2話 幼き男爵子息は、王子と王女と遊ぶ
父上の考えは、よく分からない。
勉強をしているかと問われたので、部屋で大人しく勉強していたと答えた。
そしたら、いきなり家から連れ出された。
私と手を繋ぎ、町を歩いていく。どこに行くんだろう?
「イーブ、お城に行こうか」
「父上のお仕事の見学ですか?」
「違うよ。シャルルが勝負するから、会いたいって」
「勝負……私は負けません!」
父上は、お城で魔法医師をしている。シャルルと会えるってことは、今日のお仕事が終わったんだ。
私の家から、お城に向かうときは楽しい。
父上はあちこちのお店に寄って、色々なものを見せてくれる。
今日は、本屋によってくれた。好きな本を買ってくれるらしい。
私が選んだのは、綺麗な絵が載っている花の絵本。同じ本を四つ、父上に頼んだ。
「今日も、四つでいいのかな?」
「はい。こっちはセーラので、これとこれはシャルルとジャンヌにあげます。最後のこれは、私にください」
「えらい! セーラの分を一番に選ぶなんて、さすが兄上だね」
父上は、たくさん誉めてくれた。とても嬉しい♪
セーラは私より小さいから、まだ一緒に出かけられない。
大きくなったら、お城に行くんだ。
ちょっとお腹が空いてきた頃、お城についた。お城の中は、男の人の後ろを歩いていく。
男の人は、父上が助けた人間の一人らしい。
「君のお父さんは、とても偉いお医者さまなんだよ。君もお父さんのようなお医者さまにならないとね」
「……きっと、イーブは魔法医師には、ならないと思うよ。
イーブが何になるかは、イーブが決めるからね」
変な父上。私は大きくなったら、父上のような魔法医師になりたいのに。
父上はやっぱり、変だった。変なことを聞いてくるんだ。
「イーブは、ここに住みたいかな?」
「いいえ。父上も、母上も、おじいさまも、おばあさまも、セーラも居ませんから」
「ここは、シャルルとジャンヌが居るよ?」
「セーラが遊べません。兄上は、妹と遊ぶのが仕事でしょう?」
「ふむ……国王との相談が必要かな。あ、ついたよ」
父上は、変な顔をして、誉めてくれなかった。なんで?
やっと、シャルルとジャンヌの所に着いたみたいだ。大きな木の扉を父上が開けてくれた。
「こんにちは。シャルル王子、ジャンヌ王女、イーブを連れてきたよ」
「イーブ、勝負だ!」
「今日こそ、勝ちますわ!」
父上が言い終わると、王子と王女は、紙とペンを持って、私を待っていた。
私とシャルルとジャンヌは、よく勝負をしている。
文字の書き取りの練習で、一番早くできて、一番綺麗にかけた人が、お菓子を一番多くもらえる。
私も負けない。お菓子を食べたい!
「イーブ、忘れ物。お土産は?」
父上に肩を捕まれた。お店で買った花の絵本を渡される。
シャルルとジャンヌにあげないと。
あれ? 父上の所に、こわい顔をした男の人がやって来た。
剣を持ってるってことは、お城を守る人だと思う。
「ダニエル様、宰相様がお待ちです」
「宰相? 会う予定は無いけど?」
「魔法協会の件で話があると」
「……へー、そうなんだ。
イーブ、父上は、ちょっと宰相の所に行ってくるから、二人と仲良く遊んでいるんだよ」
「理解しました」
父上は、用事があるらしい。私は二人と勝負をはじめた。
でも、私とシャルルは、ジャンヌに負ける。
父上は、一番早く書いたジャンヌが、一番綺麗に書けていたと言った。
一番にお菓子を選ぶ、嬉しそうなジャンヌから離れて、シャルルと話す。
「イーブ、なんで今日は最後?」
「シャルルこそ、遅かったよ?」
「だって、兄上は妹に譲って、我慢するものだって、父上が言っていた。
僕は兄上だから。イーブは、なんで?」
「あのお菓子、ジャンヌが大好きだから」
私は知っているんだ。ジャンヌがあのお菓子を、ゆっくり、ゆっくり食べること。
ものすごく、好きだってこと。