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【ニーチェ】利人と千恵が『善悪の彼岸』を読むようです。【哲学】  作者: 安藤ナツ


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【一二〇】【肉欲と愛】

【肉欲のためにあまりに尚早に愛が育ってしまうことが多い。こうした愛は根が弱いまま、直ぐに引き抜かれてしまうのである。】




「母子手当ってあるだろ?」

「一人で子育てするお母さんに対する支援金? だよね。まさか、これに文句付ける気?」

「ま、平たく言えば」

「まじでか!? 怖い物はないの!? 前世は絶対独裁者だったでしょ!?」

「いや、全ての母子手当に物申すわけじゃあない。例えば、父親が不慮の事故で死んでしまったとか、そう言う場合は仕方ないと思うし、援助は当然だと思う。でもよ、出来婚した揚げ句、性格の不一致とかで離婚するのはちょっと違うだろ。結婚したのも、出産したのも、離婚したのも全部自分の都合じゃねーか。そんな計画性のない奴に金を与えても、まっとうに使うとは思えないんだよなぁ」

「うーん。言いたい事はわからなくもないけど、子供に罪はないから、ね?」

「ま、そりゃあそうだ。せめて、子供の為に金を使ってくれる事を祈るよ」

「さて、なんか導入からぶっ込んで来たね。勿論、関係あるんだよね?」

「いや、あんまりない」

「無意味に喧嘩売ったの!? どうして!?」

「なんとなく、な」

「利人は絶対ツイッターとか、やっちゃ駄目だからね。確実に炎上して晒されるから!」

「お、おう。で、今回のアフォリズムは【肉欲と愛】だ」

「いやん」

「今まで色々なタイトルがあったが、まあ、何と言うか、男子高校生の興味を惹きそうなタイトルだな」

「もう。利人ったらいやらしいんだから」

「勿論、これは比喩だ」

「え」

「文面をそのまま読めば『出来ちゃった婚の末に離婚しちゃいました』と読み取れるし、実際にそう言う問題に対する警告とも取れる。この辺りがニーチェのアフォリズムが巧いと感じる所だし、彼の詩的な才能の高さを感じさせる。いい加減飽き飽きとして来たかもしれないが、真理を女性として表現するのは常套手段だな」

「じゃあ、冒頭で意味有り気に語っていたのは何なの?」

「これ見てちょっと思っただけだって。関係ないって言っただろう?」

「本当に一切関係ないとは思ってもいなかったよ」

「さて、比喩と言えば、文中でも比喩が使われているな? わかるか?」

「【愛は根が弱いまま】って所かな。【愛が育って】とも言っているし、植物に例えられているわけでしょ? 【引き抜かれる】ともあるし、収穫する様な植物?」

「うむ。上出来な回答だ。つまり【愛】は“実り”として扱われている。【愛】をちゃんと育てる事にニーチェは意味を見出しているんだろうな。じゃあ【肉欲】は? と考えればそれを育てる人間だろうな」

「【肉欲】が“人間”ね。この時点で皮肉が利いていると言うかなんと言うか」

「性欲は三大欲求の一つでもあるし、堪え性のない一面として扱われているんだろうな」

「【肉欲のためにあまりに尚早に愛が育ってしまうことが多い。】って言うのは、『我慢が足らずに早めに実ってしまう』って事? 人の気持ち次第で、植物って育ったり育たなかったりするの?」

「と言うか、『もうこれで完成!』って決め付けちゃっているんだろうな」

「ああ。なるほど。やりたいから取りあえず『愛してるよ』と囁いてホテルに連れ込むみたいな?」

「もっと高校生らしい例えにして!! なんか、俺が普段そうしている見たいじゃねーか!」

「そう言えば、利人って結構平気で『愛』って普段から言うけどね。恥ずかしくないの?」

「俺は灯里ちゃんの後継者だからな」

「その台詞が既に恥ずかしいよ。って言うか、謝るべきだよ」

「で、だ。前半部分は人間が自分の勝手な欲求の為に、物事が既に完成していると思いがちだと言う事をニーチェは言っている。早く遊びに行きたいから宿題を終わらせたつもりでも、実はプリントに裏面があったりな」

