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【六六】【神の羞恥心】

【人間には、みずからをけなさせ、盗ませ、欺かせ、利用させようとする傾向がある。これはもしかすると、人間のもとにある神の羞恥心かもしれない。】


「さて、やってまいりました【六六】【神への羞恥心】! ですが、これは、アレですね」

「どう見ても【六五】【認識の魅力】と関連のある箴言だな。羞恥心って書いてあるし」

「流れ的には、これが【六五A】なんじゃない? 普通に編集すれば」

「だが、これはAでもBでもなく【六六】となっている。あくまでも関与はあるが、独立した断章としてニーチェは考えていたようだな」

「天才さんの考えることを凡夫が幾ら考えても無駄か。さくさくと本文に……行くぞ!」

「前半部分は『人間と言う生物はしょうもない生物だ』と言っているな」

「人類に失望した結果、極論に走って人類を滅亡させようとするラスボスみたいな台詞だよね」

「ああ。一九世紀にそんなエンターテイメントが存在したかどうかは流石に知らんが、もしかしたらそう言った走りだったかもしれないなニーチェは」

「絶対に本人はそんなつもりはなかっただろうけど、そうなると初代邪鬼眼系の中二病だね」

「時代を先取りし過ぎだろ。やはり、天才は違うな」

「しかもニーチェはここで人類に失望してないのが一味違うよね。『そうだ、人類滅ぼそう!』じゃあなくて、『人類が愚かなのは神様のせいだ』って言ってるわけでしょ? これって。前回の流れを踏まえれば、『羞恥心』って言うのは『神(キリスト教)』の価値観なわけだから」

「だな。流石元祖は違う。『どうして人類は愚かなのか』から更に考え、『神』と言う答えに至るわけだからな。今のエンタメだったら、『だからこそ神が必要なのだ!』とか言って邪神を復活させる位の話しのもってきかたするだろうに。ニーチェは神の遠近法によって見える世界が、まるで世界の真理の様に扱われていることに意義を唱えたわけだからな。そう見ると、ニーチェに取って『神』は『魔王』的な意味が合ったのかもしれない。世界が魔王の魔力に支配されていると気が付いたニーチェは、たった一人で孤独な戦いを始めたわけだ」

「ニーチェを猛プッシュするのは良いけど、キリスト教を魔王呼ばわりしているからね」

「有名な話しになるが、ある所で信仰されていた神様が、余所の地域では悪魔扱いされると言うのは良くある話しだ。地獄の権力者『ベルゼブブ』は元々『バアル・ゼブル』と呼ばれる嵐と豊饒の神であったとか。キリスト教が広がるに連れ、数多くの神話や宗教が廃れていったんだから、これくらいは我慢して貰おう」

「なんて偉そうなんだ、この男」

「それに【もしかすると】って言っているし、俺達が【みずからをけなさせ、盗ませ、欺かせ、利用させようとする傾向がある。】のは別に神様関係ないかもしれないしな」

「今までの流れから言って、絶対そんなこと思ってないでしょ。完全無欠に私達が罪を犯すのは神のせいだと言っていると愚行する次第だよ」

「でも、『罪』がなければ『罪人』が産まれないと言うのは、中々面白い意見だとは思わないか? じゃあ、『人間』と言う言葉がなければ『人間』は存在しなかったんだろうか?」

「なんか、哲学っぽい質問だね。でも、人間が言葉を喋るよりも昔から、人間はいただろうから、人間は存在したんじゃないの?」

「そうか?」

「そうだよ。『罪』は自然が作った物じゃあないけど、『人間』は自然が創った物じゃん」

「いや。それは正確ではない。『人間』と言う言葉は、人間の造語だろ?」

「造語って……。その使い方が正しいのかどうか判断に困るよ。でも、造語だろうとなんだろうと、『人間』と言う言葉がある以前から人間は人間だよ」

「じゃあ、その『人間』と呼ばれる前、人間はなんだったんだ?」

「なんだったんだって、『人間』でしょ。ん? あれ? 『人間』って名前がないから、人間じゃあない? ん? でも、人間は人間でしょ? んん? どうなんだろ?」

「まあ、詭弁っぽい気もするが、そう言うことだ。矛盾しているし、感覚的に納得がいかないが、『人間』以前、人間は人間じゃあなかったと考えられる」

「いやいや。そんなわけないって」

「だが、生物学的に人間である存在を人間と呼ばないことは、人間の歴史では珍しくもない。宗教が違うから、肌が違うから、喋る言語が違うから、人類は様々な理由で同族の大量虐殺を行っている。そう言う場合、大抵の被害者達は人間扱いされない。未開地に住む猿だった」

「『人間』と呼ばないことによって、人間じゃあなくなっていたってこと? でも、自分で言ってるじゃん『生物学的に人間』って。人間って呼ばれなくても人間は人間でしょ?」

「それは現代人が思い込みがちな勘違いだ。科学信奉者らしい遠近法に嵌っている。例え生物学的に人間だろうと、人間扱いされなければやっぱり人間じゃあないんだ。そして、人間以下……或いは自分よりも下と判断すれば、人間は凄まじい残虐さを発揮する」

