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19話 宰相は西の秘密を語り、そして本音を語る 2

 ダニエルの息子のイーブ君は、本当に頭が良い。傀儡(くぐつ)と言う言葉が飛び出るとは、思わなかった。


「傀儡? なにそれ?」

「操り人形。転じて、影にいる者に利用されている者を指す。

利用されている、アンリ、お前のことだ」

「はあ? ボクは利用なんて、されていない!」

「お前、王宮の者が、お前の事をなんて言ってるか知ってるか?

公爵家のボンクラ、もしくはドラ息子。

そうですよね、宰相殿?」

「うむ。だから少し早いが、宰相の勉強をさせ始めた」

「ボンクラ? ドラ息子?」

「……全部、できの悪い人物を指す言葉だと思えばいい。

セーラが父上に意味を聞いて、『アンリ殿って、カッコ悪い人なのですわね』って、耳を伏せていた。

もっと勉強しないと、さすがに嫌われるぞ? セーラやジャンヌの好みは、頭と性格のいい男だからな」

「勉強か……もうちょっとがんばるよ」

「まずは、宰相殿の書類整理を手伝ったらどうだ? 予算と使用報告の合計が合わないことが、よくある。

会計報告は、父上も手伝うが、セーラも宰相室で一緒に手伝うことが多い。間違い探しみたいで面白いと言っていた」

「セーラちゃんが? そっかセーラちゃんができるなら、ボクにできないわけないよ。

父上、明日から会計報告の整理を手伝います!」


 しかし、イーブ君は、アンリの性格を熟知してるな。ボクがどれだけ言っても、無気力だった息子が……。

 だから、担ぎ上げられるのだと、アンリは気付いていないな。


「アンリは、白猫族が居なくなった後のフォーサイス王国を、考えたことがあるか?」

「侵略者の獣人が居なくなるから、よくなるだろう?」

「違う。王族は、ほぼ途絶える。ジャンヌとアンリを新たな女王夫婦にしたて、裏から操る。

おそらく、こいつらは、南東の神聖帝国と繋がっていて、フォーサイス王国は帝国の植民地にされるだろう」

「そんなホラ話、信じられるか!」

「黙って聞け。順を追って説明する。

今回の場合は、影からフォーサイス王国を支配しようと企む者が、白猫族を追い出したい、一心に尽きる。

もしも追い出したあと仮定して、その後の話をしている。今は、仮定なんだ、可能性の一つとしてあり得る。分かるな?」

「まあ、仮定なら、おとぎ話として、飛躍もあるかな。キミたち獣人って、変な思考回路だから」


 ……ダニエルは、もう、そこまでイーブ君に伝えているのか。

 本当に、うちの息子と大違いだ。アンリを鍛えないと。


「仮定を続けるぞ。

管理する者が居なくなった西地方は、エステ公爵家と言うか……、アンリを名前だけの西の公爵領主にする。

それからアンリをおだて上げ、王族のジャンヌ王女と婚約させる」

「はあ? ボクがジャンヌと婚約? それは、嬉しいけど」

「続きがあるぞ。

めでたくアンリとジャンヌが結婚できれば、邪魔な王族のチャールズ国王夫妻とシャルル王子を暗殺。

ならば、ジャンヌ王女が女王になるしかない。アンリは、自動的に配偶者として、王配(おうはい)の地位を得る」

「シャルルたちの暗殺は、困るって!」

「それぐらいは、判断できるのか。少し安心した。

ちなみに、暗殺した罪は、影から支配する者の邪魔になるもの……おそらく、南の公爵家と東の侯爵家に(なす)り付け、フォーサイス王国から抹殺する。

支配を企む者は、邪魔ものが居なくなり、万々歳。

アンリをおだてながら、宰相になって、政治を自分たちの都合の良いように……神聖帝国の都合のいいように動かし続ける。

まあ、こんなところだな」

「なんで、神聖帝国なんだ?」

「南のオフィシナリス公爵家と東のワード公爵家の息子が、ここ十年ほど、王宮へ来てないだろう?

十年前に南のドワーフ連合国との同盟が切れてから、南東の神聖帝国がこれ見よがしに軍力を増強し、フォーサイス王国との国境に砦を築きだした」

「もしかして、神聖帝国を見張るために、イザベルの兄上は南東の国境に張り付いてる?」

「ああ。今は、獣人王国の増援を警戒してるから、神聖帝国は攻めてないがな。

同盟が切れれば、動くだろう。もし攻められても、周囲の国々はフォーサイスを助けない。

獣人王国も、エルフ国も、ドワーフ連合国も。フォーサイス王国を神聖帝国の一部として見なすのみだ」

「それ、めちゃくちゃ危ないじゃん!」


 イーブ君の話で、少しばかりアンリも、頭が冷えたか。


「イーブ君、ダニエルも、ずいぶんと詳しく教えたんだな」

「いいえ、父からは何も聞いていません。宰相殿に通信内容だけ伝えて、返事をもらってこいとのみ。

ですが、祖父母の仕事は知っていますし、西の公爵領地をエステ公爵家に管理させる要求、国内の情勢。

そしてセーラを連れ去ったのが、アンリの親しい友人。

これらの事実を付き合わせれば、誰でも考え付きますよ」


 ……末恐ろしい子だ、まだ十一才のはず。ダニエルの息子だけはあるな。

 白猫族が、やる気を出したあとの思考力は、筆舌に尽くしがたい。


「アンリ、お前は友人たちから、王族と言われて、おだてられて図に乗っていただろう。

私と初めて会ったときに、名誉がどうとかって、威張り倒しただろう?

