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【ニーチェ】利人と千恵が『善悪の彼岸』を読むようです。【哲学】  作者: 安藤ナツ


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【七六】【自虐】

【平和な状態に置かれると、好戦的な人間は自分に襲い掛かるものだ。】


「自虐的な人間って言うのは鬱陶しいと思わないか、千恵」

「わからなくもないけど、自分自身を貶めてしか考えられないような状態の人には優しくしてあげようよ」

「俺はそうは思わないけどな」

「何で?」

「他人の不満とか聴いても俺には関係ないし。気分が落ち込むだろ?」

「本当に鬱陶しいだけかよ!」

「さて。自虐について一言言わせて貰った所で、今回のアフォリズムがこちら」

「【七六】【自虐】【平和な状態に置かれると、好戦的な人間は自分に襲い掛かるものだ。】だよ。相変わらず、意味はよくわからないけど、意味深で奥が深そうなアフォリズムで、口に出すだけで頭が良くなりそうな気がするよ」

「自虐的なことを言っている奴を見たら、このアフォリズムを言ってやろう!」

「絶対にぽかんとするだけで終わるよ。後は変人に見られるくらい? あ、利人は最初から……」

「最初からなんだよ!」

「それで? これは何が言いたいわけ? 平和になっても人間は争いを求めてしまうとか、そう言う話し?」

「うーん。じゃあ、まずその意見に付いて説明をして貰おうかな」

「良いけど、言葉以上の意味はそうないよ?」

「それでも互いに認識の違いがあると不味いだろう?」

「面倒だなぁ。別に難しい話じゃあないんだけど。平和ってさ、地球上の歴史的に凄く珍しい状態でしょ? 今の日本は平和と言えば平和だけど、世界の何処かでは戦争しているし、日本だって全く争いがないわけじゃあない」

「殴り合うだけが争いじゃあないしな」

「規模を小さくすればさ、日常生活を送っていたって、嫌な諍いは起きる物でしょ?」

「根本的に、平和って言うのは難しい物だからな。多くの人間は勘違いしているけど」

「そそ。でも、どうして平和が難しいのかって言ったらさ、【好戦的な人間】がいるからじゃないの? どんな生物だってさ、何かを奪って生きているんだし、当然と言えば当然なんだけど。何の犠牲もなく進歩なんて出来ないんだもん」

「なるほどね」

「どう? 点数を付けるなら何点?」

「難しい質問だな。取り敢えず【好戦的な人間】がいるのは何でだ?」

「人間ってそう言う物だから、じゃあ駄目なの?」

「それでも良いんだが、折角だから考えようぜ? どうして争いが起こるのか、お前は既に自分の意見を述べたよな? 『犠牲なくして進歩はない』って」

「うん。地球上に無限の資源があれば話しは別だろうけど、生きている以上は有限の資源の奪い合いでしょ? だったら、戦いは避けられない」

「動物とかはその典型だな。捕食者と被捕食者の戦いが常に行われている」

「だから、闘っている状況って言うのが生物にとっては自然でしょ。そんな中で生きているんだから、嫌でも【好戦的な人間】にならざるを得ないと思うんだよね。水の中の生物が、水中で酸素を取り入れられるように、闘争の中で生きるなら戦闘向きの性格をしていないと直ぐに参っちゃうよ」

「ああ。認めたくないかもしれないけど、人間も所詮動物だからな。そう言った面もあるだろう」

「でしょ?」

「でも【自分自身に襲い掛かる】のはどう言うわけだ? 隣の奴を殴れば良いじゃないか」

「『雨が降ったら傘をさせ』みたいなノリでとんでもないこと言うね! 世紀末!?」

「まあ、流石に冗談だが、平和になったら闘争本能を抑えることはできないのか?」

「うーん。難しいんじゃない? 根本的に生物って言うのは戦う機能があるわけだし、いざと言う時の為にもこれは錆付かせちゃあ駄目でしょ? 定期的メンテじゃないけど、攻撃本能は残しておかないと」