「言いたいことは、なんとなくわかって来たよ? でも、やっぱり人間と言う言葉が人間を産んだなんて釈然としないよ」

「じゃあ、例を変えよう。例えば、夜空を見る。星が一杯だ」

「うん。急にロマンチックになったね」

「素敵だろう?」

「あ、そう。で?」

「小さな頃は、『星が一杯』としか思わないが、小学校に入って理科の時間に星座を習う」

「なんか、お皿みたいな奴を買わされたよね」

「星座盤な。そうすると、どうだ? 同じ夜空でも幾つ物星座の名前は浮かんでくるようになるだろ?」

「うん。授業中に寝て無かったらね。あと、星座盤はフリスビーにしていたらへこんじゃった」

「お前は義務教育をなんだと思ってたんだよ」

「ま、まあ。夜空を見上げたら、星空沢山だよ? アレが、デネブ、アルタイル、ベガでしょ? 知ってる? 『アレガ』って星の名前じゃあなくて『アレが』なんだよ」

「そんな勘違いする奴は初めてだよ! ったく。で、今まで見ていた星空と何も変わらないのに、千恵は幾つ物星座や星の名前をそこに見ることになりました。星の名前や星座を認識したことで、初めて夜空にあるそれらを認識できるようになったんだ」

「な、なるほど。確かにそれなら『認識』が先にあって、『存在』が確認できたってことだね。やっぱり釈然としないけど」

「っぐ。じゃあ、量子力学における素粒子の状態を例に出そう」

「ゴメン。その時点で難し過ぎて話しについて行けそうにない」

「そ、そうか。簡単に言えば、『観測することで状態が決まる』ってことが最新物理学で確認されているんだ。『認識するから存在するのか、存在するから認識するのか』この問題は決して哲学的な問題の枠には収まらないんだ」

「うーん。それでも納得できないな。認識なんて所詮は脳の働きじゃないの?」

「ふむ。じゃあ、『認識するのは脳だ』と『認識』しているのは何処になるんだ? 『認識しているのが脳』だと認識できる『何か』があるんじゃあないのか? 認識しているのが脳だと認識するのが脳だったら、それこそ意味不明じゃないか? ビデオを撮る時、そのビデオ自体を写すことができないのと同じように、脳事態が脳が認識していると認識しているなんておかしいだろ」

「うぎゃー! なんなの、もー! わけわかんない!」

「何でわかんないんだよ! 俺の説明が下手みたいだろ!」

「うわ。逆切れされたよ……。完全に神の羞恥心に捕らわれているじゃん」

「うぐ。まあ、確かに今のは俺が悪かったよ。納得させようとムキになりすぎた。認識に関する問題は一朝一夕に説明できるもんじゃあないからな。機会を見てちょくちょく解説を入れていくことにしよう」

「ったく、次から気を付けるんだよ?」

「はいはい。すいませんでした。最早、何について語っていたかも忘れていたけど、神様がいなければ、俺達は真実なんて気にせず、全てを許されていたことだろう」

「でも、それってさ、動物と一緒じゃあない?」

「ん? 動物と一緒の何が悪いんだ? もしかして、千恵は『動物なんて人間以下の畜生』って思っているのか? 呆れ果てたぜ。馬鹿なだけじゃあなくて、根本的差別主義者でもあったのか」

「そこまで言われる程のことを私、今言った!? さっきのこと根に持ってるでしょ!」

「さあ? しかし実際問題、俺達は今の自分達の文化こそが正しい道だと思っている節がある。例え、自分達のことをどれだけ愚かだと言おうと、自分達の行動がどれだけ馬鹿な行為だと自覚しようとも、今更動物と同じ生活をするのは絶対に嫌だと考える。今の生活を維持する為なら、自然環境だって気にしないし、他社から搾取することに罪悪感も覚えない」

「その通りかもしれないけどさ、じゃあ利人は文明なんて築かずに、今も洞穴で暮らしていた方が生物として正しい在り方だって思うわけ?」

「いや、だから、正しいとか間違っているとか、そんな話をしているんじゃあないって。そんな物はない。色々な因果が重なってこうなっただけで、そこに正義なんて物はないんだよ。でも、人は【ルサンチマン】から【神】を作り、【善】と【悪】によって、自分自身を、あるいは他人を辱め、神の奴隷にしてしまったんだよ」

「うん。散々話して来たからね、その辺りは何となくわかって来たよ。弱者が強者に勝つために、自分達の弱さを【良い物】にして強さを【悪い物】にしちゃったんでしょ? それがキリスト教の始まりで、その価値観がヨーロッパに強く根付いていて、ニーチェはそれを良しとは思わなかった――って感じでしょ?」

「ああ。流石に散々喋って来たからな、その辺りの流れは完璧だな。

「ねえ。散々喋って来たのに、まったく話進んでなくない? キリスト教批判しかしてないよ」

「ああ、しかも知ってるか? この話はここで終わるんだぜ?」


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