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【ニーチェ】利人と千恵が『善悪の彼岸』を読むようです。【哲学】  作者: 安藤ナツ


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【一五二】【智慧の樹】

【「智慧の樹が生えているところは、どこでも楽園だ」。もっとも古き蛇も、もっとも新しき蛇も、そう語る。】




「蛇ってさ、何を考えてあの姿になったんだろうね? 絶対生活しづらいでしょ。トカゲになって正解だと思うよ」

「トカゲが進化して蛇になったらしいけどな」

「そうなの? 退化してんじゃん」

「別に四肢を失う進化と言うか退化は珍しくないけどな。世界中に蛇が分布してることから考えても、アレはアレで理に適った姿をしているってことなんだろうな」

「ふーん」

「ただ、手足がないその姿はやっぱり人間の目には奇異に映るのも確かなようで、世界中に蛇をモチーフとした神話は数多い。その姿や毒を持つことから悪神として扱われるがちな可哀想な奴でもある。一部では逆に神聖視されていたりすんるんだけど」

「流石の私も旧約聖書の蛇位はしっているよ。アダムとイブを唆して、楽園から追放させたのも蛇なんだよね?」

「そうだな。四文字の奴が『食うなよ! 絶対喰うなよ!』って最初の人間アダムとイブに口を酸っぱくしていた“智慧の実”。この果実を食うと人間は神々と同等の知識を得ることが可能らしい。要するに、神は人間が自分と同等になることを恐れていたんだな」

「そんなのを手の届く場所に置いとくなよ」

「もっとも話だが、その時の人間は智慧がなく純真だった。神の言うことは絶対だった。旧約聖書はとにかく、“神は絶対”と言うことが強調されている物語で、神は自分の偉大さを知らしめる為にちょくちょく滅茶苦茶する。創世記じゃあないが、ノアの箱舟なんて有名だろうな」

「堕落した人類を洗い流すんだっけ?」

「他にもソドムとゴモラを焼きつくしたりな。どうして人類がそんな目に合うのか? それは智慧の実を食べてしまった原罪に基づくとされている」

「話しが智慧の実に戻って来たね。要するに、神様との約束を破って小賢しくなっちゃったから、人類は幸福でなくなったってこと?」

「まあ、正確かどうかはおいといて、間違ってはないな。人類はこの時に“善悪”を理解したそうだ。そして、そう導いたのが、蛇。まずはイブを唆し、そしてイブにアダムを唆せた諸悪の根源、それが蛇だ」

「悪い奴だなー。でもさ、なんでそんな蛇が楽園にいるわけ?」

「諸説あるな」

「諸説あるの!? 一番大切な所じゃん! もっと設定練ろうよ!」

「世界で一番売れているベストセラーに文句付けるとか何様だよ。まあ、悪の親玉たるサタンの化身が入り混んだってのが通説なのか? 実は楽園の神様は贋物で、この蛇は真実の神による啓蒙だとする説があったり調べて見るとそれなりに面白い」

「サタンが唆したのはわかるけど、真実の神って?」

「この世界は神様が作ったにしては不完全だろう? だから、この世界を造った神様は贋物で、何処かには本物の神様がいる筈だ! って言う思想、グノーシス主義って言うのが世の中にはあるんだ。この場合、蛇は偽りの楽園から人類を解放した存在になる」

