表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/35

24話 侯爵令嬢は、騎士の誓いを立てる 1

 新しく騎士団長になった父様は、国王陛下たちと、細かな打ち合わせをしているようでした。


「ダニエル王子、ルワール地方の箱舟部隊とは連絡がつかないのか?」

「無理だよ、マイケル騎士団長。私の魔力が足りないよ。エルフの閉鎖結界の中に入るための余力を、残しておかないとね」

「ダニエルは、エルフの結界を破れるのか?」

「違うよ、チャールズ国王。箱舟の周囲に虹色魔法の結界を展開して、閉鎖結界と同調させて、割り込むんだよ。

エルフの閉鎖結界って、五人の魔法使いが張るんだよ。単色の閉鎖結界を五つ重ねてるんだよね」

「つまり、五色の世界の理を均等に扱う虹色魔法をなら、問題ないと?」

「……うん、まあ、そんな感じだよ、チャールズ国王。けどさ、今の王宮で虹色魔法を使えるのって、新しい筆頭宮廷魔導師殿だけだよね?」

「ダニエル法務長官。ならば、新しき筆頭魔導師に、箱舟部隊と連絡を取らせれば、いいのではないか?」

「おー、ヘンリー宰相は頭が良いね。それやろう!」

「うむ、実行を許可する」


 ダニエル王子の持つエルフの魔道具は、虹色魔法で世界の理に直接収納されているとか。

 ……大変、難しい言葉が並びます。私は魔法については、詳しくありません。理解の範囲を超えました。


 ご先祖の青の英雄は、「五色の世界の理を全て扱える、魔法剣士」として、今でも称えられているのですが。

 近年では、魔法よりも剣技を身につけるような風潮が流れています。


 昔、父様に、魔法剣士になりたいと、ねだったことがあります。

「エルフ国との同盟が切れてからの二十年近くは、魔法協会が魔法を独り占めしていて、魔力が少ない者は習うことができない」と、断られました。


 生まれつき魔力が多ければ、魔法協会に多額のお金を払って見習い登録をし、魔法使いの見習いとして勉強ができます。

 ですが、魔法使いになるための勉強も、お金がたくさんかかり、習える人は限られているそうです。


 今のフォーサイス国内では、新たな魔法使いは、ほとんど生まれていません。代々の魔法使いの家系が、かろうじて魔法を引き継いでいるくらいです。


 治癒魔法を使えるダニエル王子は、他の大陸にある魔法協会本部で上級治癒魔法の勉強をして、上級魔法医師になったそうです。

 息子のイーブ王子も、今のフォーサイスでは魔法使いになれないので、獣人王国で初級魔法医師の登録をしたと、ジャンヌ王女が話してくれたことがあります。


「……やっぱり、ルワールの第二師団も、神聖帝国の手先だったね」

「あの者たちの真名は破棄した。もうフォーサイスの騎士でもないし、世界の反逆者の証が刻まれておろう。

マイケル騎士団長、獣人王国の箱舟に同乗する騎士を編成せよ」

「御意」


 いろいろと考えを巡らしている間に、国王陛下と箱舟部隊との通信は切れました。


「イザベル準備をしておきなさい」

「……はい、父様」


 ……やはり、私も戦場に向かわなければならないようです。

 貧相な防具で、頼りない武器で。


 せめて、ゴールドスミス親方の作ってくれた銀の盾があれば、希望が持てたかもしれません。


 魔法においては、フォーサイス王国は、他国よりも大きな後れを取っていると言っていいでしょう。

 その代わり、武術においては、力を増してきていたはずでした。


 十年前にドワーフ連合国との同盟が切れてからは、良質な武器が輸入できなくなり、国内生産に切り替えられました。

 国内の鍛冶師組合に依頼をして、王宮の騎士たちの武器を作ってもらうのですが、人間の鍛冶師に偏りました。

 特に元騎士団長が、騎士団のトップになってからは、顕著になっています。私のような騎士見習いの肩書きすら持たない、見習い剣士には、質の悪い武器が支給されるようになりました。


