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勇者なんていない  作者: 4ox
3/6

[1-1]邂逅

今回から本編です。

どうぞよしなに。


俺が承諾すると、ふいに強烈な眠気が襲ってきた。俺は膝からその場に崩れ落ちる。意識が朦朧とし始め、ついには(うつぶ)せにその場に倒れてしまった。

落ち行く意識の中、女神が不適に笑ったように見えた。



「ここは……………」


目が覚めると、俺は森の中にいた。辺りを見回しても何のへんてつもないただの森だ。もしかして、あの女神とかいう女は異世界などと嘘を言って、その辺の森に放ち、俺が信じるか否かのドッキリを仕掛けているのではないか。


「何処だよ………………」


どちらにしても、ここが俺の知らない場所なのには変わりがない。そう思って木の生えていない、ぎりぎり道のようになっている場所を沿って歩いていく。


だが、道なりに歩いていても何も見えてこない。人や建物の気配は無く、同じような景色が続いていく。


「はぁ…………」


訳の分からない事ばかりで、精神的にも疲れてきた。電車に引かれた時の痛みも体には残っていないが、記憶として脳には残っている。

何度目かも分からない溜め息を吐くと、


ガサガサッ!


草木を掻くような音。

誰かいる。そう思って走り出した。

音のした方へ草木を掻き分けて走る。


「誰か!……………………………え?」


そこにいたのは、2人。いや、1人と1体と言うべきだろうか。

1人は女性。切れやほつれを何度も直したような継ぎ接ぎのベージュのワンピースは、袖や裾が泥にまみれている。今もそうだが、恐らく何度も地面に倒れてしまったのだろう。その表情は死に瀕したような恐怖の色を浮かべている。

もう1人は、…………見たことの無い生き物だ。3mを越えるような巨大な体躯に、その肉体は隆々とした筋肉に包まれている。人とは思えない、くすんだ緑色の肌の上には、なめした動物の革を纏っている。


異形だ。異形としか言えないその生物が、金属片を木の棒にくくりつけた原始的な矛を手にして、女性に襲いかかろうとしていた。

していた、と過去形なのは、現在俺が大声を出して現れたせいだ。つまり、その異形の注意は俺に向いている。


「た………助っ……け………っ」


女性の声はかすれて、ほとんど言葉になっていない。女性は死に瀕した『よう』なのではなく、確定的に死に瀕しているのだ。


────もしかしたら、助けられるんじゃないか?

────俺に注意が向いているなら、俺が身代わりになれば。


「……っ!」


ダメだ。そんな事をしたら、俺が死んでしまう。あんなサイズのバケモノから逃げ切れる訳がない。女性が俺の前で殺されるのは寝覚めが悪いが、死んでしまえばそれ所じゃ無い。


「た………助…け…………っ!」


このままじゃあの女性は死ぬ。俺が味わったあの痛みをあの女性も味わうハメになるのだ。あの痛みを…………。


────なら、俺でいいじゃないか。為す術もなく失った命を今度は誰かの為に使えるのなら、それでいいじゃないか。


「……………やってやるよ。世界を変える一歩目だッ!」


近くの木の小枝をへし折り、ソイツの顔を狙って投げつける。

運良く枝が目に当たったようで、ソイツはオーバーに目を覆った。その隙に女性は立ち上がって、礼も言わずに走り去っていく。

作戦成功だ。後は、俺が上手く逃げられれば100点の結果に──


「グォアァァッ!!」


雄叫びと共に、ソイツが矛を振るう。視界を遮られたまま放った薙ぎ払いは、俺をかすめる事すら無かった。だが、その矛の先は何本かの木の幹を叩き割った。雄叫びよりも大きな轟音と共に木の幹が倒れる。


「嘘だろ…おい……………」


早まった。コイツを見かけた瞬間に急いで逃げるべきだったのだ。ましてや喧嘩を売るなんて、命知らずにも程があった。

……………このままでは本当に2度目の死を味わってしまう。こんな甘い考えで世界を救うだなんて、やはり傲慢だったのだろう。


「………おわっ!?」


急いで逃げようとして、草に足をとられて倒れこんだ。

………滑稽だ。技量も無いくせに人助けなんかするんじゃなかった。ピエロにも程がある……。


「グォアァァァァッッ!!!!」



ガキンッ!



「素晴らしい行いだけど、勇気と無謀はしっかりわきまえた方が良い」



…………え?


透き通ったよく通る声の青年。赤い鎧を纏ったその青年は何処からともなく現れ、俺に迫ったその矛をいとも容易く盾で受け止めた。


「下がっていろ」


「え……お、おう」


言われるままに下がる。

青年は受けとめた矛を容易く弾いた。すると素早く懐に入り込む。


「はぁぁっ!!」


横薙ぎに払った一撃が、がらあきの腹部を切り裂く。

すかさず、切り上げ、袈裟斬り、再び横薙ぎ、痛みで怯んだその胴体に何度も斬撃を見舞った。


「ガ……ァ………ッ!」


巨体が地に伏す。そして音も上げなくなった。


「はぁ…っ………はぁ…っ…」


それは、ものの数秒の出来事だった。


「大丈夫かい?立てる?近くの村まで案内しよう」



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