表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/35

28話 騎士団長は、青い聖剣を受け継ぐ 1

 フォーサイス王国の聖剣とは、我が祖先、青の英雄が使った剣を指す。

 錆び付いた聖剣は、俺の目の前で、本来の姿を取り戻した。東から来た、鍛冶師の手によって。




 俺は部下を引き連れ、獣人王国の大型箱舟に乗っていた。

 これから、世界の反逆者と戦い、法の番人を取り戻すために。


「おい、マイケル。西の契約書の一族は、人使いが荒すぎる。あんたの知り合いだろ? なんとかしてくれ!」

「無理だ。ダニエル王子は、猫獣人。猫は獣人の中でも特に気まぐれだし、何をしでかすか分からない。

俺とは十才近く離れているが、昔から振り回されているんだ。諦めろ」


 東の鍛冶師も、箱舟に乗っていた。いや、乗らされていた。俺は同情しかできない。


「いたいた、ノア君。獣人王国の兵士たちにも、あの魔法陣を提供してくれて助かったよ♪

後で合流する、ドワーフ西国と箱舟部隊の人たちにも、宜しくね」

「どれだけ、やらすつもりだ? もう勘弁してくれ!」

「ダメだよ。あの魔法陣は君にしか扱えないみたいだから。

それに王宮で言ったよね? 私たちが願うなら、力を貸してくれるって。

言質(げんち)は取ってるんだからさ。男に二言はないよね?」

「……あんた、本当に口がたつな」

「そりゃ、西で代弁者の契約書を扱う一族だもん。絶対的な法を守るために、頑張って力をつけたんだよ。

君は未熟者だって言ってたから、力が足りない悔しさはわかるでしょう?」

「そう言うのは、方便って言うんだ! 都合のいいこと言いやがって!」

「やだな。方便は、人を真実の教えに導くため、仮にとる便宜的な手段って、意味もあるんだよ」

「もういい! 黙ってくれ!」


 ……ノアは、ダニエル王子にずいぶん気に入られたようだ。東の契約書を扱う一族として、猫の好奇心を刺激してしまったんだろう。


「んー、ちょっと真面目な質問。君は空を飛べるの? 王宮でそんなことを言ってたよね」

「そりゃ飛べるが」

「青の理で、風を起こすの?」

「ああ、そうだ。僕の一族は、青の世界の理と縁が深い。風を起こすのは簡単だ」

「そっか。青い代弁者の契約書の一族だもんね。私の一族が白の理と縁が深くて、白色魔法が得意なのと同じなんだね」


 ダニエル王子の口調が少し変わった。これは、また何か思い付いたな。

 昔からイタズラをしでかす前触れで、真面目に話す癖がある。


「箱舟って、東の大陸の乗り物って本当? 青の英雄が伝えたって言われてるけど」

「ああ、あれは本来は海の乗り物だ。僕の故郷で、人間やドワーフたちがよく乗っていたぞ。

爺さんが興味をもった若者に、一枚板の簡易箱舟を作って、故郷に帰らせる乗り物にしたとは聞いたことがある」

「本物の箱舟って、どうやって動かすの?」

「大元は黒の理を操り、海の上を滑らせて動かすらしい。僕の一族は青の理で浮かせて、動かしてた。若者も、同じように動かして故郷に帰ったらしいぞ」

「へー、そうなんだ」


 確か、黒の理は水を司るはずだ。ノアは海の国の出身だと言っていた。

 海は、塩辛い水でできていると聞く。塩味のスープに近いのだろうか?


「んじゃ、次のお願いが決まったよ。君は空を飛んで、国境付近にいる箱舟部隊と合流してよ。

それで箱舟を動かして、ルワール地方まで連れてきて。風を起こせば、箱舟は早く動けるはずだからさ」

「はぁ?」

「ルワールまでの道筋は、箱舟部隊の人に聞いてね」

「なんで、僕がそこまでしなくちゃいけないんだ。いい加減にしろ!」

「……あのね、今の私ははらわたが煮えくり返ってるの。可愛い娘がさらわれたんだよ? 冷静なはずないよね。

チャールズ国王は、罪人たちを私の好きに裁いて良いって、契約書を結んでくれた。

私は法の番人だから、彼らの更正を信じて法廷送りにするつもりでいるけど……でも、時間がかかれば、心変わりして世界の理に彼らの滅びを願うと思う。

白の理は、きっと私の願いに答えてくれる。私は、白の代弁者の代理人だから。白の理と縁が深い一族だから。

私の言いたいこと、君ならわかるよね? 東の契約書の一族ならさ」

「……使命と本音の板挟みか。ああもう、仕方ないから願いを聞いてやる。だがな、今回だけだぞ!」

「ありがとう、恩に着るよ♪」


 ダニエル王子は、無茶を吹っ掛けた。猫をかぶって、泣き落としを使った。

 ノアは、情にほだされて、無茶を引き受けたか。


 ……俺は、ダニエル王子の猫かぶりを黙っておく。

 あの執念深い猫を敵に回せば、老後に仕返しされるはずだ。老後は、安穏と暮らしたい。


「あのさ、マイケル騎士団長。君が思ってることは、だいたい想像がつくよ?

何十年親友やってると、思ってるのさ。親友のよしみで、老後に仕返しはしないから安心してよ」


 ……怖い。白猫族、怖い! 本当に敵に回したくない!


「おい、マイケル。行くぞ」

「……俺も行くのか?」

「親方の工房で、顔見知りの騎士もいるが、マイケルが一緒の方が話が早い。

第一、僕の言うことを、あいつらが聞くか? 百才以上年下のくせに、生意気なやつらが多い。僕だけだと、きっと喧嘩になる」


 ノアの言うことは、一理ある。今の俺は騎士団長になった身だ。

 東と南地方は、神聖帝国との戦いに備え、合同演習も多かった。

 第二師団は、南地方の守り。東の第一師団とも、結託がとれている。


 俺は元々、東地方を守る箱舟部隊、第一師団長だった。青の英雄の子孫だから、王宮の騎士団長へと昇進できたが。

 師団長時代の同僚も、まだ第二師団に残っているはずだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