幸福だけの世界
この世界には何一つ嫌だと感じるものは無いのです。
嫌だなと思ったものは翌日には無くなるのです。
難しい算数のお勉強も、苦いピーマンも、地味な灰色の無地のワンピースも何もかも無くなるのです。
この世界には熊さんや猫さんや兎さんやわんちゃんなどのたくさんのお人形さんが住んでいます。
みんな、みんなとても優しいのでわたしはいつも幸せです。
この世界には人間は私しか居ませんが皆に囲まれているので寂しくないです。
ベッドはふかふかで、床もふわふわなので転んでも痛くないのに皆心配してくれます。どこまでもこの世界は私に優しいのです。
猫さんの作る料理はどれもとても美味しいのです。私の1番の大好物はとろとろしたオムライスです。その上にケチャップで描かれた猫はあまりにも可愛いので、それを避けて最後に食べます。
熊さんはとても大きくて、ふわふわの毛が気持ちよいのです。なので熊さんのお腹の上でお昼寝をさせて貰います。
わんちゃんは駆けっこが得意なのです。私はわんちゃんの背中に乗って森まで走って貰うのが大好きです。風が気持ちよいのです。
私には優しい皆がいます。お父さんもお母さんもいないけれど毎日楽しいので悲しむ隙もありません。
寂しくなどないのです。
いつも通り朝が来て目が覚めました。
猫さんの朝ごはんを作るときに立てる音が聞こえません。
鳥の鳴き声も聞こえません。
みんな、みんな居なくなってしまいました。
────ひとりぼっちになってしまいました。
「あの時、私の“寂しい”という感情を生み出した責任で皆は消えてしまったのね………」
世界は少しずつ小さくなっている。今ではもうこのベッドが辛うじてあるくらいだ。
「私が皆を消してしまったのね」
涙がぽとり、と暖かかった布団に落ち、吸い込まれた。
数多にも渡る世界。
平行でもあり、鏡のようでもあり……。
誰にも把握など出来ない。
けれども、確かに今この瞬間。
1つの世界が消えた─────。




