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21話 王子は、白猫族に呆れる

 イーブの父上って、ときどき変なことをやらかすんだ。さっきも、父上に迷惑をかけないようにって、親戚を頼ったみたい。

 ただ、親戚がエルフの国の長とか、ドワーフ西国の長とか、父上と同じ地位にある人たちだった。


 ……よく考えたら、イーブはフォーサイス王国では貴族の一番下の男爵家だけど、獣人王国では王族の王子。

 僕と同じ立場なんだ。他国の親戚が王族でも、全然不思議じゃない。


 そういえば、エルフの国って、フォーサイス王国に近い地域に住んでるエルフの長が、人間との交流の窓口をしてる。だから、建前上は、国王を名乗ってるんだって。

 でも、エルフの各地の地域を治める長老は皆対等で、ドワーフ連合国の長と同じなんだ。


 それから、ドワーフ連合国は、東西南北に分かれてて、西と北がフォーサイス王国に接している。ドワーフの国って、そんなに細かく分かれてることを、地理の先生は教えてくれなかった。

 南にあるのが、ドワーフの国ですって、教えてくれただけだ。


 イーブの父上はずいぶんと、国の外に詳しいなって思ってたら、エルフやドワーフに親戚が居たからなんだね。ようやく謎が解けたよ。


「ダニエル、ルワール地方と断言した理由はなんだ?」

「だって、セーラを連れ去ったルイ君たち兄弟は、ルワール子爵家の子だよ?」

「君のことだ、根拠は他にもあるだろう」

「根拠なんて、ルイ君の実家だけで十分だって。猫の勘を信用してよ」


 ……猫の勘?

 適当すぎる。それだけで、他国の国王を動かしたんだ。

 猫って、本当に考え方が分からなすぎるよ。


「ダニエル法務長官、他にルワール子爵領地に関する情報は無いのか? なんでもいい、何かひねり出せ!」


 ああ、父上の声がやけっぱちだ。でも、僕もイーブに同じ事を言われたら、父上みたいになるかも。


「んー、オフィシナリス公爵家からの苦情かな。ほら、私の妹は南の公爵家に嫁いでるよね。

鉄鉱山のあるルワール地方は、ルワール子爵家が治めてるんだけど、ここ十年くらい、鉄鉱石の納品が悪いんだって。

なんとかやりくりしてたけど、最近では国境を守る騎士たちの装備の修理もままならないから、なんとかしてくれってさ。

確か、チャールズ国王に嘆願書出したんだけど、読んでくれた?」

「南の公爵家の嘆願書など、知らないが? 誰に渡した、ヘンリー宰相か?」

「ううん、騎士団の事だから、元騎士団長殿だよ。

半年前に騎士団長室に行ったら、元騎士団長殿は忙しいって断られたから、対応した第二師団長殿にお願……」

「騎士団長、すぐに箱舟部隊を確認せよ!」

「御意」


 イーブの父上が話す途中で、父上は新しい騎士団長を呼んだ。騎士団長は、いかつい顔をして、謁見室から出ていった。


 僕も知ってる。第一から第四師団は、箱舟っていう乗り物を、操る部隊なんだ。

 元々、箱舟は東の大陸で使う、海の乗り物らしい。ドワーフたちが改良して、万能の乗り物になったって聞く。

 土を燃料にすれば地面を走り、水を燃料にすれば水上を進み、植物を燃料にすれば空を飛べるすごい乗り物なんだ。


「チャールズ国王、どうしたの?」

「……南の都の第二師団が、南の国境付近で、航空演習を行う予定だ。そのうちの一隻が、正午ごろ、第二師団長を向かえに王宮へ寄っている。

おそらく、その一隻の行方を追跡できれば、君の娘にたどり着くはずだ」

「なんで?」

「ルイがセーラを連れて、箱舟に乗った可能性がある。第二師団長が手引きをしたんだろう」

「だから、なんで?」


 父上が黙っちゃった。イーブの父上は、分からず屋だ。僕でも想像がつくのに。


「あのな……君はどうやって、誰にも気づかれずに、セーラを王宮から連れ出したと思ってるんだ?」

「セーラ連れていくなら、まずは昼寝してるところ抱きかかえて、木々に飛び移りながら塀の傍にいくよね。

んで、塀を昇って、塀の外の堀を飛び越えて、王宮を抜け出す。で、屋根の上に飛び上がって、屋根伝いに王都の外へ。そこから、陸上の箱舟に乗せて移動するね」

「……ダニエル法務長官。人間は猫獣人ほど木登りが得意ではない。ましてや、水の張られた堀を飛び越えるとか、屋根を走るなどできぬ」

「あー、そっか! 人間って、運動神経が鈍いもんね。直接、箱舟に乗ったんだ!」

「そうだ。だから、王宮内で協力者を得て、セーラを連れ去った可能性が高い」


 ……イーブの父上、猫獣人だった。獣人を基準に考えたら、セーラが連れ去られた経路が違ってくるよ。


 父上の話の間、ぐるっと臣下たちを観察してたら、何人が変な顔をしてた。変な気分になる。

 これ、なんていうんだろう? イーブなら、猫の勘って、言ってのけるんだろうな。

 僕だったら、人間の勘?



「チャールズ国王、ヘンリー宰相からのお言葉を預かって来ました」


 あ、イーブが帰って来た。


「返事は?」

「西の領地を治めるのは、白猫族以外にあり得ない。王族の決定に従うと。

こちらの白猫族の契約書に、発言を残してもらいました」

「うむ、確認した」


 確か、白猫族の作る契約書は、王族が使う最高の契約書って聞いたけど。

 あ、紙が虹色になって消えていく……どうなってるんだろう?

 後でイーブに聞いてみよう。

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