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10話 魔法医師は、猫にもなれば虎にもなる 2

※猫にもなれば虎にもなる

同じ人が、時と場合により、または相手の態度によって、おとなしくもなれば、凶暴にもなるという意味。


※たまに法律関係が登場しますが、異世界の法律に基づきます。

現実世界とは、かけ離れている場合もあります。

 仕事すればいいんでしょう、チャールズ国王陛下。


「今回、騎士団長殿、筆頭宮廷魔導師殿が、私に対して行った行為は、侮辱罪ぶじょくざいが妥当かな。

まあ、侮辱罪は、親告罪(しんこくざい)に当たるからね。私が法務局へ訴えなければ、犯罪として成立しないよ」


 ちょっと、なんでいきなり、全員が黙るわけ? チャールズ? ヘンリー?

 私は、すごく基本的なことしか言ってないよ。


「騎士団長殿、筆頭宮廷魔導師殿。……その顔は、分かってないようだね。仕方ないな。

イーブ、親告罪とは何か、分かりやすく説明できるかな?」

「はい、もちろんです」

「ならば、この憲法も知らない、不勉強な大人たちに教えてあげなさい」

「はい、父上」


 子供が知ってることを、大人が知らないなんて、赤っ恥だよね。


「親告罪とは、告訴(こくそ)がなければ、犯罪として裁判を起こせない犯罪と言えば、分かりやすいでしょうか。

今回の場合の告訴とは、被害者である父が、捜査機関である法務省支部の法務局へ、騎士団長殿と筆頭宮廷魔導師殿から侮辱されたと申告することになります」

「ついでに、侮辱罪も分かりやすく教えてあげなさい」

「侮辱罪とは、不特定または多数の人が知ることのできる状態で、他人を軽蔑(けいべつ)する犯罪です」

「はい、よくできました。

今回の場合、国王陛下、宰相、及び国王陛下を守る近衛兵という、多数の人が居る前で、『獣人風情』って言ったよね?

皆も、騎士団長殿と筆頭宮廷魔導師殿の発言を、聞いたよね?」


 私が見渡すと、チャールズやヘンリー、それから近衛兵の数人が頷いた。

 頷かなかった近衛兵は、獣人を敵視するやつらだ。

 これから言う私の説明を聞いて、考えを変えろってんだ。


「まず、『風情』って言うのは、代名詞に付いて、(いや)しめる意味も持つ。

代名詞っていうのは、人や事物、場所や方向なんかを指す言葉だよ。今回だと、獣人だね。

それから前後の文章を加味して考えると、獣人を卑しめるって意味にとれる。だから、侮辱罪が濃厚だね」

「父上、抜けています。

騎士団長殿の『望むところだ、獣人。我らが、皆殺しにしてくれる!』は、殺人予告ですよ。こっちは、脅迫罪が成り立りたちます」

「おー、そうだったね。私としたことが。

じゃあ、裁判を開けば、筆頭宮廷魔導師殿は侮辱罪。

騎士団長殿は、侮辱罪と脅迫罪で、有罪が濃厚だね。

憲法にも定められた、自国と対等な隣国の王族に無礼を働いたんだからさ。

まあ、今回はチャールズ国王の眼前で行われたから、フォーサイスの国王に判断を任せるよ」

「一族ごと排除しても構わんぞ。他国の王族と知りながら、わざと無礼を働く者どもだ。

我が王家に対しても、同じ態度をとるであろう。そんな一族など必要ないし、無くても王家は困らん。

次の新たな貴族を任命すれば良いだけだからな」


 およ、チャールズも、言うようになったね。

 王家の微笑みを浮かべながら、冗談を言えるんだから。


 何て言うかさ、人間って、笑いながら怒られると、とてつもない恐怖を感じるらしいんだ。

 前に魔法医師の勉強で面白い論文をみつけて、私が教えてから、チャールズは身につけたらしいよ。


「君たち、どうする? 私に謝って和解する? それとも一族ごと排除が良い?

執行猶予を与えてあげるから、自分で選んで」

「……申し訳ありませんでした」

「なに? 聞こえないけど。

それから、私は王子だからね。王族への敬意を示さないと、不敬罪も適応になるよ?」


 いや、睨まないでよ。私のせいじゃないよ。チャールズが裁けって、命令したんだから。

 それに、誘導してないよ。君たちが、自分から謝罪を選んだからね。


「ダニエル王子、申し訳ありませんでした。心より謝罪を申し上げます」

「じゃあ、今回は君たちの主である、チャールズ国王の顔に免じて、和解してあげるよ。

臣下として、チャールズ国王に、一生感謝しながら働かさせてもらうことだね」


 人間って、立場ってものを、きちんと教えておかないと。付け上がるらしいからね。

 獣人なら、上下関係に厳しいのに。本当に、面倒で困るよ。


「くっ、獣人風情が調子に乗りおって。騎士団の名のもとに、切り捨てくれる!」

「穢れた種族、獣人よ。我慢ならん、消し炭にして殺してやる!」


 およ? 反抗するんだ。学習能力低いよね。

 いい加減、こんなおバカさんから、チャールズやヘンリーの頭を、守ってやらないと。


「……チャールズ国王、和解したそばから。侮辱されたんだけど。それに、『切り捨てる』『消し炭にして殺す』って、脅迫罪の適応範囲のはずなんだよね。

法務長官として、二人を公訴して、容疑者として法廷に送っていい?」

「ああ、構わん。一度はチャンスをやったのだから。だが、罪になるか?」

「うん。チャールズ国王とヘンリー宰相も、二人の発言聞いたよね?

