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29話 騎士団長は、青い聖剣を受け継ぐ 2

 結論から言うと、ノアに連れられていった、空の旅は面白かった。

 箱舟部隊出身としては、空を移動するのは、気持ちがいい。


 箱舟に到着したあとは、あっという間に事が進んだ。

 驚いた顔の第二師団の臨時副師団長と再会。お互い老けたと、笑いあった後、聖剣とノアの紹介をした。

 あいつは俺や息子の騎士の叙任の儀で、色あせた聖剣を見てる。色鮮やかな聖剣を見て、すぐに納得してくれた。

 古参騎士は、俺の騎士団長就任を祝ってくれるし、話も早い。


 若手騎士連中は、しばらくノアと口喧嘩をして、甲板で戦い始めた。

 最近の若者は、血の気が多くて困るな。実力を見極める機会として、黙認したが。 

 素手のノアにかなわず、皆、叩き伏せられた。どうも東の者は、体術に優れるらしい。

 それでも反抗する奴らは、青色魔法で箱舟の外に引きずり出され、一人空中浮遊を体験させられる羽目に。


 空中浮遊は楽しいぞと古参騎士たちと笑っていたら、若手連中は泣き出した。

 最近の若者は、たるんでいる。なっとらん。

 もう少し、訓練内容を考える必要がありそうだ。


 そんなこんなで、ひと悶着も収まり、速度を上げた箱舟部隊はルワール地方を目指していた。

 甲板の先頭で前方を睨んでいると、後ろで青の理を操っていたノアが話しかけてきた。


「おい、マイケル。さっきしまった剣、世界の理から呼び出しておけ。青の理が、ひどく騒がしい。

どうも爺さんの作った剣は、戦うことを望んでいるようだ」

「剣が望む?」

「そうだ。この先にある理の流れが、ひどく歪んでいるぞ。青を選び出して、風を操るのが大変になってきた」

「理が歪んでいるのは、世界の反逆者が多く集っているせいか?」

「おそらくな。下手をすれば、魔物に変わるかもしれないやつらだ。

だから、正しき青の世界の理は、あんたに使われることを望んでいる。歪んだ世界の理の流れを断ち切り、正しい世界の理の流れに戻せと言っている」

「英雄の使った聖剣は、子孫に託される……か」


 自分の言った言葉が気に入らなかったのか、東の鍛冶師は、不機嫌そうに腕組みをした。

 これは、ゴールドスミス親方の癖だったな。


「違う。あんたが、青の祝福を受ける血筋だからじゃない。

マイケルが、剣の最初の持ち主の心を、受け継ぐ存在だからだ」


 心を受け継ぐというのは、祖先の教えを守ると言うことだろうか?

