表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/137

【八六】【女なるもの】

【女たちはその個人的な虚栄心の背後に、個人的でない軽蔑心を隠しもっているものんだ。――「女なるもの」にたいする軽蔑心を。】


「まさかの女性関係三連チャンだね。これは狙ったのかな?」

「どうだろうな。真理を女性に例える性質上、結構な頻度で女性を扱ったアフォリズムは出て来るぞ。数えたことないが、【道徳の系譜学】だけでも五〇回以上は女性について触れているんじゃあないか?」

「滅茶苦茶杜撰な解説ありがとう。調べようとか思わないわけ?」

「だって、面倒臭いもん。『この作品を読んでニーチェに嵌りました!』って人がいたら、是非数えて報告してくれ。何時でも待ってるぜ!」

「丸投げ!?」

「じゃあお前が数えるか? あ?」

「さて、今回のアフォリズムだけど、【女なるもの】だね。『女とはこういうものだ!』みたいな随分と上から目線な感じだね」

「切り替え速いな、お前。ニーチェが上から目線なのは当然だ。【この人をみよ】って題名の本を出す男だぞ? 勿論、自分自身の事だからな。すげーよ」

「うん。本当に凄いよ。呆れちゃう」

「まあ。本を書いて誰かに教えようと言うんだから、上から目線は当然だろ。読者に媚びるような哲学書とかあったら嫌だろ?」

「まず哲学書を読んだことがないから、何ともいえないけど、まあ自信があってよろしいってことにしておくよ」

「お前こそ何様だよ」

「で。まずニーチェはさ【女たちはその個人的な虚栄心】を持っていることを前提で話しを進めているようね。【虚栄心】って言うのは、読んで字の如く、虚ろな見栄ってことよね? 呼んで字の如くって言ったけど、意味が今一わからないわね」

「じゃあ、如くってないじゃん! 適当過ぎるだろ。【虚栄心】って言うのは、まあ、必要以上に自分を良く見せようと言う心のことだな。ちょっとした嘘を吐くこともそうだし、過剰な装飾品や化粧もそうだろう。勿論、誤解なきように言っておくと、野郎にもある。後、煙草吸ったり、酒飲んだりも、個人的には【虚栄心】からの行動だと思っている」

「って言うと?」

「煙草も酒も、基本的には害の方がでかいだろ? それを敢えて嗜むことによって、自らの健康性や、恐怖に立ち向かう意志を見せていると考えているってことさ。ま、孔雀の翅と一緒さ」

「一々、大袈裟だな利人は」

「実際、煙草も酒も大人の嗜み。つまりは『成人』のイニシエーションだった過去があるからな。自分はもう子供ではないと言うアピール的な面が強いぜ?」

「はあ。それで、皆が持ってる【虚栄心】だけど、【女たち】はその裏に【軽蔑心】を隠しているって続いているね。自らを大きく過剰に見せていると同時に、何かを軽蔑しているって救いようがないね」

「まったくだな。そして何を軽蔑しているかと言うと?」

「【「女なるもの」にたいする軽蔑心を。】だってさ。【女たち】は【「女なるもの」】を軽蔑している。これって自分自身を軽蔑しているってこと? しかも、個人的にじゃあなくて、【女たち】全員が【女】そのものを軽蔑するってことだよね? 別に私は【「女なるもの」】を軽蔑なんてしてないんだけどな、失礼しちゃうな、この素人童貞」

「それを言ったら戦争だぞ! まあ、ここ数話で既に言っているように、別にこれは性別の話しじゃあない。例えに上げられた女性には堪った物じゃあないかもしれんがな」

「ああ。【真理】の代名詞なんだっけ?」

「そ。【真理】と言うモノが存在しない以上、それがあるように振舞うと言うのはこれ以上ない虚栄だろう。そして【真理】自身もそのことに気が付き、【真理】なるものを軽蔑していると言うのがこのアフォリズムの真意だろう」

