ばんせん!
夏休み特別企画! 常識外れの漫才編!!
多分唯一無二の『なろうニーチェ作品』と飽和状態の『なろう的異世界転移』のコラボレート!
とっしーあんどちえりんはかく語りき!!
「パチパチパチパチ~! 二階堂千恵でーす」
「どうもー。自由ヶ丘利人です」
「私達二人はいつも“【ニーチェ】利人と千恵が『善悪の彼岸』を読むようです。【哲学】”って言う体でニーチェの作品について語っているんですが、今回は番外編です」
「ってか、おまけと宣伝だな」
「それで漫才をする事にしたんだよね。“名前だけでも憶えて帰って下さいね”って奴」
「哲学テーマの作品で漫才ってどんな判断だよ」
「それで、いつもニーチェの著作についてダラダラと語っているわけなんですが」
「“ダラダラ”とか言うなや! 印象悪いだろ!」
「まったく人気がないんですよね」
「だからそう言う事も言うなや! ブクマしてくれている人に失礼だろうが!」
「まあ、ぶっちゃけ哲学とか流行らないんですよね」
「コンセプト否定!? って言うか、流行でやってるわけでもないからな。哲学って言うのは、命題だから。連綿と続く探究の形の一つで、学問の祖なんだぞ?」
「でも、答えを教える事を前提とした現在の学校学習カリキュラムでは無意味な物だよね。口を開けて餌を待つだけの連中は、“考える”と“覚える”を一緒だと思っているから。答えを出す事のできない哲学を軽視するのは仕方がないよ」
「唐突に辛辣な現代教育批判も止めろ! お前は何様なんだよ!」
「そう言うわけで、人気を出すにはもっと安直で、普段の生活でアマツバメの雛よりも頭を使っていない人達にもわかる話しを書くしかないと思うわけ!」
「言い方! 全方位に敵を作って行く気かお前は! 恐怖はないのか!」
「そう言うわけで、その条件を満たす異世界転生物に、物語の方向を変えよっか」
「もう四面楚歌だよ! 敵だらけだよ! 大合唱が聞こえて来た!」
「私が脚本を考えるから、利人が演出ね」
「ねえ。さっきから俺、無視されてない!? 俺のツッコミ届いていますか!?」
「私が簡単に話しの流れを言うから、利人はその都度、キャラクターの台詞や行動を決めて物語を進めくって流れだよ? わかった」
「はあ。わかった。了解した。つきあってやるよ」
「そう言う素直な所、好きだぞ!」
「お前の我儘な所に振り回される自分が好きだから気にすんな」
「てへへ、照れるなぁ……あれ? なんか違うくない?」
「気にするな。話を進めてくれ」
「あ、うん。まず、主人公は交通事故で死んで異世界に転生するわけだけど、その主人公の設定を利人が考えて見てよ」
「そうだな。じゃあ、若くしてバーゼル大学の古典文献学担当の教授になった天才って設定でどうだ?」
「ニーチェだよね?」
「ん?」
「いや、その人、ニーチェだよね!?」
「ニーチェその人だけど、何か問題が?」
「あるよ! 街路樹よりも頭使わない人でもわかる物語を作るの! 哲学者主人公とかそれだけで敬遠するわ! そもそも“ニーチェ転生”の字面だけで濃いのに、そこに異世界を絡めるって胃もたれするわ! って言うか、主人公が元哲学者の異世界転生物じゃあ、作風が全然変わらないじゃん! もっと普通の人!」
「っち。じゃあ、十六歳の高校生でいいや。趣味は読書と音楽鑑賞。好きな女の子のタイプは巨乳」
「そうそう。それで良いの。ナイス凡人。奇抜なキャラ付けは不要よ」
「そいつはワルキューレの行進をヘッドホンで聴きながら“善悪の彼岸”を読み、横着に自転車のペダルを回して通学している最中に――」
「はーい。ストップ。ちょっと一旦止めようか」
「ん? どうした?」
「『ん?』じゃあなくて、“善悪の彼岸”! ニーチェの著書! 十六歳で哲学書は読まない! いや! 読んでも良いけど、読者の大半は読んでない! その設定は没! あと、ワーグナーも駄目! クラッシク聴きながら通学する高校生ってこじらせ過ぎ!」
「っち。じゃあ、子供を助けた代わりにトラックに撥ねられて死んだよ」
「うん。そう言うベタなので良いんだよ。目が覚めると真っ黒な空間にいて、目の前に一人の男がいるわけ。これが転生の神様。最初の一言はどうする? できれば、読者の気を引ける様な一言が良いんだけど。利人のセンスに期待するよ。はい、どうぞ!」
