[1-2]急襲
青年に連れられるまま、近くのリコナ村までやって来た。
「本当に、本当に、ありがとうございましたっ!」
俺たちは村に着くなり村長の家まで案内されていた。客間に座る俺と青年の向かいには、村長と少女が座っている。青年がカイン・リーンハイトと名乗ったのに合わせて、俺も名乗った。
「いやいや、貴方を助けたのは私ではないんです」
先程から話を聞いている限りでは、カインはオークとかいうあのバケモノのいる森に行ってしまった少女を探して欲しいという依頼だったらしい。
……………女神はそんなトコに俺を放り込んだのか…。
「彼がオークの気をひいてくれたからです。恥ずかしながら、私は間に合わなかった。彼がいなければきっと」
「ありがとうございました…!」
「いや、俺は別に…………」
庇った後に腰を抜かしてしまったなんて言えなかった。
「お二方には本当に助かりました。私からもお礼申し上げます」
村長までもがうやうやしく頭をさげる。
「いや、だから、俺よりも………」
『うわぁぁぁ!!』
叫び声。いや……それに混じって、さっき森で聞いたような音が聞こえる…………?
「まさか……っ!」
おそらくオークの声だ。それに人の悲鳴と言うことは、オークが村まで来たのか……………!?
「村の端の方か。すみません、見てきます。君も来い」
カインは剣と盾をとり、走っていった。
「はぁ!?」
「む、村にオークが…………?や、ヤスタカさま……どうしましょう………!」
「どうするもこうするも無いでしょ!村の人を誘導して安全な所に隠れるべきです。俺は彼を追います。村長たちも早く!」
「は、はい!」
とっさに言ってしまったが、本来なら俺も逃げ出すべきだったのだ。カインさえいればオークは何とかなるし、俺が行く意味が無い。…………のだが、村長に向かう言ってしまった手前、俺も急いでカインを追った。
* * * * * *
「カイン!!」
村の入り口、木で組まれた小さな物見やぐらにいた。やぐらからは村へと続く道が見える。その道には十数体のオークがひしめいて、こちらへと歩みを進めていた。
「君か。見ろ、オークの群れだ。先程の叫びはやぐら番の叫びの様で、ここまではもう少し猶予がある」
「そ、そうか。……………って、お前、さっきなんで俺を呼んだ。もしかして、俺が戦力になるとでも思ったのか。それならとんだ勘違いだぞ」
森での一連の件を見れば分かるはずだ。俺は武器すら持っていない素人だし、戦力で言えば村の成人男性の方が強い可能性も大いにある。
「そんな事は無い。村の人はオークに怯えきってるんだ。とても戦力にはならないよ。それに、君はオークに立ち向かう度胸を持っているんだろう?」
「その度胸を無謀だって言ったのは何処のどいつだよ」
「はははっ。それなら僕がその無謀を勇気に変える手伝いをしよう。ついて来い」
そういって、カインはやぐらを降りていった。
………さっきから思っていたが、こいつ、何かイケメンだな……。剣の腕は立つし、上手く謙遜するし、ちまちまカッコいい事を言う。
…………普通、ファンタジーの世界って始めに美少女と出会うんじゃないのか……?
「っておい、待てよカイン!」
そんな事よりも、今はオークの群れだ。あれをどうにかする算段を立てなければ。
というか、カインを見失った……………。
当たりを見回して探すと、カインは木で組まれた村の門の近くの低いやぐらに登っていた。
「ヤスタカ!来い!」
「早ぇよ!──っておい!?」
あろうことかカインはやぐらの手摺に手をかけ、門の向こうへ飛び降りた。
てか、来いってあいつ、俺にも飛び降りろっていうのか!?
「何なんだよ……くそっ!!」
物見やぐらを降りて、向こうのやぐらへ走る。登って手摺から下を見ると、それなりの高さがあった。
「早く来い!」
「さっきから来い来いうるせぇな!………………くそっ、やってやらあ!!」
力いっぱい踏み込んで、手摺を飛び越える。低いといっても二階近くあるのではないか。
「うおわっ!?」
無様に尻から着地。悶えるほどではないが、地味に痛い……。
「門開けて通れば良かっただろ………」
「君も俺も門の鍵を持ってないだろう。ほら、これを使え」
カインから渡されたのは、カインが森で使っていたのと同じ鉄製の剣。
「剣の経験は?」
「ほとんど無いに等しいぞ…………」
中学時代に剣道の授業でやったっきりだ。それに剣道は竹刀だ。こんなしっかりとした剣ではない。
「大丈夫。皆無じゃないだけマシさ。両手でしっかり持って、相手を良く見て、落ち着いて斬る。無理はせずにね」
「そんな上手くいくわけ………」
ふと気づいた、オークの足音が近い。もう、すぐ近くまで来ているのか……………!?
「構えて!来るぞ!」