二人が法廷で証言してくれれば、有罪に……」

「いくら陛下の証言があろうと、証言など証拠にはならぬわ」

「宰相、我らが居なくなると、明日から困りますぞ。我らほどの実力者が居ると?」


 ……こいつら、腹立つ! 私が話してる途中で、割り込まないでよ。

 まあ、そこそこ実力があるみたいだけど、人格的に問題あり。

 人の上に立つような、人材じゃないよ。


 先代国王が薬付けで、おバカさんたちに傀儡にされてたから仕方ないけど。

 騎士団長も、筆頭宮廷魔導師も、傀儡を利用して、勢力を伸ばしたやつらの一部だ。


 薬付けにしてたヤブ医者は、私が宮廷魔法医師になってから、免許剥奪して法廷送りにしてやった。

 魔法協会本部と、世界的に有名な魔法医師の家系を侮らないでよね。


 とにかく腹が立ちつつ、無言でチャールズとヘンリーを見たら、二人は頷いた。

 私たちが進めてきた準備が、いくつか整ったという合図。


「別に証言が無くても、構わないよ。揺るぎない物証があるから。

ここの医務室って、音声保存の魔道具が、一日中働いてるんだよね。

患者の容態変化を知りるために必要だって、君たちが取り付けてくれたアレね。

音声は世界の理に記録されてるから、法廷で理から今日の音声を取り出せば、君たちの発音は嘘偽りなく再生されるから、証拠の心配はしなくてもいいよ」


 患者の容態変化は、建前。

 私の行動を監視するために、おバカさんたちが取り付けた魔道具。こちらが利用させてもらうよ。


「あっそうだ、イーブ。脅迫罪についても、分かりやすく説明してあげなさい」

「はい。生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫する犯罪です」

「騎士団長殿、筆頭宮廷魔導師殿。理解できた?

うちの息子は、十一才だけど、君たちに説明できるんだよ。さすがに、年上の大人が知らないのは、どうかと思うんだけどさ。

せめて、法の基本である憲法くらいは、勉強したほうがいいと思うよ? 助言は、したからね」


 この『助言』って、部分が大事なんだよね。

 侮辱じゃなくて、助けになるような意見を言ったんだよっていう意思表示だからさ。


 我に返ったおバカさんたちが、私を侮辱罪で公訴し返しても、無駄だよ。

 音声を再生したり、チャールズとヘンリーや、『助言と言っていた』と法廷で証言すれば、侮辱罪の成立は難しくなるからね。

 やり方次第では、私が名誉毀損されたと公訴して、逆に罪にすることも可能だと思う。


「では、騎士団長殿と筆頭宮廷魔導師殿、よく聞いて。手続きについて、説明しておくから。

宮廷魔法医師以外の私の肩書きは、先ほどチャールズ国王が、言ったように『法務長官』なんだ。つまり、法務省の最高責任者ってこと。

私が部下に命じれば、君たちは犯罪の容疑者として拘束されて、取り調べを受けるの。その後は、裁判所送りになって、裁かれるから覚悟してね」


 司法官時代に、面白いって思ったことがある。他の大陸では、警察っていう、独立した捜査機関があるらしい。

 うちや獣人王国では、法務省が捜査機関も担ってる。場所が変われば、担当も変わるんだって、感心した。


「そうか。では、宰相、あとで日程を調節してくれ」

「わかった。それから、次の騎士団長と、筆頭宮廷魔導師の斡旋もしておく」

「およ、次の人材いるの? 居ないみたいから、私は毎日、罵詈雑言を浴びせられても、我慢してたんだけど」

「心配するな、ダニエル。北のエステ公爵領出身者に、エルフに学んだ変わり者がいる。

ボクの親戚だ。エステ公爵家の血筋もひき、貴族としても最上位だ。

一月前まで、魔法協会の本部で勤めていてな。明後日、うちの領地に帰ってくる予定だった」

「おー、すごいすごい。魔法協会本部の経歴あるなら、この国一番の職歴だもんね。世界中の魔法使いにも、顔が利くし。

んじゃ、騎士団長は誰にするの、チャールズ?」

「青の英雄の子孫である、東のワード侯爵家次期当主に決まっているだろう。

騎士団長が犯罪者になっては、懲戒免職にするしかない。ならば、位を繰り上げ、副団長を団長にするまでよ」

「いやー、持つべきものは、頼れる親友だね♪ それじゃあ、後で法務局員寄越すから、手続きよろしく。

騎士団長殿、筆頭宮廷魔導師殿、もし取り調べを拒否したり、逃げたりすれば、法務長官権限を行使して、公務執行妨害で逮捕するよ。

公務執行妨害を私が宣言した瞬間から、犯罪者になって、刑罰は免れないからね」


 青ざめた、おバカさん二人。勉強になったかな?

 頭脳や権力って、こうやって使うんだよ。


「ちーえ、ちゅごいでちゅの!」

「さすが、父上ですね!」


 子供たちの私を見る目付きは、尊敬一色だった。

 そうでしょう、そうでしょう。


 私は、この国の元司法官なんだ。法廷で渡り合う気なら、いくらでも受けて立つ。


 二十年前の私たちとは、違うんだ。

 獣人の私自身を囮にして、少しずつ、内部の人材も入れ換えてきたし。

 子供たちの未来の負担を、少しでも減らしておかないとね。

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