 ゴールドスミス親方の作った父様の武具を見ていると、ものすごく違いが判ります。

 ドワーフの中でも、腕利きの鍛冶師は魔法で、原料から直接武器を作り出すのです。 


 私がぼんやりと今までのことを思い出していると、宰相たちの会話が聞こえました。


「父上は留守番しててよ、ボクが行くからさ」

「アンリ、何を言い出す!」

「大丈夫だって。ボクは父上より、腕っぷし強いじゃん。

イザベラと一緒に、イザベルの父上から特訓してもらってたんだから。強い男は、女の子を守るもんだしさ」

「……アンリ、動機については、今は追及しない。お前の腕前は、マイケルも認めるほどだ。

イザベルを守るのだ、良いな?」

「任せて!」


 ……アンリが一緒に来るようです。アンリは武の才能も、文の才能もない、凡人なのですが、努力家です。

 女の子にモテるためなら、どんな努力も惜しまない。そんな幼馴染です。


 私と肩を並べるくらいの武力を身につけられるのなら、宰相の勉強も真面目にすればいいのにと思います。


「イーブ、あと十分で、獣人王国の箱舟が到着するから……」

「父上、私は留守をします。世界の反逆者が絡むとなれば、今の私は役に立ちません。シャルルとジャンヌと一緒に、王宮で待っています」

「そっか、留守番だね。私とマイケル騎士団長が戻るまで、王宮を守るんだよ?」

「はい。もし王宮で第二師団に続く反乱がおきても、獣人王国との同盟の名のもとに、鎮圧して見せます」

「うん。獣人王国の、エルフ国やドワーフ連合国との同盟を使ってもいいからね」

「父上、エルフ国の魔法使いの半分と、ドワーフ連合国の箱舟部隊を全て呼び出してもいいでしょうか?」

「うん。構わないよ。最初は獣人王国から、部隊を引っ張ってくるんだよ。

今は先代国王が来てるから、半分以上の部隊が緊急出動できるように待機してるからね」

「了解しました」

「というわけで、チャールズ国王、ヘンリー宰相。王宮内で第二師団に続く反乱がおきても、すぐに抑えられるから心配しないで」

「……分かった。猫獣人の気まぐれには、もうなれてきた」


 ダニエル王子が同行し、イーブ王子は留守番のようです。


 ……ただ、お二方とも、我が国に対する同盟協力のやり方が、人間離れしています。

 いえ、お二方とも、気まぐれな猫獣人なので、人間ではありませんが。

 国王陛下は諦め、受け入れたようです。……同情いたします。


「イザベラ嬢、お願いがある」


 白猫族を見ていると、イーブ王子が私に声をかけてきました。


「なんでしょうか、イーブ王子?」

「イザベル嬢は、お茶会のときに、迷子になった妹を連れて来てくれた恩人だ」

「ずいぶん、昔の事を覚えていますね。あれからですと、三、四年は経つはずですが?」

「白猫族は物覚えがいい。恩も、恨みも、忘れん。

だから、恩人のイザベル嬢に、私の真名を託したい。私の代わりに、妹を助ける事をお願いしたい」


 ……イーブ王子、無表情で見つめないでください。その……少々、恐怖を感じます。

 私の気持ちを感じ取ったのか、アンリが会話に割り込んできました。


「キミさ、真名を託すって、どういうことか分かってる?」

「獣人王国では、心から信頼していると言う、意味のはずだが。

……もしかして、人間は違うのか? 騎士の誓いのように、主従関係を結ぶことになるのか?」

「良い心がけじゃん、じゃあ主従関係を……」


 イーブ王子は、アンリを見ました。不安だったのでしょう。無表情ですが、猫耳は伏せられていました。


「アンリ、年下をからかうのは止めなさい。

イーブ王子、主従関係でもないのに、真名の意味を教えるのは、心から信頼している……いわゆる親友と言う意味を持ちます」

「なんだ、アンリの冗談か。もし嘘だったら、法廷に送らなければならない所だったぞ」

「……法廷って、なんでだい?」

「利己的な利益のための嘘により、他人に不利益をもたらすことは、法律において罰せられるからだ。

今回の場合だと信用毀損罪しんようきそんざいか、業務妨害罪ぎょうむぼうがいになると思う。

刑法を元にすると、虚偽の風説を流布したり、偽計を用いて、人の信用を毀損したり、業務を妨害した者は罪に問われるんだ」

「いやー、あっはっは。ボクがそんなことするわけ無いじゃん。

キミが、さっきから緊張しっぱなしだから、ほぐそうとしただけだよ♪」

「そうか。ずっと、顔が強ばっていた印象はある」


 ……幼馴染のアンリは、お調子者です。冷や汗をかいています。

 イーブ王子が冗談だと思わなければ、罪人になるところだったようです。

 ですが、なんでもかんでも法廷に結びつけるのは、白猫族の癖なのかもしれません。


「それでは、私の真名を託す。イーブ。命、生きる者」

「真名を受けとりました。私の真名を教えましょう。イザベル。代弁者は我が誓い、我が支え」

「はいはい、ボクも、キミの真名を預かるよ。代わりに、ボクの真名を教えてあげる。アンリ。家の長となるもの」

「妹を頼む」


 イーブ王子は、潔いかたです。アンリと友好関係にあるとは思えませんが、ためらいなく頭を下げたのですから。


「引き受けたよ。ボクの可愛い可愛いセーラちゃんは、絶対に助けるから」


 アンリもヘラヘラ笑わず、まともな返事をすれば良いと思います。

 元々下降ぎみだった、私のアンリに対する評価は、さらに二つぐらい下がりました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