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【ニーチェ】利人と千恵が『善悪の彼岸』を読むようです。【哲学】  作者: 安藤ナツ


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【一三一】【女性と猫】

【男女は互いに思い違いをしている。それは男女ともに、根本においては自分だけを敬い、愛しているからだ(もっとも耳に入りやすい言葉で言えば、それぞれの理想だけを愛しているからだ――)。だから男性は女性が穏やかな存在であることを望むが、――それはまさに女性が本質的に穏やかでない存在だからだ、猫のように、女性は穏やかにみえる外見を練習しているのだ。】




「猫って可愛い生物みたいに言われているけど、冷静に考えるとそこまで可愛いか?」

「えー。可愛いじゃん」

「爪や牙がある事からわかるとおりに肉食獣で、生粋の狩人だぞ? 夜、目が光るぞ?」

「毛並みとか、尻尾とか、あの耳とか、気紛れな振る舞いとか、色々あるけど?」

「毛なら毛虫にだってあるし、トカゲなんて尻尾は切れても生えて来るし、あの薄い耳とか不気味だし、気紛れはそもそも褒め言葉じゃあないだろ」

「猫、嫌いなんだね」

「嫌いじゃあない。別に可愛くないだろ、って話だ。所詮、畜生だし百歩譲って可愛いとしても、一緒の家で暮らしたいとは思わないね」

「まあ、私も飼いたいとは思わないけど。家にはフランシスがいるし」

「あのザリガニまだ生きているのか。小型の哺乳類だったらとっくに死んでいるだろ。恐るべしだな、甲殻類。さて。そんな風に周囲を欺いている猫だが、ニーチェは【穏やかにみえる外見】と奴を評価しているな。つまり内面はまったく違う生物だと言っているわけだ」

「でも【女性と猫】ってタイトルは何か普通だよね。日本でも割と女性を猫に例える事は珍しくない気がするし、失礼な表現でもないよね」

「猫に例えられて失礼だと思う人は確かに少ないかもな。俺は豚の方がよっぽど好きなんだが、女性に『豚みたいだ』って言ったら確実に不機嫌になるだろう。経済的に見ても、ヴィジュアル的に考えても、戦闘力を取っても、豚の圧勝だと思うんだがな」

「イメージが悪過ぎるよね、豚って。でも、豚って別に実際は太ってるわけじゃあないよね? 食べている部分は殆ど筋肉なわけだし、体脂肪率凄そう」

「そうだな。体脂肪率は十三%前後と、アスリート並みだ。猫の平均よりも若干だが低い」

「うーん。先入観って言うのは恐ろしいね。そして、外見で得をするのは人間も動物も変わらないと」

「人間も所詮は動物だからな。そして男女間でも先入観による【思い違い】があるとニーチェは言っている。そしてその理由を【根本においては自分だけを敬い、愛しているからだ】と指摘している」

「なんか【もっとも耳に入りやすい言葉で言えば、それぞれの理想だけを愛しているからだ――】と補足も入っているね」

「男女とも愛するのは自分自身の理想であり、それ故に男女は互いを理解し合えない」

「えっと、男の人は【女性が穏やかな存在】であって欲しいと思っているって事だよね」

「昔の役割で言えば、男は外に出て戦わなくてはならない存在だからな。家に帰って来た時に出迎えてくれるのは穏やかな女の人が良いと思うのは変な事じゃあないだろ?」

「女の人だって家に帰って来たら落ち着きたいだろうしね」

「しかし実際に女性と言うのはそう言った存在ではない、とニーチェは言う」

「ここで猫が出て来るね。【猫のように、女性は穏やかにみえる外見を練習しているのだ。】」

「最初にも言ったが、猫は肉食獣だ。その気になれば、人間の一人二人なら殺せる程度の戦闘能力は有しているだろう」

「ライオンの親戚だと思えば納得の話だけど、実際にそう言う事はあまり聞かないよね」

「まあ、人間に攻撃的な個体を排除して、交配を続けた結果だろうな。最も原始的な品種改良って奴だな。大抵の家畜はそうやって野生動物から経済動物になった。あと、単純に人間だって猫の一匹二匹を殺す事は難しくない。ネズミでも狩った方が安全だ。大抵の動物は自分よりも大きな個体を狩らない。群れを作る種は例外だが……って言うか、動物の話は良いんだよ。女性も外見通り、穏やかな内面を持っているとは限らないって事だ」

