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【ニーチェ】利人と千恵が『善悪の彼岸』を読むようです。【哲学】  作者: 安藤ナツ


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【一四五】【脇役と化粧】

【男と女を全体として比較してみるならば、次のように言えるだろう。脇役を演じる勘のない女性は、化粧の才能にも欠けているだろう。】




「またまた男女ネタだね。【全体として比較してみるならば】って、何か統計とったわけ?」

「取ってないんじゃあないか? 統計学自体は、科学哲学とも深い関係性がある分野だけどな」

「科学哲学? 科学と哲学っていっしょくたになるモノなの? 水と油のような気がするんだけど?」

「科学哲学はそのまんまだ“科学”って分野その物を“哲学”する分野。科学的な妥当性を証明したり批判したりする学問」

「は? 意味がわからないんだけど? それって科学じゃないの?」

「んー。殆どの人が哲学って言われると『我思う、故に我あり』みたいな概念的な思索する分野を想像すると思うんだが、それはぶっちゃけ古い。日本人と聴いて“ちょんまげ”を想像する外国人みたいなもんだ」

「そんな外国人、今時いるのかな?」

「それくらい、哲学と科学を分けて考える人間は古臭いってことだよ。“何故世界はこの姿なのか”って言う疑問に答えを出そうとしたのが、そもそも哲学だ。紀元前では既に“これ以上分解できない存在”として原子の名前の元ネタでもある“アトム”って言う概念も考えられていた。これが集合して世界ができているって言うのは殆ど科学的な回答だと思わないか?」

「確かに、私のイメージする哲学の答えじゃあないね」

「ガリレオ・ガリレイだとかアイザック・ニュートンだとか、レオナルド・ダヴィンチだとか、あの辺りの連中も自然哲学者だったわけだし、何も概念的な思索をするタイプだけが哲学者ってわけじゃあないんだ」

「なんか、釈然としないなー。でも、まあ、そう言うことなら統計を取るって言うのは哲学者にとって重要な行為だって言うのは納得かな? たった一度の現象だけで判断する科学者なんていないだろうし」

「さっきも言ったけど、このアフォリズムに関してはニーチェが統計を取ったとは思えないけどな」

「とれよ、学者として」

「まあ、やっぱりこれは比喩的表現であって、実際に男女を比較して云々言っているわけじゃあないからセーフってことで。前回のアフォリズム同様、真理とはどう言った物か? って言うのを、ニーチェ以外の哲学者と比較して表現しているわけだ」

「なるなる」

「つまり、この【男】達って言うのは、哲学者の比喩であって、自称観察者達だ」

「ああ。だから真理側は【脇役】だとか【化粧】だとか演劇だったり見た目だったり、外から見られるモノに例えられているわけね」

「そうだな。そして面白いことに、その二つはどっちも“嘘”だ」

「嘘?」

「演劇はフィクションだし、化粧は素顔じゃあないだろ?」

「男の人って、化粧をそうやって否定的に言うよね。色々大変らしいよ?」

「なんで女子サイドの千恵も聞きかじった風何ですかね?」

「まあ、素でカワイイって言うのもあるけど。校則の都合であんまり化粧できないしね」

「校則はちゃんと守ってるんだな」

「学業でマイナスな分、生活態度はしっかりしとかないと。褒めて良いんだよ?」

「学生の生活態度がしっかりしていたら、学業はマイナスにならないと思うんだが」

「…………正論ばかりが正しいとは限らないんだよ?」

「で、だ。話を戻せば【脇役を演じる勘のない女性は、化粧の才能にも欠けている】らしい」

「つまり、化粧をあまりしない私は、脇役を演じる勘もないわけだから、主役級の存在だと?」

「千恵が主役級かどうかは知らんが、脇役も演じられないのに主役に抜擢されると思うか?」

「そりゃ、いるでしょ。脇役なんて所詮、脇役じゃん。主役と脇役じゃあ、全然重要度が違うよ。主役になるべくしてなる人って言うのは存在するって断言できるね。ほら、脇役にしては華が在り過ぎる人とかいるんじゃない? 美人だったり、背が高かったり、演技が上手だったり。漫画でもさ、主人公よりも目立っちゃうキャラクターとかいるでしょ? そっちが主人公とか言われちゃうような作品」