「『光あれ』」
「本物だよ! 本物の神様来ちゃった!」
「神と言ったらコレだろ?」
「何でドヤ顔? 不味いですよ! 利人さん! 流石に怒られるよ! 信仰の自由の冒涜だよ!」
「気軽にネタに仕えてこそ、自由だろ?」
「っていうか神聖四文字神Y・H・V・Eが出て来ると、設定的に転生できなくない? 死後は神の国に行かなきゃだし」
「あ、確かに。じゃああ、グノーシス派っぽく、こいつは至高神アイオーンが産み出した偽神ヤルダバオトの一柱であって、真なる神に認められる為に、他の偽神ヤルダバオトの選出した英雄達と過酷な戦いを繰り広げるって話しにしようぜ!」
「いや、しないよ。って言うか、単語の意味がわからないよ!」
「ん? グノーシス主義って言うのは三世紀頃に……」
「説明は良いから! 興味ないよ! そもそも、ストーリーのセンスが古いよ! 二昔位前だよ、そのシナリオ! 今はそう言う固有名詞の連発とか、実際の宗教や神話との紐付けとか流行ってないから! ステータスとかスキルレベルとか、わかりやすい数字を並べて大きい方が勝つ様なじゃんけんより単純な作品で良いの! ほら! もう一回! 神様は言いましたっ!」
「『神は死んだ』」
「うん。来るとは思っていたよ。ニーチェといったらそれだもんね。聖書でワンクッション挟んで来るのは予想外だったけど! どんだけニーチェ要素に拘るの!? はあ。もうここは適当でいいや。どうせ大して話しに関わって来ないし。ちゃっちゃと転生しちゃおう。主人公は新しい世界で目覚める。そこはどんな所?」
「西暦一八四四年。プロセインのライプチヒ近郊の町レッケンだ」
「実在の地名! って言うか、ニーチェ出生の地じゃん! 異世界転生って最初から言っているでしょ!」
「いや、でもよ、時間は直線的でなく曲線で繋がっていて、俺達は今と言うこの瞬間を過去にも未来にも何度も繰り返しているんだぜ? 人間は自分の人生を歩き続けるしかないんだよ」
「うん、それ永劫回帰だね。ニーチェ哲学の粋。永劫回帰来ちゃったね。転生とはある意味で滅茶苦茶相性悪い概念だよね! って言うか! やっぱり主人公ニーチェじゃん! 異世界に別人で転生して赤ん坊から再スタート! はい! 此処は何処!?」
「っと。わかったよ。じゃあ、異世界ナロウテンプーレ王国のハーレム辺境伯領のチート村の村長の息子で良いだろ?」
「いいね。ニワトリでも二歩位は覚えてくれそうな名前で、高過ぎも低過ぎもしない身分。そう言うのが私は欲しかったの!」
「俺はやればできるんだよ」
「そして赤ん坊として目覚めた主人公は何を思う?」
「『自我を持ち、前世の価値観を持つ存在を赤ん坊って呼んで良いのだろうか? 赤ん坊とは善悪を覚えていない彼岸に立つ存在であり、純粋に力への意思を為す物であるはずだ』」
「んー? あれ? おかしいな? 読んでいるよね!?」
「あ?」
「この主人公、ニーチェ読んでいたよね!? “ツァラトストラかく語りき”の影響受けているよね? この台詞! 最初は駱駝で、次は獅子、そして最後に赤ん坊って言う精神の理想的な在り方の影響だよね!? この台詞!」
「確かにそうだけど!? それが何か!?」
「まさかの逆切れ!? 『何か!?』じゃあないよ! 読者の共感を誘えないから駄目だって!」
「駄目か。でもよ、赤ん坊なのに十六歳の意思があるってきつくないか?」
「何が?」
「十六にもなって、漏らした上に他人にオシメを変えて貰うんだぞ? 文字通り、他人にケツ拭いて貰うなんてよ」
「それは確かに。利人みたいに特殊な性的嗜好がないと厳しいかも」
「俺にもねーよ。そして大抵の読者にもそんな業の深い趣味があるとは想像しにくい」
「なるほど。じゃあ、六歳頃に、覚醒の儀式と共に前世の記憶は思いだそう」
「覚醒の儀式?」
「そこで、自分の秘められた才能を知るんだよ。チート能力と記憶に覚醒して、物語がようやくスタートする大切な所だね。自分の才能と記憶を自覚した主人公はどんな風に喜ぶ?」