「そうだね。女子校とか男の理想をブチ壊す為にあるようなもんだし。私の学校はまだマシな方だと思うけど、それでも、ねえ?」

「いや、女子校は勉強する所だ。が、“男性の理想”と言う目がない場所で女性達が“理想”を演じないと言うのは不自然な話じゃあないだろう」

「逆に男の人はそう言う所ないの?」

「男なんて見栄張りまくり。少なくとも、女子の前でゴキブリにビビるわけにはいかないし、女性の褒めべき個所をいつでも必死に探しているんだ」

「はあ、大変なんだね。男の子も」

「女の子には負けるさ」

「で? つまり、このアフォリズムは相手に過度な期待を抱くなって事で良いの? 理想だけを肥大化させて、現実にがっかりするなって言う、身の程を弁えずに高望をして婚期を逃がすアラサーに対する忠告でさ」

「まあ、確かにアレも自分の理想に固執して、現実に対して酷い勘違いをしていると言えるかもしれないけど、そんな忠告じゃあない。当然ながら、な」

「やっぱり」

「話しの中でも何度も出て来たけど、別にこれは男限定の話ではない。女性だって男に対して思い違いをしている。だから千恵の言う様な事を主張するなら“人間は”で良いだろう。それをしないって事は、つまり――」

「――この女性は“真理”のメタファーで、もう少し違った事を主張しているんだね?」

「そう言うこと。つっても別に中身は大袈裟には変わらない。人間が真理に対して思い違いをしているってだけの話さ」

「真理も猫を被っているって事になるんだけど、それはどーなるわけ?」

「真理は有益だと思われる為に、【穏やかに見える外見】を偽装しているって言うのは良いな? つまり、この世の全てがわかって全員が幸福になれる様な、善良な存在の究極系だ」

「うん。究極的な理想だな」

「人類はそれが欲しくて仕方ないから、そんな物を頭の中に産み出して必死に探している。が、実際はどうだ? 宗教にその理想を得ようとして、逆にその思想が故に争いが産まれた。科学の探究の果てに真理を見ようとして、逆に地球環境を汚染して自らの首を絞めている。経世済民けいさいさいみんを夢に描いてみたが、どんな政治体系も自由と平等からは程遠い」

「けーさいせいみん?」

「政治を経て民を救う、って言う意味で、経済の語源だ」

「へー。経済って元々はそう言う意味なんだ。お金の話だけじゃあないんだね」

「今は金金金、って思って間違いないけどな。それで、様々な思想を人類は試して来たが、未だに真理に到達した事はない」

「ユートピアに住んでいるわけじゃあないからねぇ」

「それでも人類は未だに“此処じゃあない世界の幸福”を目指して活動を続けている。猫の外面の様に、見た目だけは柔らかくて丸っこくて愛らしいからな」

「で、近づき過ぎると爪でひっかかれたり、ちょっと獣臭いなとか思ったりするわけね」

「しかしこれは、真理側が完全に悪いわけじゃあない。描いた理想は確かに素晴らしい物だってあった。もしかしたら俺達が楽園で暮らしている今も何処にあったかもしれない。真理が理想とする様な人間がいたら、だけどな」

「真理の理想?」

「そう。人間が理想に忠実になることが完全にできれば世界は明日にでもそうなるかもしれない。自己利益を望まなければ、万人が隣人を愛せたら、自己を捨てて全体として生きる精神性があれば、人間は真理の理想とする人間と言えるだろう」

「つまり、人間自身が自分の理想を破綻させている面があるって事?」

「そ。選挙とか言う噴飯もののイベントを見てみろ、未だに自分達の運命を正しいか間違っているかでなく、数が多いか少ないかで考えている様な連中だぞ? 人間なんて。そのくせ、ホモ・サピエンス(賢い猿)なんて自称するんだから、始末に負えない」

「猫を被るくらいなら可愛いけど、自分を賢いと思っている人程、厄介で面倒な人はいないからね」

「まったくだ…………って、なんでそんな目で俺を見るの? おい、無視すんなよ。ってか、その目を止めて! なあ! おい! ……その溜息はどう言う意味だ! ちょ! 待てよ!」


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