【八五】【男と女】
【男と女では、同じ情動を感じても、感じる速さの違いがある。だから男と女はたがいに誤解することをやめないのだ。】
「またまた【女】とタイトルにあるな。【八五】【男と女】だ」
「と言うことは、前回とアプローチは一緒になっちゃう?」
「まあ、そうなるのが自然だろうな」
「でも、これは普通に読み取ったとしても『あぁ。なるほどな』ってなるアフォリズムじゃない? 女の人って男の人と比べて感情的な所があるし、同じ物を見ても男女じゃあ全然違うこと話すじゃない?」
「ふむ。例えば?」
「お正月に親戚で集まったんだけどね、親戚のお姉ちゃんが結婚して赤ちゃんを産んだの」
「それはめでたい。おめでとうと言っておいてくれ」
「ん。了解。でね、女の人はその赤ちゃん――男の子何だけどさ。『可愛い』って言いながら、どんな服を着せたいとか、普段どんな行動をするのか、誰誰に似ている、とかそう言うことを訊ねるんだよね」
「まあ、わからなくはないな」
「でもね、酒飲んで顔を赤くしたおじさん達は、将来は何になるとか、キャッチボールをしたいとか、そう言うことを話しているんだよね」
「なるなる。女性は現実的な話しをしているのに対して、男性は未来のことを話していたことが気になったと」
「そうそう。男の人は長期のスパンに渡って家族と言う物を考えていて、女の人は現状のことを考えている、みたいな。どっちが優れているとかじゃあなくてね」
「男脳女脳なんて言い出すと頭が悪くなりそうだけど、多分、古代からの生活様式がそのまま現代にも根付いているんだろう」
「男は狩りに出るから、的確な情報判断と現状からの未来予知が必要。女はその間に家庭を守る必要があるから、周囲に合わせる為のコミュニケーション能力が必要。だとかそう言うの?」
「話しをきかない男。地図が読めない女。だな」
「やっぱり、性別による性格の違いや適性の向き不向きって言うのは絶対にあるよね」
「それに加えて個人の差もあるから、一概には言えないけどな」
「それで、その差が互いを理解から遠ざけてしまうと」
「代表的なのは『仕事と私、どっちが大切なの!』だね」
「別に代表的かは知らんが、それは顕著な例かもな。男性側はより大きな幸福の為に現在を犠牲にしているのに対して、女性側は利己的な愛情の満足を求めている」
「でもこれ、完全に女が面倒臭い奴だよね」
「今は知らんが、昔は女性側に力がなかったからな。『結婚した男性に愛されていない』と言うのは命に係わる話しだ。実際、俺のひい爺さんは結婚して子供がいたにも関わらず、好きな女が出来たと奥さんを無理矢理放りだして、愛人と再婚したし」
「完全に話しが脱線しているけど、利人のおじいちゃんの話しが滅茶苦茶面白そうなんだけど」
「結論から言うと、爺さんは刺されて死んだぞ」
「めっちゃ昼ドラ!」
「残念ながら、爺さんの話はそれでおしまいだ。俺の産まれる前の話しだしな」
「ええ!」
「兎に角、男女では脳の構造が根本的に違うし、それによって求められて来た役割も違う。同じ共同体で暮らしながらも、別の生活をしているんだ。そりゃあ、価値観も変わって来る。ズレも産まれる。そして、大抵の人間は自分の価値観を正しい物として生きている。例え間違ったと自覚していたとしても、それを歪めて生きると言うことは難しい。だから誤解と言う物はなくならない」
「お、綺麗に纏まったね。じゃあ今回は……」
「終わらないんだな、これが。【女】を『真理』として考えた場合の話しがまだだ」
「そう言えば、そんな話だったね。えーっと、人間は真理を誤解するし、真理は人間を誤解するってこと? 人間が真理を誤解するのはわかるよ? そもそも真理なんて物はこの世の中にないんだろうし、人間は何時だって間違えているからね」
「その通りだ。そして真理を人間が間違えている時点で、その真理が間違っているのは当然だろう?」
「地図が間違っているなら、地図の通りに進んでも目的地に辿りつかないように?」
「中々うまい例えだな。そう言うことだ」
「えへへ」
「何故、そんなことが起きるのか? それはやっぱり、個人個人の尺度と、真理と言う大勢を相手にする漠然とした尺度では物事を同じに考えることはできないからだろうな。一〇〇人を助けるのに一人が犠牲になる必要がある時、真理は百人を救えと言うだろう。だが、犠牲になる一人はそんな真理を簡単には認められない。ま、これは極端な例だけどな」
「でも、わかりやすくはあるよ。偉大な物だからこそ、受け入れることが難しいっていうのは」
「ま、正しさって言うのは暴力みたいなものだからな」
「その台詞こそが暴言って感じだけどね」
「全然話は変わるが、ここで俺の好きなジョジョのエピソードを話したいと思う」
「本当に唐突だね。喋りたいことは喋ったとは言え、フリーダム過ぎない」
「微妙に関係する話しなんだよ。まあ、ネタばれになるから、かなり曖昧な説明になるが、聴いてくれ」
「って言うか、私も全巻読んでるんだけど…………」
「簡単に言うと、『決闘』を挑んで来る敵がいるんだ。いや、敵じゃあないな。そいつにとって『決闘』は自らを高みへと導く神聖な行為であり、憎いからとか、命令だからとかじゃあなく、成長の為に『決闘』を行うんだ」
「いたね。そんな奴」
「俺達現代人の価値からすると、その行為は明らかに殺人鬼の言い分だ。しかし男にとってそれは関係ない。『決闘』により『自らを高める』事こそが男にとっての真理であり、嘗て世界を支配していた真理だ。男はその真理を『男の世界』と呼んだ。嘗て、その『男の世界』と『社会のルール』は同一であったとすら言う。そんな男と主人公達が戦うんだが、俺はそいつの言い分に『力への意思』を感じたわけだ」
「まあ、確かにそうだよね。自己の成長によって幸福を得るって言う思想は『力への意思』の特徴だから」
「と、同時にこのアフォリズムを思い出した」
「どの辺に?」
「ちょっと説明が長くなるが、プラトンの共演にも出て来るギリシャ神話の『男女』と言う話しがある。要するに、男と女は嘗て一つの生物だったが、別れて男と女になった。だから互いに求めあうって言う、神話を使った生殖の解釈の一つなんだけど、女を真理と考えるのであれば、『男の世界』と『社会的価値観』が嘗ては同一だったと言うのが巧い具合に噛み合うと思わないか?」
「男と女が同一であったように、男の価値観と社会の価値は一緒だったってことだよね? そして今は二つがバラバラになっていると。まあ、こじつけと言える程度には、面白い考えだと思うよ」
「そして今回のアフォリズムだ。二つの価値観は元々同じであったにも関わらず、わかり合うことできない。互いに誤解し続けるしかない。ならば、どうするか? わかったふりをして妥協点を探すが、この敵の様に自分が正しいと思える価値観を貫くか、だ」
「なるほどね。そう言う見方もあるんだ、あのエピソード」
「個人的にそう思っただけだけどな」
「多分、利人だけだよ、そんな小難しいことを考えて読んでるの」
「そう言うこと言うなや!」
「多分、荒木大先生もそこまで考えてないよ」
「狙っていないなら、それはそれで凄まじいけどな」
「と、この辺で今度こそ終わりだね。これ以上はジョジョ語りになっちゃいそうだし」
「悔しいが、そうするか。また次回!」