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【ニーチェ】利人と千恵が『善悪の彼岸』を読むようです。【哲学】  作者: 安藤ナツ


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【一一四】【女性と性愛】

【女性はそもそも、事物を客観的にみる視点というものをもてない。女性が性愛にあまりに大きな期待をかけるからであり、その期待の大きさに羞恥心を抱くからである。】




「最初に言っておけば、俺はこれも“真理”に対するアフォリズムだと解釈しようと思っている。ってか、これを女性に対するアフォリズムとして扱う場合、色々と面倒臭い」

「【女性はそもそも、事物を客観的にみる視点というものをもてない。】だからね。最初っから女性差別全力投球だもんね。でもまあ、女の私から言わせて貰えば、男の人の方が視野は広いとは思うけどね。だから、大抵の時代で英雄は男の人なんでしょ? コレに批判の声を上げる事自体が、既に女性が客観視できないって言う事実を露呈していると思うけど」

「お前、女性問題とかすげー客観的に物事を言うよな」

「そもそも、“女”で一括りにされる事自体が不満に思うな。利人もそう言う事思うでしょ?」

「まあな。痴漢とかのニュースで『これだから男は』とか言われると、心外だ。『いや、悪いのは性別じゃなくて犯人の頭だから!』って思う」

「それと一緒だよ。私は女だけど、私だから」

「そりゃあそうだ」

「よし。じゃ、格好良く私が締めた所で、今回はここまでだね」

「ああ、そうだな」

「…………っておい! 突っ込めよ! ニーチェは良いのかよ! って突っ込めよ!」

「さて、ノリツッコミも入った所で本題に入ろう」

「なん……だと……」

「女性を真理として考えた場合、今断章の前半部分は『真理は客観性を持たない』と言い換えることができる」

「まあ、そうなるね」

「千恵はどう思う? 真理に客観性はあると思うか?」

「真理って、要するに宗教的な教義とか、哲学的な小難しい理屈とかだよね?」

「だな。ニーチェは哲学者だし、ここで数学の方程式だとか、化学的な式を持って来られると困る。まあ、数学だって化学だって、それが本当に揺るがないのか? と問われると疑問は残るけどな」

「利人が何を言いたいかはわからないけど、宗教の教えとかなら客観性は薄いんじゃない? さっきの女性問題もそうだけど、今と昔では価値観が違うでしょ? でも、聖書はその時代の流れに付いてこられていない。文章は昔から変わらないからね。だから、その文章が書かれた時点で物の見方は固定されちゃっている」

「そう。そこが息の長い宗教の辛い所で、遥か昔の価値観が現代に相応しくない事が多くなって来る。それを文章の解釈で解決しようとして、他の人間の恣意的な意志が絡み、極めて主観的な物になってしまうわけだ。そうやって、宗教は様々に枝分かれしていった」

「なるほど……って、アレ? 真理が客観的でない理由を語っちゃってない?」

「まあ、真理がないって事は散々言って来たし、今更だ。それにニーチェは別の点から真理の客観性のなさに気が付いた。それが後半部分である、【女性が性愛にあまりに大きな期待をかけるからであり、その期待の大きさに羞恥心を抱くからである。】だ」

「【性愛】に関して【大きな期待】をするのが【女性】で、その【大きさ】を恥ずかしく思っているから、客観視ができないってことだよね」

「【女性】は真理に置き換えられるから、どうやら真理は【性愛】にかなり大きな期待をしているらしいな」

「さっぱり意味がわかんないな。真理と性愛ってかなり離れた存在なきもするし、隣り合ったワードにも感じられるし」

「そうか。じゃあ、真理が性愛に最も期待していた事を一つ上げてみよう」

「ほうほう」

「“処女懐胎”だ」

「“処女懐胎”? 処女が妊娠するなんて事がありえるの? って言うか、ありえたとしても、それは科学技術の発展が故な気がするんだけど。SFの世界っぽいよ」

「いや、普通処女懐胎って言ったら、キリスト教の聖母マリアの話だ」

「ああ、知ってる知ってる」

「本当かよ……。念の為に説明しとくと、救世主の産みの親であるマリアは、処女のまま救世主を身籠り出産したんだよ」

「また、ファンシーと言うかファンタジーと言うか、凄い設定をぶっこんで来たね。どうしてそんな設定をブチ込むことになったの? 現代のオタクに通じる、究極の処女信仰じゃん」

