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【ニーチェ】利人と千恵が『善悪の彼岸』を読むようです。【哲学】  作者: 安藤ナツ


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【一五一】【才能】

【才能をもつだけでは十分ではない。諸君から才能をもっていることを認めてもらわなければならないのだ。――そうだろう? 友人諸君?】




「才能、って何なんだろうね?」

「goo辞書によれば『物事を巧みになしうる生まれつきの能力。才知の働き。「音楽の才能に恵まれる」「才能を伸ばす」「豊かな才能がある」「才能教育」』とあるな。後天的ではなく、先天的な性質のことを指すみたいだ」

「でもさ、究極的に言っちゃえば、才能があっても努力がなければ意味なくない?」

「当然、そう言う意見もあるだろうな。ただ、同じ時間練習しても、能力に差は出る。千恵の知識量をラディッツの戦闘力程度だと仮定して、俺の知識量は五三万位あるだろう? 同じ時間を生きていても性能に差が出るのは、やっぱり才能ってのはあるんじゃあないか?」

「それはちょっと自分のことを高く見積もり過ぎじゃない?」

「カノウモビックリミトキハニドビックリササキリモドキ」

「は? 加納と佐々木がびっくり?」

「とある昆虫の名前で、適当に名前をつけて紹介したことが切っ掛けでこの和名になった。知らなかっただろ?」

「知らなかったけど、そんな勝ち誇った顔しなくても。って言うか、それは明らかに才能じゃなくて、利人が努力と言うか意図的に覚えた情報じゃない? 先天性皆無じゃん」

「む」

「って言うか、基本的に利人って才能って点では普通だよね」

「あ?」

「だって、運動神経良いくせにちょくちょくどんくさいでしょ? 頭良いのに空気読めないし、隙があれば読書して知識収集に忙しいしさ。天才だって言うにはちょっと神経細かい気もする。そもそも、物事を収めるよりも、煙に巻いて有耶無耶にする方が得意だよね」

「…………」

「そうなると、このアフォリズムは利人には難しいかもね。【才能をもつだけでは十分ではない。】んだよ? そもそも持ってない利人には共感し難いんじゃないかな?」

「終いにゃ泣くぞ」

「その時は慰めてあげる」

「よろしくたのむよ! 俺が天才かどうかはもう棚に上げるとして、【才能をもつだけでは十分ではない。】って言うのは正しいことはわかる。普通の人間だったら『才能があっても努力が必要だよ』みたいな話に持ってくんだが、ニーチェは違う。残酷だ」

「【諸君から才能をもっていることを認めてもらわなければならないのだ。】だね。正に、利人は私に才能を認められていないわけだ」

「天才だと認識されることによって、初めて天才は存在する」

「なんか、アレみたいだね。えーっと、シュレディンガーの猫?」

「量子力学、コペンハーゲン解釈の奴だな。どちらかと言うと、不確定原理の観測者効果と言った方がいいかもしれないけど」

「まあ、そんな小難しい話は脇に置くとして……アレ? ニーチェも小難しい話な気がする? 偶には好きなサーティーワンアイスの話でもする? ちなみに、チョコミントは歯磨き粉みたいな味がするから嫌い」

「例え天才であったとしても、誰からも認められなければ虚しいものだ。ありがちな例で上げれば、芸術家の中には死んだ後に評価を受ける人もいる。生前は絵を書くのにも苦労したのに、その死後は使った筆ですら高値で売買されるんだから傑作だ。あと、好きなアイスを語るのに嫌いなアイスを上げるな。そしてお前は全てのミント製品好きを敵に回したぞ!」

「そんなにミントが好きなら、利人ん家の庭に種を撒いてあげようか?」

「バイオ兵器は条約で禁止されているから止めろ」

「話を戻すと、確かに才能は認められないと意味ないよね。その画家の例にしてもそうだし、アインシュタインだって回りの人間が『は? それで?』って言えば相対性理論もそれまでだし、ベートーベンの音楽を理解できる人がいなきゃ第九が年末に流れることもなかっただろうね」

