23話 王子は、世界の反逆者なる存在を知る 2
箱舟部隊の第二副師団長は、神聖帝国の人なのかな?
父上のことを嫌ってるみたい。
「聞け、フォーサイスの偽王よ。我ら神聖帝国は、偽王から我らの国を取り戻す!」
「ふーん、副師団長は、チャールズ国王を偽王っていうんだ。
もし、間違いし者が王国を継げば、世界の理が裁きを下す。三百年前の偽王が裁きを受けた、そう言いたいんだよね。
だったら、チャールズ国王が偽王なら、なんで十年以上の治世を過ごせるの? 三百年前の偽王は、半年で世界の理に還ったよ?」
「ダニエル法務長官。この者たちは、フォーサイス王国の歴史を知らぬようだ。
仕方あるまい。聖獣の代理人である、白猫族が説明してやれ」
「あのさ、君たちがやってるのは、聖獣様に逆らう行為だよ。
五百年前、南の帝国の次期皇帝は、フォーサイス王国の女王の王配となった。そして、自分が受け継ぐはずだった帝国の領土をフォーサイス女王に譲渡してる。赤、青、白の聖獣の御前でね。
そして、女王の子孫は、ここにいるチャールズ国王陛下だ。世界の理の代弁者である聖獣様に認められた、正しき血筋の後継者。
私は白の聖獣様から力を授かり、二十年前に青の聖獣様に加護を受けた者として、断言する。
世界の理は、フォーサイス国王をチャールズ・フォーサイスと認めていることを」
イーブの父上、口が立つな。父上は全部任してる。それだけ、全面的な信頼を寄せてるんだ。
「まあ、説明はしたし。君たちが今後どうしようと、そっちの勝手だけどさ。
神聖帝国に亡命しても良いけど、君たちが乗ってるのは、フォーサイス王国の箱舟だよ。王家の持ち物ね。
そのままだと、業務上横領罪の適応になるよ」
おーりょーざいって、何だろう?
「横領罪の適応か。父上も、情けはかけたな」
「イーブ、難しい言葉が並んでたけど……」
「シャルル。業務上占有する他人の物を横領すると、業務上横領罪が成立するんだが?」
「いや、そうじゃなくて、法がどうとかって……」
「絶対的な法は、世界の理だ。そして、世界の理の代弁者である、聖獣さま。
太古の昔からの決まりであり、不変なるもの、それが絶対的な法。これでわかるか?」
「うん……まあ、ありがとう」
……白猫族の思考回路って、よくわからない。イーブは相変わらずの無表情だし。
「我らは神聖帝国の一員。フォーサイスの決まりなど……」
「通じるよ。世界の理によって、だけどね」
「副師団長、元そなたの上司であり、フォーサイス王国の王として言っておく
この西大陸における絶対的な法は、世界の理であり、理の代弁者の聖獣様なり。
神聖帝国の新しき仲間にも、伝えておくほうが良いであろう」
「黙れ、偽王が!」
「分からぬようだな。ダニエル法務長官、この無知に教えるが良い」
「五百年前に、 すべての国の憲法は、フォーサイス女王が白猫族の契約書で世界の理に乗せた。
ドワーフ連合国、神聖帝国、あとはフォーサイスや獣人王国、エルフ国。それから、東の海の国と山の国全部ね。
だから、西大陸のすべての国は、司法が罪を決めた後、絶対的な法である世界の理によって裁かれる」
「その手に乗るか。猫は口がうまいからな」
「それじゃあ、分かりやすくいってあげる。君たちは、世界の理を敵にした。聖獣様を敵にした。
世界の理に敵対するのは、魔物しかあり得ない。君たちは、魔物に近しい存在だ」
「そっちが魔物のくせに!」
「君、本当に無知だね。白猫は、聖獣の代理人。第一、私は青の聖獣様に助けられたんだよ? 君も知ってるはずだけど。
その聖獣に助けられた者が、世界の理に従って、チャールズ国王に力を貸してるの。
この意味が分かっても、分からなくても、君たちが聖獣様に敵対したのは事実だ。チャールズ国王、宣言を」
イーブの父上は、そういって笑った。感情の読めない表情で。
「うむ。我が国に、聖獣に、世界の理に敵対する者から、我に捧げられた真名を破棄する。フォーサイス国王、チャールズ・フォーサイスの名のもとに!」
父上が名前を告げると、足元から五色の理が立ち上り、すぐに消えたんだ。なにあれ?