「随分と面倒な奴だね、【真理】君は」

「手っとり早く説明するなら、『【真理】は【真理】であるからこそ、【真理】の矛盾に気が付いてしまう』って所か?」

「あー、なるほどねー」

「詳しく解説して行こう。【真理】は完璧な物として存在していなくてはならない。そうだろう?」

「そりゃあ、【真理】が時と場合によって変わったら困っちゃうからね」

「だが、その完璧さ故に【真理】の矛盾や欠陥と言うのは簡単に明らかになる。代表的なので言えば、『全知全能の神は、誰も持ち上げられない岩を作れるか』って奴だな。作れないなら、勿論全知全能じゃあない。作れるのなら、その岩を持ち上げられない神は全能では有り得ない。持ち上げられるなら、その岩は誰にも持ち上げられない岩じゃあない。どうしても、全知全能の言葉と矛盾してしまう」

「全ての自然でないものは不完全である。Byナポレオン」

「そう。人の想像は完全では有り得ない。が、一度【真理】として世の中に出してしまったのならば、簡単にそれを撤回するわけにもいかない。仮にも神が相手なら尚更だ。その結果、【真理】は追加される。この場合なら『神を試してはならない』とかな。そうやって欠陥を埋める為に産み出された【真理】のなんて多いことか」

「【真理】の穴を埋める為の【真理】って、それこそ矛盾してない?」

「そう。だからこそ【真理】は【真理】を嘲笑するんだ。無意味極まりない、裸の王様でしかない自分自身をな」

「相変わらず、ニーチェのこう言う上げ足とり的な発想は流石だね。やっぱり、自分自身が【真理】を持たないからこそなのかな」

「まあ、『真理などない』と言う思想そのものがニーチェにとっての【真理】とも言えるし、【真理】を持たないが故に体系化されておらず、個人個人が都合の良いように解釈しやすいと言う弱点もあるけどな」

「なるほどね。で、さ」

「ん?」

「ちょっと話しを戻すけど、このアフォリズムって女をそのまま生物学的な女性と考えても成立するとは思わない?」

「思わない。俺は男女差別を許さない」

「いや。だから散々キリスト教を諸悪の根源みたいに言っておいて、どうして男女問題に対してそんなに腰が引けてるの?」

「キリスト教は嫌いだけど、女の子は好きなんだよ」

「嫌いな物ならどれだけ貶めても良いとか、最低の発想じゃない!? ま、まあ、もう無視して言っちゃおう。最近の男女平等を訴える女性を見るとさ、ふと思うんだよね」

「思わなくていいから!」

「この人達は『女が嫌いなのかな』『男になりたいのかな』って。だって、そうでしょう。今まで女性がある意味で独占していた『家事』や『育児』を手放して、男が独占してた『仕事』や『政治』に手を出したいわけでしょう? そこに軽蔑があると思うんだよね」

「って言うと?」

「男の人が『家事』と『育児』を見下している風潮があるのは確かだよ。でも、だから女性も『仕事』や『政治』に参加したいって言うのはさ、男のその価値観が前提の発想じゃん。男性本位な思考に則って、自分達も男性のようになりたいってことじゃない?」

「…………」

「本当に女性が素晴らしく、男性と平等に扱って欲しいって言うなら、人類が誕生してからずっと自分達が行って来た『家事』『育児』を男なんかと共有しちゃあ駄目だと思うけどね。それらを素晴らしいと誇り、その上で互いに尊敬できる関係を模索するべきでしょう?」

「『結婚も出産もしたことがない奴が言っても……』って言われるぞ?」

「そもそも、女の中でも派閥があるうちは、絶対に男女平等なんて無理っぽいよね。笑っちゃうよ」

「と言うわけで、千恵の笑顔でお別れだ!」

「…………笑顔とは本来、相手に牙を向ける行為なのだ――」

「お前はもう、本当に黙ってて!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