 国王陛下や宰相のような頭脳を持たない自分には、理解しきれないが。


「マイケル。その剣は、僕の爺さんとあんたの祖先との契約によって、作り出された。

青の世界の理を凝縮させて、剣の姿をとらせている。正しき世界の理は、正しく生きる者の味方をする。

だから、剣はあんたに使われることを望んだ。正しく生きる者に使われたいと望んだ」


 東から来た鍛冶師は、腕組みしたまま、そう語った。


 ……なんとなく、聖剣の性質が府に落ちた。昔から、聖剣は持ち主を選ぶと言われている。

 裏付けるように、ワード侯爵家には、様々な言い伝えが残されていた。



 例えば、四百年前のお家争い。ワード侯爵家の弟は、兄を疎んじていた。

 弟が忠誠の儀で、国王に聖剣を披露したとき、聖剣は謁見室から飛び去った。東の辺境で魔物と戦っていた兄を助けたのだ。


 聖剣の行方を追った弟は怒り、兄を亡き者にしようとする。斬りかかった弟の額には、世界の反逆者の証が浮かんでいた。


 聖剣は勝手に姿を表して、独りでに戦い、弟を動けなくして、兄を守ったそうだ。

 錆び付いた聖剣でも、それくらいの力は残っていたらしい。


 結局、兄がワード侯爵家を継いだ。弟は反逆者の証を恥じ、心を入れ換え、兄に尽くしたという。




 それから、三百年前の偽王。これは一般的にも有名な話だ。

 聖剣は持ち主を選ぶと、広く世間に認知された出来事でもある。


 白猫族の契約書による、亡くなった先代国王の後継者指名を無効だと主張した王子がいた。

 次の王は、王女とするという遺言に反発し、姉と白猫族を幽閉する。

 そして、自分が国王として即位した。偽者の王の額には、世界の反逆者の証が浮かび上がる。

 自分勝手な愚者に、権力に目が眩んだ()れ者に、(まつりごと)ができるわけが無いのに。


 偽王は、ワード侯爵家の聖剣も欲した。東の領地の民や、幽閉している王女を人質にして、侯爵家当主を脅迫する。

 聖剣を受け継いでいた侯爵家の一人息子は、偽王に聖剣を献上するしかなかった。

 そして、聖剣を手にした偽王は、一度苦しみ、床に膝をつく。その後、高笑いを上げながら起き上がり、全身から紫煙を立ち昇らせたらしい。


 紫煙をまとうのは、魔物の証。

 欲望を追い求めた偽王は、思慮を司る黄色の世界の理をねじ曲げた。

 そして、ねじ曲げた衝撃に耐えきれず人間としての生を終えて、人の形をした魔物として新しく生き始めたのだ。


 聖剣に込められた青の世界の理は、魔物に反発した。

 偽王の手から逃れ、侯爵家の一人息子に剣の柄を向けたと言う。


 ワード侯爵家は、英雄の子孫だ。人の形をした魔物と戦い、勝利した、青の英雄の子孫。

 英雄の子孫は、迷うことなく聖剣を手にし、魔物になった偽王と戦うことを選んだ。


 青の世界の理は、風を司る。聖剣は、偽王を突風に乗せて、王都の外の草原へ連れ出した。

 三日三晩戦い続け、英雄の子孫は勝利する。


 偽王を討ち取った一人息子は、その後、王女と結婚し、女王の王配となる。

 聖剣は青い髪と瞳に生まれた王子を、次の持ち主に選んだ。だから、女王は王家を継がせず、ワード侯爵家の跡継ぎに定めたらしい。

 金髪と緋色の瞳に生まれた王女が王家を継ぎ、今のチャールズ陛下の血筋に繋がる。





「おい、マイケル。おいってば!」

「うん?」

「そろそろ、決断しろ。あんたがその剣を手にすることに戸惑うのは、分かるが。

あんたが剣を使わないなら、世界の理に頼んで、ミシェルに渡してもらえ。あいつも、持ち主になる資質を備えている」


 俺は、呼び出した聖剣を見つめたまま、ぼんやりしていたようだ。

 東の鍛冶師の声で、我にかえる。ノアの言葉が耳に残った。


 ……ミシェルも、持ち主になる資質を備えている?

 神聖帝国との国境を守っている息子を、聖剣は次の持ち主に選んでいるように聞こえた。


「マイケル、どうするんだ?」

「国の有事には、国のために戦う。世界の有事には、世界のために戦う。

それが我が一族の使命だ。俺はこの剣と共に行く!」

「そうか。やっぱりあんたは、ミシェルや、イザベルの父親だな。爺さんの剣が見込むはずだ」


 東の鍛冶師は、そう言って笑った。

 腕利きの鍛冶師は、対話しながら作品を作ると、ゴールドスミス親方は言っていた。

 聖剣を修理できるノアも、聖剣と対話しているのかもしれない。


「爺さんの剣も、マイケルに期待してる、共に頑張ろうってさ」

「任せろ、やってやる! ワード侯爵家の名に賭けて!」


 ノアに肩を叩かれながら、騎士の金の剣を収納の魔道具にしまう。

 祖先から受け継いだ青い聖剣を手にして、俺は気合いをいれた。

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