22話 王子は、世界の反逆者なる存在を知る 1
新しい騎士団長が、けわしい顔で帰ってきた。
神聖帝国って、南東の小さな人間の国だよね。なんで箱舟の第二師団が、その領域へ行くの?
「陛下、第二師団の二隻が命令を無視して、国境を越えて移動しています。神聖帝国の領域に入った模様。
五隻は南のルワールに滞空しているのを、確認しました。この七隻は通信を切っており、こちらの呼び掛けに答えません」
「神聖帝国? 何をする気だ?」
あ、宰相も戻ってきた。アンリの元気がないな。どうしたんだろう?
「チャールズ国王、遅くなってすまない。騒がしいようだが、何が?」
「ヘンリー宰相、第二師団の二隻が命令を無視して、神聖帝国の領域に入っている。通信に応じない」
「………まさか! 神聖帝国に戦争を仕掛けるつもりでは?」
「分からん。通信さえ出来れば聞けるが」
「んー、じゃあ、私の魔道具を貸してあげるよ。
さっき、エルフ国に連絡したやつね。ちょっと待ってて」
イーブの父上は、力持つ言葉を唱え始めたんだ。虹色の光の輪ってことは、あれは虹色魔法だよね?
六百年前に、白猫族の祖先のエルフが開発して、人間のために残してくれたって。
でも、難しい魔法だから、扱える人が少ない魔法だって、前にイーブが言ってたから。
「はい、お待たせ」
「鏡?」
「ううん、エルフの通信魔道具。性能良いけど、魔力を多く使うから、緊急時にしか使わないんだけどね。
伝えたい相手とこっちの名前を言えば、向こうの通信魔道具に世界の理を介して繋いでくれるんだったと思う」
「さっき、君がしたようでいいんだな?」
「うん。あ、たくさん箱舟に通信機能つなげた方がいい? ちょっと離れてるから、まとめては無理だよ。
国境か、ルワールか選んで。今の私の魔力では、どっちかしか通信できないから」
「国境にしてくれ。戦争は、まずいからな」
「はいはい、了解しました」
「第二師団の箱舟に、チャールズが通信する」
あれ、鏡じゃなくて、通信用の魔道具なんだ。さっき、王宮に投げ込まれた音声通信よりも、遥かに良い性能じゃないかな?
さすが魔法が得意なエルフの魔道具だね。すごいな。あんなに薄くても、発動するんだ。
父上が普段使ってるのなんて、僕の両手で抱えても足りないくらい大きいのに。
「第二副師団長、戻られよ! このまま、神聖帝国の領域内でいる、おつもりか!」
「このまま、まっすぐ進め! 師団長の命令である!」
「第二副師団長!」
「我らは、神聖帝国の一員。フォーサイスの国王などと名乗る悪しき者から、我らの帝国を取り戻すのだ!」
えーと、取り込み中かな? 第二副師団長がなにかやって、止めようとしてる人がいるみたいだね。
「……第二副師団長、どういうつもりか説明せよ!」
「陛下の声? 王宮との通信は切ってあるな?」
「はい、切って……いえ、陛下との通信がつながっております!」
「もう一度問う、第二副師団長、どういうつもりか説明せよ!」
誰かの厳しい声に、第二副師団長は動じてないみたい。
威圧的な態度? 僕は嫌いだよ、あんな大人たちの話し方。
なにが起こっているのか、戻ってきたアンリがイーブに聞いていた。
「今、何が起こってるんだい?」
「……父上がこっそり、『そっちの魔道具を切っても無駄だよ。こっちは、エルフの魔法陣で通信してるんだから。性能が違う』って、第二副師団長殿をバカにしてる」
いや、アンリが聞きたのは、そうじゃないと思うんだけど。
「箱舟部隊の第二師団のトップは、神聖帝国の手先だったようだ。チャールズ国王を敵として見ている。
しばらく黙って聞いていれば、相手の思惑が見えるはずだ」
「……分かった」
うん、わかったよ。だからイーブ、無表情で僕まで見ないで。
アンリの顔が引きつってるよ。僕も怖いんだって。