「厨二病感溢れる設定だね。利人は好きそうだけど」

「あのさ、聖書のことを設定って言うのは止めよう」

「了解、了解。まあ、言わんとすることはわかったよ。【古き蛇】って言うのは、その蛇なんだね。【「智慧の樹が生えているところは、どこでも楽園だ」】って言う台詞は?」

「智慧の実を食べたことによって、人類は楽園を追放される。“失楽園”って奴だな」

「『ああ、幸福は見るかげもない! これはこの新たな楽園の終末なのか……?』」

「ジョン・ミルトンの失楽園か。良く知ってるな」

「ポータル版ハルマゲドンのフレーバーテキストだからね」

「あ、そう。で、これによって蛇は地を這うことしかできず、女は出産に痛みを伴い、男は汗水流して働くことになった。これも智慧の実を食べてしまったからだろう」

「なるほど。それは確かに智慧の樹がある所は楽園だろうね。って言うか、蛇がああやって移動するのは神の罰だったのね」

「労働は男の罰ってことを考えると、出産するキャリアウーマンとか敬虔過ぎる気もするな」

「女性の社会進出は男性の罪を余計に背負う行為だった!?」

「キリスト教的な観点で言えばな。そう考えると、神は確かに死んだのかもな。さて。古い蛇と智慧の実について語った所で、次は【新しき蛇】についてだ」

「【古き蛇】が旧約聖書って言うのはわかりやすいけど、【新しき蛇】はぱっと思い付かないよね。他の神話にしても、結局は新しいとは到底言えないし。って言うか、キリスト教って他の宗教と比べて古いの? 新しいの?」

「元々ユダヤ教だからなー。古いけど、新しいっちゃあ新しい。ただ今回にしてみれば、そこは考えなくて良い。今回の【新しき蛇】はかなり新しい」

「そうなんだ」

「なにせ、ニーチェの考える蛇だからな」

自分の思想(オリキャラ)かよ!」

「ニーチェの蛇と言えば、ツァラトストラの鷲と蛇。大抵の神話では鷲と蛇は敵対している勢力として描かれることが多いな。鷲は正義の味方で、蛇は悪だ。天使に翼が生えていて、ドラゴンが邪悪の化身であることを考えてもらえばわかりやすいか? そもそもツァラトストラを教祖とするゾロアスター教では、善の神アフラ・マズダーが鷲、悪の神アーリマンは蛇と例えられているほどだからな」

「そうやって説明するってことは、ニーチェの鷲と蛇は違うんだ」

「ああ。めっちゃ仲が良い。翼を持つ鷲が自由等の象徴であるように、脱皮する蛇は自己克服の象徴であると考えられ、“超人”や“永遠回帰”って言う思想を表現している」

「つまり、ニーチェにとって他人の善悪なんてどうでもいいってこと?」

「だな。善も悪も人生には必要だってわざわざ堂々と言ったのも、ニーチェらしい考え方だろうな」

「それで? 【新しき蛇】が言う【智慧の樹】って言うのは、当然旧約聖書の楽園じゃあないんだね?」

「ああ。神の庇護を楽園とニーチェは言わないだろう。ニーチェの蛇が語るのは、ニーチェの思想。つまりは“超人”だ。人類はより高みに登らなければならない。この神なき時代において、必要とされるのは“超人”。そこに至ることこそが現代の楽園ってわけだ」

「なるなる。結局はそこに持っていくわけね」

「まあ、そう言う本だからな」

「でも、同じ楽園でも随分と差があるよね」

「ん?」

「だって旧約聖書の楽園は最初っから一日中全裸でいても平気で、食事の心配もなかったんでしょ? でもニーチェの言う楽園は“力への意志”だっけ? それで自己克服を続けてようやく辿りつける境地で、しかも別に凄まじい超能力を得るとかそう言うわけじゃあないんだよね?」

「ああ。“永遠回帰”――同じ人生を永遠に繰り返した果てで『もう一度』と自分の生を肯定できる人間が“超人”だからな。幸福も不幸も、善も悪もない、彼岸の極地だぞ」

「達観し過ぎていて、楽園感ゼロなんですけど」

「まあ、でも、旧約聖書の楽園も退屈そうだけどな」

「確かに。WI-FIあるのかな? なかったら楽園とは言えないなー」

「現代っ子が。ルーターはないけど、生命の樹があるぞ」

「いや、ネットが繋がるか同化の方が重要でしょ。今時、アマゾンの奥地でもネットくらい通じるんじゃない? 何処にあるの? その辺境」

「辺境言うな。聖書を読む限り、異世界にあるって感じではなかったな。現在は智天使ケルビムと回転する炎の剣が守っているとか」

「僻地の癖にセキュリティだけ凄いね。超人にはそう言う特典はあるの?」

「いや、ないけど」

「そっか。うーん、私は暫く現実で頑張るよ」

「それが良い。超人への第一歩だ」


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