない方ですね」

「んー、まあね。私は、この国の王女を死なせた男だからね」

「……そうでしたね。あなたは、王女を助けられませんでしたね。

けれども、私はあなたに助けられたから、今、ここに居ます。

あなたは、私の命の恩人です。しっかりしてください」


 父上と母上は、難しいお話をなさいますの。セーラ、ちっともわかりませんわ。


「はーえ、はーえ! ちゃーおひめちゃまも、おーちょ……ちょちゃま?」

「はい、ジャンヌ姫君も、正式には王女ですね。

王子、王女と言うのは、長である王の子供だから、王子、王女なのです」

「だけど、今のフォーサイス王国は、王族でも無い者が、王族を名乗っているからね。親は、どんな教育をしてるんだか。

シャルル王子とジャンヌ王女の教育権を、もぎ取って正解だよ。

同盟を盾に、うちの子供たちと一緒に学ばせてるから、獣人に対する偏見も少ないはずだ」


 セーラ、シャルル王子さまとジャンヌお姫さまと一緒に勉強するのは、楽しいですの♪


「あなた。イーブとセーラは、獣人王国での王位継承権は、保持していますよね?」

「うん、私の母上が第一王女だからね。私も王子だし、私の子供たちも王族だよ。

君も知ってるのに、なんで聞くの?」

「獣人王国へ行ってからの、身の振り方を考える必要がありますので。

住む場所は、どうなりますか?」

「王宮は、あり得ない。獣人は血の気が多いから、子供たちが危険だよ。

フォーサイス王国に近い、白猫族領地の一角になるかな?

なるべく、フォーサイス王国に近い所にしてもらうよ」

「分かりました」


 父上と母上が、悲しそうな顔をしておりますわ。

 どうしたんですの?


「子供たちに、王族の定義は教えたのですか?」

「うん、初代王の認めた直系だけが王族。

降嫁などで直系から離れた場合は、直系王族を起点に二等親って。

フォーサイスも、獣人王国も、定義は共通だからね。

うちを引き合いに出して教えたら、納得してもらえたよ」

「確めておきましょう。セーラ、一等親と二等親の違いは、分かりますか?」

「にゃあ♪ ちーえ、はーえ、いっとーちんでちゅの。

おじーちゃま、おばーちゃま、あにゃー、にとーちんでちゅの」

「正解です」


 セーラ、覚えておりますわ。セーラのおばあさまは王女なので、孫の兄上は王子で、セーラは王女ですの。


「セーラは六つなのに、頭がいいですね。

普通なら十才前後にならないと、習わないのですが」

「人間の頭が悪いんだって。

シャルル王子はセーラと同じだし、ジャンヌ王女はセーラが教えてるくらいだし。

イーブは、もう両国の憲法を暗記してしまって、私が法律を教えているっていうのにさ」

「……あなた。それは、人間の私に対する侮辱ですか?」

「いやいや、いやいや、侮辱のつもりはないよ!」

「では、名誉毀損の方ですか?」

「違う、違う、違うって! ごめん、アグネス、機嫌直して!」


 父上、母上を怒らせましたわ。

 大好きな母上をいじめるなんて、許せませんの!


「ちーえ!」

「なにかな、セーラ」

「ちーえ、はーえ、いじめるだめでちゅの! ちーえ、だいきらいでちゅわ!」

「だ、だ、大嫌い!?」

「さすが、セーラは、女の子ですね。母上の味方ですか。嬉しいです」

「セーラ! 父上は、セーラが大好きなんだよ!」

「ちぇーりゃ、はーえ、だいちゅきでちゅの♪ ちーえ、だいきらいでちゅわ!」

「セーラ、アグネス、ごめんてば!」


 父上が謝っても、許せませんの! 


「いいですか、セーラ、男性は顔ではありません。頭と性格で選びなさい。

父上のような唐変木ではなく、思いやりのある方を選びなさい」

「あいでちゅの」

「あのさ、王族として生まれたセーラは、結婚相手を自分で選ぶことはできないよ。

血筋を残すことが、王族の義務だからね。王族に、自由意志なんて存在しない。

とくに王女なんて、政治を円滑にする駒にしか過ぎない」

「あなた、なんてことを言うのですか!」

「アグネス、私たちは王族だ。理解できるよね?」

「それは、そうですが……セーラは、王族として生まれたことを、後悔する日が来ますよ」

「……そうだね。昔、私に嫁いだ、この国の王女は嘆き悲しんでいたから。

セーラ、せめて、父上の選んだ男性に、嫁ぐんだ。いいね?」

「にゃ?」


 どうしましたの?

 父上と母上は、とても悲しそうに見えましたわ。

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