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【ニーチェ】利人と千恵が『善悪の彼岸』を読むようです。【哲学】  作者: 安藤ナツ


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【一四二】【恋愛】

【わたしがこれまで耳にしたもっとも慎み深い言葉。「真実の恋愛にあっては、魂が肉体を包むのだ」】




「【下半身】の後に【恋愛】持って来るの!? おかしくない!? どんな順番!?」

「【恋愛】の後に【下半身】の方が良かったか?」

「そう言う話しじゃあないでしょ! いや、そう言う話なのかな?」

「知らねーよ」

「じゃあ、気を取り直してアフォリズムを読むけど……なんか、普通にポエムでツッコミが入れにくいよね」

「だよな。なんとなく、否定的なことも言い難いしなぁ」

「【わたしがこれまで耳にしたもっとも慎み深い言葉。】は完全にニーチェの主観なわけだから、ツッコミを入れること自体が野暮だよね」

「【「真実の恋愛にあっては、魂が肉体を包むのだ」】も、これを否定したら取り敢えず肉体交渉から入る男に思われそうだしな」

「そう? 逆にして見ても『虚偽の失恋にあっては、肉体が魂を包むのだ』になるわけだから、そんな男にはならないと思うよ」

「前半部分も逆転しちゃうんだ! 」

「でも、肉体が魂を包むって言うのは別に普通だよね。魂ってイメージ的には内にあるモノだしね。でも、これはこれ以上解釈のしようがないんじゃない?」

「これ以上って言うと?」

「だから【真実の恋愛】って言うのは、肉体じゃあなくて心で行う物って意味。ロマンチックだし、不純異性交遊を咎めているわけだし、これはもう、これで良いんじゃない?」

「それじゃあ、普通過ぎるだろ。ニーチェってのはな、そう言う青春みたいな思想とは違うんだよ! もっと暗くて、引き籠りの哲学なんだよ!」

「変なキレ方された!」

「例えば【一二〇】【肉欲と愛】ってあっただろ? 【肉欲のためにあまりに尚早に愛が育ってしまうことが多い。こうした愛は根が弱いまま、直ぐに引き抜かれてしまうのである。】って奴だ」

「覚えてないけど、なんか、肉体がどうのこうの、精神がどうのこうのって話をしたかな?」

「あの時、俺は『精神よりも肉体の方が重要である』みたいな話をしたはずだ」

「あー! 言っていたね。自然が創った肉体は完成されているけど、人間が造る精神は不完全にならざるを得ない! みたいなこと。利人のその解釈で考えると、この肉体と魂もちょっとニュアンスが違うのかな?」

「個人的には、前の【一四一】も踏まえて、キリスト教に対する批判的な意味合いじゃあないのかと思うんだよな。そもそも【真実の恋愛】って言うのは胡散臭いし、真っ直ぐに解釈してもイイコト言っている風なのが俺に疑心を与えるんだよ。宗教なんてロクなもんじゃあないしな!」

「何故、そこまでキリスト教を嫌えるのか。これがわからない」

「信仰の自由だからヘーキヘーキ。良いか? 多様性を認めるってことは、一々他人の意見に腹を立てないって意味なんだぞ」

「その言葉、完全にブーメランなんだけど!? 突き刺さってるよ、自分の発言がさ!」

「で。【真実の恋愛】ってなんだ?」

「え? それはもう、毎日私が利人に与えている物だよ」

「あ、そう言うのはいいんで」

「じゃあ、わからないかな」

「ぶっちゃけた話し、恋だとか愛なんてそもそも存在しないしな」

「利人の世界には夢も希望もなさそうだよね」

「そう褒めるなよ。照れるぜ」

「褒めてはないんだけどね。って言うか、もうちょっと前の私の台詞で照れて欲しかった!」

「愛ってのは、人間が考えた概念だろ? だったら、その真実は“便利な道具”に過ぎないとは思わないか?」

「おお、ラスボスっぽい発現」

「いや。冗談じゃなくさ、根本的に俺達のイメージする愛は造られたイメージだろ?」

「そう? 普通に動物達も愛し合っていると思うけど?」

「人間から見たらそう判断するしかないって言う行動は勿論あるだろうけど、それは俺達人間の視点だからな。それにまず間違いなく、生殖行為と恋愛感情みたいな繋がりはないと思うぜ? 人類はいつでも繁殖が可能だからこそ恋愛感情を手に入れたわけであって、繁殖の時期が限定される野生の動物達にしてみれば一々恋している暇なんてないだろ。給料三カ月分のトムソンガゼルでプロポーズするライオンがいるか?」