「設定とか言うな。でも、まあ、これはドラゴンボールの悟空に尻尾が生えていたり、ジョースターの血統に星型の痣が現れるのと一緒だ」

「死に設定ってこと?」

「そう言うこと言うなや! 一応、途中途中で思い出したように出て来るだろ! 登場人物が普通じゃあない出生を持っているってことだ。仮にも信仰する救世主がただの大工の息子だったらパンチが弱いだろ?」

「パンチって言うか、ロン毛の方だけどね」

「ま、他にも意味はあるんだが、問題は何故“処女”としたか? って事だ」

「リンゴの木に実りました、でも良いわけだもんね」

「全然良くないが、まあ、他の選択肢もあった。が、“処女懐妊”と言う処女厨的な発想になったのか? これは正しく性愛に対する期待が関係している」

「って言うと?」

「まず、この設定――あ、設定って言っちゃった」

「…………」

「この設定からは“処女”を神聖視している事がわかるだろ? 救世主の母親が処女であると言うのだから、キリスト教が処女を重要視しているのがわかる」

「『キリスト教が処女を重要視』凄い字面だなぁ」

「ちょっと極端かもな。もっとまるく言えば、キリスト教は性に関して否定的な側面を強く持っている」

「禁欲的って事?」

「そ。まあ、多くの宗教は“禁欲”の要素を持っているんだけどな。性的なそれでなくとも、食欲を制限したりする」

「断食とかだね」

「それを正しい行為として、信者達は禁欲する。けど、これって無茶な事だ」

「まあ、三大欲求とか言われるくらいだもんね。健康に過ごしたければ、絶対にいつかは破綻するか、妥協が必要になるよね」

「だが、教会は禁欲を破った人間を“悪”とする。俺が何を言いたいかわかるか? 千恵」

「破らざるを得ないルールを作って、悪人を産み出している?」

「その通り。禁欲は罪悪感を産み出す便利なツールだ。当たり前だけど、それ以外の意味もあるだろうが。あと、勿論だが誰もそんな事を表立っては言わない」

「そりゃあ、そうでしょ。禁欲って『貴方の為に』って言ってやるように言っているんでしょ? それが実は『破る事前提だけど』ってなっちゃあ、人を馬鹿にしているにも程があるよ」

「だからニーチェは禁欲に否定的だった。勿論、欲望丸出しでGO! ってわけでもないだろうけど」

「そんな人は哲学者にならないだろうしね」

「兎に角、これは禁欲に対する否定のアフォリズムだと言える」

「禁欲、なんてできもしない事をやっているか、物事の視野が狭くなるってこと?」

「だな。で、話がちょっと前後しちまったが、性愛にかかる期待って言うのは、要する人間の欲だ。禁欲する事によって何かを得たいと言う欲その物の矛盾に関して言及している様に俺は感じた。“処女”が“救世主”を産むんだぞ? どれだけ性的な禁欲に期待してんだよ」

「無茶が無茶を重ねて、確かに無理な妄想垂れ流しで、私だったら恥ずかしくて他人には言えないね」

「まあ、馬鹿馬鹿しい話ではあるけど、それ故に神聖な話でもある。それに、有名な話だから知っておけば楽しいこともあるかもな。ゲームとかで出て来る“ガブリエル”は聖母に妊娠を教えた天使の名前だし、そのシーンを描いた“受胎告知”と言う宗教画は多い。レオナルド・ダ・ヴィンチが描いたのが一番有名か?」

「あ、知ってるかも。サイゼリアに描かれてそうな天使が映っているやつでしょ?」

「多分だが、それはバルトロメ・エステバン・ムリーリョの作品だな。或いは、グイド・レニか? ダヴィンチの作品にはガブリエルと聖母マリア以外の人物はいなかったはずだ」

「そんな舌を噛みそうな画家の名前を良く覚えているね」

「ああ。しかしそんな俺にもわからない事が偶にある」

「例えば?」

「冒頭で話を締めるネタを使っちまったから、終わり方が思い付かない」


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