33話 世界の反逆者は、戦局を読み間違える
俺は、目の前の状況を認めたくなかった。こちらの砲撃が、巨大な火球が、リンゴがすりおろされるように、消されていく様子を。
「大将、こちらの攻撃が打ち消されていきます」
「わかっている! あの小型の箱舟は見たことないと思っていたが、最新の防御箱舟か」
「父上、攻撃が効いていないようですが……防御箱舟とは、なんですか?」
息子が、宝珠を抱えて戻ってきていた。俺の息子は、防御箱舟を知らないのか?
ルイは、魔術の才能はあるが、武術のことはからきしだからな。このままでは、我が栄えあるモンフォール将軍家が絶えてしまう。
将来の孫に、俺の武術をすべて教え込むくらいの気概でおらんと。息子には、魔術の才能のためとはいえ、忌々しいフォーサイスの血を引かせてしまったからな。
次は、帝国の濃い血筋が必要だ。早く、フォーサイスの血を薄めないと。ルイに嫁が必要だ。
そうだな、嫁は……アレクサンダー皇子の娘、カタリナ皇女がふさわしいか。白い子猫を連れ帰るのだ、王家と親戚になるくらいの功績は望めるだろう。
「父上? 作戦をお考えでしたか? くだらない質問をして、申し訳ありません」
「いや、気にするな。お前に軍の知識がないことを失念していた。獣どもが使う、盾状の魔道具を備えた小型箱舟のことだ。
獣らしく、西は内部紛争が続く国だ。西の王国軍の箱舟の中で、真っ先に武装改良される船のだ。
あれを見るに、つい最近も、形が変わったようだ。獣は不器用だから、船の形をおかしな風に作ることが多い」
「真っ先なのですか?」
「そうだ。西では最も、出撃回数が多いはずなのだが、船の形が良く変わり、入手できる情報が少ない。
分かっているのは速度と、防御を最優先に改造していること。先行して先陣を切ったり、大型箱舟を守るのが主な任務だからな」
「父上、この船もですか?」
「ちがう! わが同志たちの乗る船は、外見と内装こそフォーサイス風にしているが、内部は我ら帝国の最新鋭の技術だ。我らの船は不沈艦隊、脳筋の獣ごときの船と一緒にするな!」
「申し訳ありません。ところで、フォーサイス風なのは……フォーサイスの偽王と猫を欺くためですね?」
「そうだ」
ルイは説明すれば、理解は早い。頭脳派だからな。俺が戦術を教え込めば、将来、帝国軍の参謀として活躍できるだろう。
カタリナ皇女を嫁に貰い、孫ができれば、魔術も使える将来の将軍として、モンフォール家の繁栄は約束されたも同然だ。
「大将、第三艦隊の艦長より、通信が入っています」
「第三艦隊? 帝国に先に向かったはずだが?」
「いえ、我らを迎えに来ているようです」
「迎え? こんなときに? 通信を回せ」
「御意」
第三艦隊が迎え? 何をしているんだ?
「なんだ、迎えなど命令してないぞ。先に陛下のもとへ向かえと言っただろう!」
「いえ、第二副師団長の命令です。獣が邪魔をするかもしれないので援護に向かい、命をかけてお守りしろとのことです。第二と第六艦隊は、先に皇帝陛下のもとへ向かわれました」
「命をかけてか……現在地は?」
「もうすぐルワール領に入ります」
「よし、領内に入った所で待て。合流する。全艦隊、速度を上げて移動せよ。陣形は保ったままだ。獣どもを誘い込み、合流地点で粉砕する!」
「御意!」
援軍が来たか。大型箱舟五艘に、援軍が三艘。獣の小型二艘など、敵ではないな。
フォーサイスの偽王への見せしめだ。帝国に反抗する者の末路を、知るがいい。
●冒頭の連合軍の黒い板について補足
・ドワーフ西国の親分(国王)の作った、守護結界の魔道具(32話参照)。親分の魔力のみで動いており、他の者たちは魔力と宝珠を温存している。
・反乱軍は、ドワーフ西国の協力があることを、まだ知らない。黒い板は獣人王国の魔道具で、獣人たちが少ない魔力をつぎ込んで、必死で展開していると思っている。