「ドライな考えだなぁ。ナメクジの交尾とか見たことないの? ヤバいよ? ドロドロだよ。超エロいよ」

「千恵のレベルが高くて泣きそう」

「いや、ほんと、一見の価値ありだから! あれ? なんでちょっと私から離れたのかな?」

「けだものが」

「けだもの!?」

「話を戻すと、恋愛感情の真実って言うのは誰かの都合だ。例えば、一般的には狩猟民族は一夫多妻だったり、性に対して大らかだったりする場合が多い。これは、俺達の感覚からするとちょっと引くだろ?」

「まあね」

「でも、彼等にとってはそれが家族や民族の在り方であり、彼等の【真実の愛】なんだ」

「うーん。多様性の話じゃあないけど、違う意見を認めるのは難しいね」

「で、時代が農耕にシフトすると、一夫多妻って言うのは廃れ始め、民族や部族よりも小さな“家族”が生活の中心になる。個人の愛が行き届く範囲は必然的に狭くなってしまったわけだ」

「それが現代の【愛】だね」

「つまり【真実の愛】なんてケースバイケースなんだよ。高度の柔軟性を維持しつつ臨機応変に変化するもんなんだよ、残念ながらな」

「じゃあ【魂が肉体を包む】って言うフレーズは何を意味するわけ?」

「千恵のさっきの言葉を参考にするなら、肉体ではなく心での恋愛じゃあないのか?」

「でも、ニーチェ的には心や精神の方が肉体よりも未熟なんでしょ? もう【真実の恋愛】ぼこぼこじゃん! って言うか、【わたしがこれまで耳にしたもっとも慎み深い言葉。】もさ、完全に皮肉ってるよね!?」

「ニーチェは俺の中でそう言うキャラだから仕方ない」

「まあ。未婚だったし、好きな人には振られたんだっけ? 確かに恋愛を語るには成功者側だと不自然なのかな?」

「わざわざ年表に書いてやるなよ……って俺は最初思ったぜ。男二人女一人で同棲してたっていうのも、正直よくわからん。好きな人ともう一人男がいる状態で同棲って言うのもキツイものがあるし、もう一人の男が好きな女と同棲している空間で暮らすって言うのも気まずいだろうに」

「その辺は『文化がちがーう』ってことかな」

「で、ニーチェはその同棲期間のことを後年になって【私の生涯で最も恍惚とした夢を持った】時間だったと記している」

「まあ、好きな人と一緒に暮らしていたわけだしね」

「話を戻せば、肉体と精神。俺はこれを“同棲”と“結婚”として考えたわけだ」

「“結婚”も“精神”と一緒で、人間が後から造った概念ってこと? 同棲は、まあ、確かに愛を知らない野生動物でもするだろうし、先天的な存在ってことで、肉体と一緒?」

「そう。結婚って言うのは、元々は政治的な意味合いが強いものだったし、代表的な宗教行事だ。ナメクジの交尾よりもドロドロとした人間の欲望こそがその正体だ」

「どんだけん結婚が嫌いなの!?」

「いや、好きな人と一緒にいるのにルールがある方がおかしいだろ」

「あー、ロリコンとかショタコンとか、その辺の人が言いそうな台詞ですね」

「ナメクジの交尾に興奮する人に言われたくないかな」

「…………」

「じゃ最後に“今日の名言”行ってみようか」

「なんかコーナーが始まった!? 初めて聴いたんだけど!?」

「『神が同棲を発明した。悪魔は結婚を発明した。』フランシス・ピカビア」


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