「学生っぽい例えだね!」

「だろ? で、続きだが……」

「ニーチェは【こうした愛は根が弱いまま、直ぐに引き抜かれてしまうのである。】って続けているね」

「さっきの例えで続ければ、片面しかプリントをやっていない学力じゃあ、次のテストで欠点確実って所か?」

「私の例えで言うと、直ぐにカップルが破局してしまうって感じだね」

「そうだな。だが、俺はもう少し違う視点で話を進めようと思う。【肉欲】と【愛】について少し踏み込もう」

「って言うと?」

「【肉欲】って言うのは、そのまま肉体的な欲求で、【愛】は姿形のない精神的な存在だ。あて、どっちが重要だと思う?」

「そりゃあ、精神じゃないの?」

「そうか? 俺は肉体だと思う」

「え? 何で?」

「だって、人間は産まれて来た時に既に肉体を持ってはいるが、人格は持ち得ていないはずだろう? 俺の肉体が産まれ時は、必ずしも俺と言う人間が産まれた時ではない」

「ん? 急に哲学的な話になったね」

「さっきまでも若者の性の乱れについて話していたわけじゃないけどな。法的に産まれたばっかの赤ん坊は自由ヶ丘利人とされるが、今、この瞬間に存在する自由ヶ丘利人とはまるで違う人間だって言うのはわかるだろ?」

「まあね。赤ん坊が利人みたいに物を知っていたら確実にお母さんはノイローゼになるよ」

「なんか、さり気無く酷いことを言われている気がする……」

「それで? それがどうしたの?」

「つまり、肉体はある意味で完成されているって話さ。精神と言う曖昧な物が極めて未熟であってもな」

「うーん。釈然としない」

「だってそうじゃなあいか? 肉体の成長は個人差があれども、基本的に一緒だ。俺達の意識が入り込む余地はない。だが、精神は違う。国や文化や宗教によって多様に変化する」

「そう言われると、たしかにそうだね。似通った姿をしていても、言語が違ったり、考え方が違ったりするもんね」

「ニーチェは【精神とは肉体の道具に他ならない】なんて【ツァラトゥストラはこう言った】で言っているな」

「へえ」

「そう言う視点で見ると、このアフォリズムは違った姿を見せて来るんじゃあないか?」

「そーなのかな? 『肉体のために尚早に精神が完成したと思ってしまう』って風に訳せばいいのか?」

「『そうやってできた精神は、根が弱くて簡単に駄目になってしまう』と続けると、どうして精神が肉体よりも傷付きやすいのかが見えてこないか?」

「人間の意志とは関係なく存在する肉体に対して、精神って言う物は人間が育てないと完成しない不完全な物だってこと?」

「ああ。物理法則は間違いを起こさずに、人間の法律が矛盾や脆弱性を抱えているのにも似ているな。俺達は結局、物質的な存在であって、精神的な物はその強さには匹敵しえないんだ」

「つまり、筋肉こそが至高! って事だよね?」

「そんな話を俺がしてた!? が、まあ、現実に確かに在る物に、想像上の産物は敵いやしないって事は確かだ。いざと言う時、神様や祖先の霊よりも筋肉の方が役に立つ時は多いし、頼りになる」

「そんなものかな?」

「人間は何かと“肉体”と“精神”を比べた時に“精神”を大切だと思いたがるが、それは間違いだとニーチェは言うわけだ。“精神”と言う眼にも見えないまやかしを信じるあまり人は天国を作り、現実と言うもっとも信頼すべき目の前の物を蔑ろにしてしまう」

「あ、そこに繋がるんだ」

「肉体が先に在るのであれば、後から作られた理屈にどれだけ意味があるだろうか?」

「いや、あるでしょ」

「ないんだよ。俺達は無数の神話を創り上げ、それを真実だと思い込むことでしか、社会で生活できないって話しなだけで、物理法則以上に拘束力が強くて謝らない法律なんてこの世には存在しないのさ」

「アナーキーだなぁ」

無政府状態アナーキーは褒め言葉さ。俺のルールは、俺が決める」


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