「まあ、第九を年末に流すのは日本だけらしいけどな」

「だから、そう言う豆知識アピールしても私の意見は変わらないって」

「っち。まあ、才能が他人に認められられなければ意味のないモノって言うのはそう言うことだ。天才的な発明ですら、周囲が理解しなければ意味がないのも千恵が言った通りだろうな。俺達からしてみれば、自動車は馬車よりも優れた移動手段だが、出て来た当初はまったく認められてはいなかった。第一次世界大戦を切っ掛けに変わって行ったみたいだけどな」

「またトリビアを……」

「だが今回のアフォリズムのキモは最後のダッシュ以降の部分だと俺は思う」

「【――そうだろう? 友人諸君?】」の部分だね」

「千恵はどう思った?」

「どうも何も、今の利人と同じだよ」

「俺?」

「私に天才って言って欲しくて必死だったじゃん。【――そうだろう? 友人諸君?】は、暗に求めているんでしょ?『俺って天才だよな?』って。あー、やだやだ。これだから能力のある人間って言うのは。自分が褒められて、称えられて天才だと思ってるんでしょ? ニーチェも多分、そう言う奴ね。きっと、部屋に籠って毛布被ってパソコンの前に座りながら『俺が認められないのは世間が悪いんだ』とか言っていたに違いないわ」

「お前の中のニーチェ像、歪み過ぎだろ。それはニーチェじゃなくてニートだ」

「実際、生前は大して評価されてなかったんでしょ?」

「まあな」

「でも、流石に自分の本に愚痴は書かないかな?」

「昔の小説とか読むと、平然と作者の自分語りとか、知識自慢が入っていることも多いけどな。『その説明、今必要!?』って思うことは珍しくない」

「あ、じゃあ、やっぱりそうだよ。断章一つを犠牲にして愚痴を書いたんだね。そんな本、売れなくて当然じゃない?」

「当然だけども! 『売れてない』とか言ってやるなよ。と言うか、千恵の意見は独創的で素晴らしいが、俺にもちょっと補足させてくれ」

「好きにしなよ」

「俺は【――そうだろう? 友人諸君?】を強請るような意味には考えなかった」

「ほう。あんだけ、天才って言って欲しそうだったのに?」

「千恵がそうミスリードするよに死向けたのさ」

「本当かよ」

「これは“自分のことを天才だと思っている諸君”に向けて言った言葉だと俺は思う」

「つまり“お前は天才って言われたいんだろ?”ってニーチェが煽っているってこと?」

「悪意を持って解釈すれば、そうなるかもしれないな」

「じゃあ、オブラートに包むとどうなるの?」

「世の中には、自分が特別だと思っている奴が多い」

「まあ、昨今のSNSの流行を見ればわからなくもないかもね。自己承認欲求って言う奴?他人と自分は違うってことに必死になっている人も多いし」

「人の楽しみにケチをつける気はないけど、飯食う前に一々写真を取る奴を見るとイライラする」

「会話に一々豆知識を挟まれると偶にイラっとする私の気持ちにもなって」

「そんな自分は優秀だと思っている人間の大抵は、認められていない。それは何故か?」

「他人から認められてないからってことだね?」

「まあ、そうなるんだが、そいつ等が全員特別な人間だと思うか?」

「ん? 人は全てオンリーワンみたいな話じゃあないよね?」

「当然だ。話をひっくり返すことになるが、天才って言うのは天才であるだけで十分じゃないか? 誰が認めなくても、偉業は偉業として後世に残って行くだろう? 才能はもっているだけで十分だ」

「そりゃあ、相対性理論も第九もその素晴らしさと知名度は全く関係ないけどさ」

「だろ? 認められていなくても、天才は天才だ。勝手に天才と言う称号はその成果について来るだろう。天才と認められたいと思う時点で、その天才性は怪しいもんだ」

「つまり、何が言いたいの?」

「お前らは天才と呼ばれたいけど、それに相応しい才能を持っているのか? って言う皮肉に俺は思えた。要するに、虚栄心に塗れた願望をもった人間が世の中には溢れているって話さ。褒められないのは、単純に才能がないからだ」

「うーん。回りくどい感想だなー。利人の性格が滲み出ているね」

「おいおい。そう、褒めないでくれ。天才だと勘違いしちまいそうだ」


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