「なるほど。確かに、そうだな。そいつらは間違いなく【脇役を演じる勘】がない人種だろう。そしてそいつらはニーチェに言わせれば【化粧の才能にも欠けている】人ってことになる」

「ん? ここがわからないね。脇役を演じられない人でも、化粧が上手な人はいそうだけど?」

「千恵、化粧って言うのは何のためにあると思う?」

「そりゃ、より美しく見せる為じゃないの?」

「それは女性側の意見だな」

「私の言葉を女性代表にされても困るんだけど? でも、自分を醜く見せる為に化粧する人はいないんじゃないかな? そんなに大きく間違ったことを言っている気はしないんだけどな。男の人にとって化粧って、じゃあ何なの?」

「化粧は表現さ。時と場合によって、相応しい自分を演じるための仮面みたいなもんだ」

「お? なんか私より化粧に造詣があるみたいな発現だね。プロっぽい!」

「いや、俺は別に化粧に詳しくはない。けど、アレだって礼儀作法と言うか、セオリーと言うか、時と場合によって変える物だってことくらいはわかる。厳かな場ではあまり派手にならないように、みたいなのがあるだろう?」

「まあ、実際、私も詳しくないからわからないけど、あるだろうね」

「例えば、結婚式で花嫁よりも目立つような化粧をする女はいないだろう」

「いたとしても嫌われるだろうね」

「そいつはどれだけ化粧が上手でも、時と場所がわかってなかったら無意味どころか逆効果だ。その場の中心であることだけが化粧の才能ではない。物語りも一緒だ。素晴らしい舞台には、相応しい主役と同じくらい、相応な脇役が必要だ」

「確かに。自分が一番目立とうとするだけじゃ、演技も化粧も駄目だよね。全員がボールに群がって行く小学生のサッカーが退屈なゲームなのと一緒で、それぞれに相応しい役割がある」

「そう。演技も化粧もドリブルも、全体の空気を読んで取捨選択して行動しなきゃならないだろう」

「そうね。でも、そうなると、どう言うこと? これは人間じゃあなくて、真理の話しなんでしょ? 脇役を演じられない真理は、化粧もヘタクソってのはさ、何の比喩なわけ?」

「いや、人間と一緒じゃないか?」

「だから、それはどう言う意味で?」

「“あんまり出しゃばるな”」

「おぅ。なんかグサって刺さる一言だね」

「今までの哲学者が追い求めて来た真理、要するに西洋哲学って言うのは、どうあがいてもキリスト教の影響が強い。この辺りの話しは、もう沢山したから割愛するけど、要するにキリスト教が世界の主役で、脇役なんて演じられるはずがなかった。そして、相応しい化粧もせずに、科学や音楽、政治といった他の分野にも強い影響があった」

「たしかにね。音程の名称も、どっかの讃美歌か何かが語源なんだよ」

「十一世紀のイタリアと言う説が有力だったんだっけか? 印刷機も聖書を刷る為に造られたらしいし、本当にキリスト教の影響は大きいぞ」

「今はそんな感じもしないけどね」

「だな。今の日本じゃあ、真剣に神の存在を信じる奴の方が珍しいくらいだ。殆どの人間が進化論を信じているし、クリスマスは家族じゃあなくて恋人と過ごす」

「もう、宗教は生活の主役じゃあなくなっちゃてるよね」

「ああ。科学の汎用性には敵い難い。それでも主役面をしようとして過激な活動をするのが厄介な所だ」

「テレビでイスラム過激派? のテロとか見ると思うんだけどさ、自動小銃持って、車に乗って、スマホでツイッターする連中が神様を信じているって不思議な光景だよね。神秘ゼロじゃん。魔法の杖持って、使い魔の背中に野って、ハトでやり取りするならわかるんだけどさ」

「千恵のイスラム教徒に対する間違ったイメージは無視するとして、確かに違和感はあるよな。ただ、千年以上に渡ってあの場所の主役だったんだ、今更化粧を落として脇役になるなんてできないんじゃあないか?」


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