「これによって、我が国と騎士をつなぐ契約は無効とする。そして、真名を破棄したことにより、そなたたちには、我が国の恩恵は受けられぬ。
すなわち、我が国の世界の理から、放逐する。間もなく、裁きが下るであろう」
「べらべらとうるさい、偽王め!」
「もう天罰が、落ちてるんじゃないかな? 額に、逆向きの原初の魔法陣が描かれてるはずだけど。君たち、確かめた方がいいよ?」
「なんだと? でたらめ……」
「副師団長、額に何か模様が!」
「それはね、反逆者の証。世界の理に敵対しました、自分は魔物に近しい存在ですって証。
二十年前、私を冤罪に追いやった人たちの額に浮かび上がったやつね。いくら兜で隠しても、化粧しても無駄だよ」
「世界の反逆者よ。世界の理の恩恵は、その魔法陣がある限り受けられぬ。正しき世界の理を敵にしたのだ、当然であろう。
再び、フォーサイスに来るときは、覚悟するがよい。世界の理に逆らいし者よ!」
「あと、箱舟は、今度来るときに返してくれたらいいよ。世界の理の敵対者殿。じゃあね。
はい、これで副師団長殿たちとの通信は切れたよ」
なんか、神聖帝国に行った箱舟との通信は、切れたみたいだ。
でも、「せかいのはんぎゃくしゃ」って、なんだろう? イーブに聞いてみよう。頭いいから、知ってるはず。
「イーブ、せかいのはんぎゃくしゃってなに?」
「平たく言えば、魔物の味方をする存在だ」
「キミの言い方は、分からないって」
「……アンリに分かりやすく言えば、聖獣さまの敵だ」
「聖獣さまの敵? それ、危ないじゃん!」
「そうだ。そんな存在が、フォーサイス国内にいる」
イーブ、無表情で見ないで。君の顔、すごく怖いよ、つり目だからキツイんだって……。
「チャールズ国王、続きを。他の三隻隻との通信は、残してるからね」
「うむ。先ほど副師団長を止めようとしたのは、第三艦隊の艦長だな? そこに何隻残っている?」
「はっ、第三から第五の三隻であります」
「わかった。これより、第三艦隊艦長を、臨時の第二副師団長に任命する。国境より帰還し、ルワール地方に移動せよ」
「陛下、ルワール地方ですか? 南の都の第七から第十艦隊は、師団長の乗った第一艦隊の到着を待った後に、離陸予定のはずですが?」
「臨時第二副師団長。第二師団長の乗ったものを含む五隻がルワールに滞空中だ。王宮から獣人王国の王女をかどわかし、ルワール地方へ向かった可能性が高い。
おそらく、元副師団長と結託し、神聖帝国に連れ去る予定であったのだろう」
「なんと! 陛下、すぐに向かいます」
「うむ、我らもあとを追う。エルフの結界魔法が敷かれているので、傍で待機せよ」
「御意」
「はい、通信終わりね。あー、魔力使った。ちょっと疲れたよ」
あ、通信切っちゃった。
でも、魔物なんて大変だ! 僕も父上と一緒に行こう。って、イーブ、肩つかまないで痛いから!
「シャルル、状況が変わった。私たちは留守番だ」
「イーブ、セーラが危ないんだよ!」
イーブが無表情のままだった。なんで、落ち着いてられるんだよ!
「今は、力をつけるときだ」
「でも、セーラが!」
「シャルル、元々相手は、私を連れ去る予定だったんだ。セーラは、私の代わりに連れ去られた!
相手は何か手段をもっているはずだ。今の私では、父上の足手まといになる」
違う。イーブの顔は、こわばってたんだ。しっぽがすごく膨れてた。
「だから、今は我慢する。父上たちに任せる。わかるか?」
「うん……」
イーブがここまで感情を見せるなんて、すごく珍しい。きっと、悔しいんだ。力を持たないから。
……僕にも、力がない。まだ、子供だから。セーラを助けてあげられない。
悔しかった。
西の公爵領地の管理者編
モチーフ
百年戦争、ブルターニュ継承戦のシャントソーの戦い
イーブ
Yves (フランス語)
名前の由来
キリスト教における、フランス、ブルターニュ出身の聖人、聖イブ(イーブ)
司法官、弁護人など、法曹界の守護聖人