だから、担ぎ上げられるんだ。ちょっとは学習しろ」

「……キミ、よく覚えているね。さすが、ね……」

「そうだ、猫は物覚えがいい。恩も、恨みも、忘れん。

お前とイザベル嬢は、迷子のセーラを連れてきてくれた恩人だ。

恩人の自己紹介を、忘れるわけないだろう?」

「いやー、あっはっは」

「だかな、アンリ。権力を見せびらかすのは、愚王の振る舞いだ。愚王は、自分のために権力を使う。

そして賢王は、権力を伝家の宝刀にして、国民に寄り添う。国民のために、初めて権力を使う。

初代フォーサイス国王のお言葉だ」

「……肝に免じておくよ」


 息子よ、「さすが根暗」と続けようとしたな?

 うまくごまかしたようだが。


「宰相殿、相手の指示通り、西の公爵領地を管理するつもりですか?

フォーサイス王国を神聖帝国に売り渡しますか? 私は、それを確認に来ました」

「今は、それはない。西の公爵領地を管理するのは、白猫族以外にあり得ない。

エステ公爵家の総意だ。王族の取り決めに、逆らわない」

「その証言を、白猫族の契約書に書いて、発言した認めの署名をしてもらっても良いでしょうか?

チャールズ国王に提出します」

「良かろう。ヘンリー・エステ」


 白猫族が力持つ言葉を唱えれば、世界の理から契約書が作られ、具現化する。

 新しい契約書は、消えないのか。

 このまま、チャールズに提出されるようだな。


「じゃあ、話はここまでだ。閉鎖結界を解く」

「イーブ君、もう少し残しておいてくれないか? 息子と二人っきりで、話したいことがある」

「了解しました。契約書の文章をいくつか、いじっても良いですか?」

「構わない。イーブ君に任せる」

「ありがとうございます。

私が結界を抜けたあと、宰相殿の任意のタイミングで、閉鎖結界を解くように変更しました。

それでは、失礼します」


 よし、イーブ君は結界から出ていったな。

 アンリに、大切な話をしておかないと。


「アンリ、白猫族が二十年前に、襲撃された話を覚えているか?

白猫族が煙たがられる理由も、わかったな?」

「はい、父上。想像であんな荒唐無稽を言うなんて、嫌われますよ」

「荒唐無稽ではない。すべて真実だ。我が国は、神聖帝国に狙われている」

「父上?」

「いいか、アンリ。将来的には、お前とジャンヌ王女との婚約が決まっている。

そして、白猫族が去った直後から、西の男爵領地と公爵領地は、ジャンヌ王女が継ぐ。

フォーサイス王族には、エステ公爵家の血が入る。経済的な基盤も手に入れれば、今後の権力は揺るがん」

「権力……ですか?」

「そうだ。白猫族を敵に回すな。懐に抱き込め。獣人王国との同盟が切れてもだ。

白猫族が獣人王国に居れば、戦争にならない。白猫族が押さえるからだ。

また、白猫族は、エルフ国にも、ドワーフ連合国にも、繋がりがあるから、個人的に助けてくれる。使えるものは、徹底的に利用しろ」

「……利用」

「それから、ルイ君たちとは、縁を切れ」

「ルイと? できません、親友です!」

「ならば、アンリ。エステ公爵家を継ぐ権利を剥奪する。

新しい宮廷魔導師を養子に迎え、そちらをボクの後継ぎに指名する。

ジャンヌ王女との婚約者も、お前ではなく、養子に変わるだけのことだ」

「父上、それはあんまりです!」

「上っ面のおだてに簡単に乗るようでは、エステ公爵家を継ぐ資質があるとは思えん!

アンリ、なぜ縁を切れと言ったか、わかるか? 考えろ。答えなければ、即刻権利を剥奪する」

 やはり息子は愚鈍だ。このままでは、足元を救われる。


「……裁判にかけられた騎士団長は、イヴルー伯爵家の次期当主だからですよね?

ルイは、騎士団長の外孫です。

セーラちゃんをさらった時点で、獣人王国との衝突は免れません」

「そうだ。後がなくなり、血迷ったんだろう。

子猫をさらったのだ。執念深い白猫族が、徹底的に排除するに決まっている。

エステ公爵家の嫡男が、家を傾けるような真似をするな」

「……分かりました。あの父上、セーラちゃんは、どうなるのですか?

邪魔な白猫族は、殺されるのでしょうか?」

「殺されはしない。幼い白猫族だからだ。洗脳すれば、よい傀儡にできるだろう。

あの世界の理を操れる力は、無くすには惜しい」

「殺されないのですね、良かった♪ ですが、洗脳して傀儡って? あまりよくない状況ですよね?」

「……そうだな。アンリ、ボクは、この国を変える。

それが、エステ公爵家に生まれた者の使命と思え」

「父上の言うことは、よく分かりません」

「自分で理解しろ。同盟が切れて、白猫族が出ていくまでにな。

それくらい出来なければ、養子を迎えるまでのこと。心せよ」

「……はい」


 ここまで来るのに、二十年かかった。

 ここから先、何年かかるかわからない。


 それでも、ボクは、この国を変える。

 そのために、ずっと手を回してきたのだから

メモ。

スマホで約二週間の間にかける文字数は、46,615文字くらい。

あと、スマホは文字をうつときに、違う文字か紛れ込みやすい。

「、」をうつはずが「ら」になってるとか。


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