「『“才能が一つ多い方が、少ないよりも危険である”。村長の息子には過ぎた力だ。この力は封印して、村の発展と森の開拓に人生を捧げよう』」
「アフォリズム! ニーチェのアフォリズム言っちゃった! やっぱり前世で読んでいるじゃん! で、何で能力を封印してるの!? 調子に乗って! そして森にも入っちゃおう! 恐ろしい魔物に襲われて、たまたま通りがかった熟練の冒険者に助けられて、才能を買われて王都へ! みたいなイベントを用意しているんだから!」
「自制の効いた良い主人公だと思ったんだがな……駄目か」
「あ、本気でこの展開が面白いと思っていたんだ。なんか、ゴメン。そうだね。じゃあ、その主人公の才能を周囲の人間が煽てて、ちょっとだけ調子にのって失敗する事にしよう。主人公は子供だから、ちょっとぐらいは仕方ないよ。で、神父さんが主人公を褒める台詞は?」
「…………ん? ちょっと待ってくれ。なんで神父何だ? 牧師じゃ駄目なのか?」
「食い付く所がわからない! 二人の違いもわからない!」
「って言うか、その覚醒とやらは宗教的行事なのか? 神に与えられた能力がハッキリと目に見える形で現れて、しかもその差がはっきりと人生を分ける様な社会で、果たして俺達が考える様な文化や風俗が産まれるのか? 興味深い。じゃあ、主人公の将来の夢は人類学者にしょう。宗教を読み説きながら、この国の社会設立の流れを考察する物語はどうだ? 『異世界における神と文化』って言うタイトルにしようぜ、千恵!」
「しないよ! 何? そのタイトル! 論文でも書く気!? 設定集でも出して! そうじゃあなくて、主人公に冒険させる為の神父の台詞!」
「『“ある人がどのような人物であるかは、その人の才能が衰え始めたときに、あらわになるものである。――そしてその人に何ができるかを示さなくなったときにである。才能は一つの化粧である。化粧はまた一つの隠れ家なのだ。”良いですか、主人公。才能に振り回されてはなりませんよ』」
「まとも! 良い神父さんだ! その通りだよ! その通りだけど……冒険させろ! 無謀に走らせろ! そして神父もニーチェのアフォリズム言っちゃった! 何? こいつも転生者? それとも、ニーチェが過去に来ているの!? この世界!?」
「駄目か?」
「いや、わかった。それで行こう。自業自得なピンチ演出はなし! 代わりに、主人公には可哀想だけど、もっと理不尽に冒険の旅に出る事にしよう」
「お? どうするんだ?」
「傭兵団とか、大盗賊団が村を襲うの。主人公は偶々生き残るけど、一人になっちゃう。家も畑も焼かれて、真っ黒になった故郷を見て絶望に墜ちる主人公。その心中を利人、考えて見て」
「『“家が燃えている時には、昼食も忘れてしまうものだ。――たしかに。しかし[家が燃えてしまったら]灰の上で食べ始めるのだ。”』」
「どんだけニーチェネタの守備範囲広いの? どっからでも拾って来るね! フリードリヒレトリバーかよ! もう! ご飯食べている場合じゃないでしょ! 復讐! ここは復讐に燃えて旅立つシーンなの! お父さんもお母さんも幼馴染も焼け死んだから! もっと心が荒んでるの! 一時的な狂気に身を任せて!」
「だが、過去の怨恨ルサンチマンに囚われるのは、力への意思に真っ向から歯向かう行為だ。この悲惨な事件を消化し、忘却し、きちんと自分の物にした上で生きて行くのが人生って物じゃあないか?」
「だからニーチェだよね!? ニーチェ哲学出ちゃっているよね!」
「いや、そもそもニーチェの宣伝の宣伝だしな、この漫才」
「それはそうだけど…………まあ、私と利人じゃあ、異世界転生物を考えるのは土台からして無理っぽいね。折角のナイスアイディアだと思ったけど」
「って言うか、異世界転生は競争相手が多過ぎるから、良いアイディアとは俺は思わないけどな」
「えー。じゃあ、利人はどんな方向に転換すれ良いと思う?」
「そうだな。簡単に読めて、下らなくて笑える作品だよな、やっぱり」
「……そのコンセプト、今までと変わらなくない?」
「……確かに」
「…………」
「…………」
「以上! 二階堂千恵と!」
「自由ヶ丘利人でした。 本編もよろしく!」
なんで宣伝で漫才書いてるんでしょうね。
普段の五倍くらい時間かかりました……。