「まあ、平和って言うのは次の戦争までの繋ぎ的な所もあっただろうからな。あくまでも闘争状態こそがニュートラルと考えるのが自然だ」

「政治家がテレビでそんなことを言ったら次の日には辞任しそう」

「でも実際問題として世界中で戦争は起きているしな」

「そう言うわけで、人間には【好戦的】な一面があるし、それを抑えるのは難しい。だけど誰彼構わずに戦うわけにもいかない」

「その結果が、【自虐】となるわけか」

「うん。でも【自虐】って具体的に何なんだろ? 日本は少なくともわかりやすい戦争を暫くしてないけれども、自虐的な人間って言うのはどれだけいるんだろう?」

「俺が真っ先に思い付くのは三万人くらいかな?」

「三万人、多いね」

「多いな。何の数字かわかるか?」

「日本自虐協会の会員数とか?」

「お前はそんな団体を見た事が一度でもあるのか? 思わずググっちまったぞ。幸いにしてヒットはなしだ」

「自分で言っといてなんだけど、もう存在自体が自虐過ぎてギャグにしか思えない団体だよね? で、結局の所、何の数字なわけ?」

「自殺者だよ。日本人の年間自殺者。不謹慎な話しだが、自分を殺すこと以上の自虐が存在するか?」

「結構な数の人が自殺しているんだね、何と言うか、ご冥福をお祈りいたします?」

「自動車事故で亡くなる方より多いからな。因みに、戦争している国での自殺者はかなり少ないらしい」

「そうなんだ。意外と言えば以外だし、予想通りと言えば予想通りな気もするけど」

「なんでも、『勝つ』と言う明確な目標がその要因らしい」

「兵隊さんが戦場で戦っているって言う意識とかも影響ありそうだよね」

「まあ、戦争の死者の方が遥に多いから『だからなんだ?』って話しなんだが、今の日本の状況と比べると興味深いデータではある」

「【平和】なのに自殺をする。なんて言うか歪だよね」

「しかし戦時の自殺者低下の理由が『勝利目標』だとするのなら頷けるはなしでもあるんだな」

「【平和】に勝利はないから?」

「ああ。【平和】な時代に勝つと言うのはかなり難しいことなんだと俺は思う。人が中々死なないから、上位が埋まって動かないんだよ」

「ん? それが問題なの」

「ジャンプで例えるのもアレだが、打ち切りってあるだろ? メジャーな漫画が人気の大半を占めているから、ちょっと面白いくらいじゃあ雑誌に生き残れないって奴。アレと同じさ。平和な時代が続けば、それだけ人口も増えるし、寿命も延びる。後から生まれて来た奴は環境こそ整っているけど、既に何十年も先に生きている連中と一緒に生きていかないと駄目なんだぜ? よっぽどの才能や努力がない限り、生半なことでは勝つことができない」

「ああ、そう言うこと? 好戦的な人間は、勝てないことに耐えられないんだ」

「そ。だから、自分よりも弱い物を攻撃するか、自分自身を責めるかの二択になっちまう。勝とうとするならな」

「でも、弱者は守られているからね。襲えば敗者である上に、悪人になっちゃう」

「そう言うわけで、【平和な状態に置かれると、好戦的な人間は自分に襲い掛かるものだ。】となるわけだ」

「結局の所、人は争いなくして生きられないんだね」

「それ自体はしょうがない。生きるって言うのは戦いだ。それを善と取るか、悪と取るか、それだけが問題だ」

「そう言えば、ずっと疑問だったんだけど、自殺幇助罪があるってことは、自殺は罪なことなのかな?」

「何で最後にそんな難しい問題を放り投げるの? 意識高過ぎる質問だろ! たいたいもう哲学の話しじゃないから! って言うか、今回なんかお前頭良さげじゃない?」

「いや、ちょっと前回の反省をしてたんだよ」

「あー」

「でも結局、最後の方は利人に乗っ取られちゃったけどね」

「俺だって偉そうに説明したいんだよ」

「清々しいまでに自分本位だね」

「因みに、俺が最初から喋っていたら、【自虐】を『我慢』や『禁欲』と同一視させて、宗教的な本能の抑圧と、それによる支配の話しになっていただろうな」

「【七七】との繋がりを考えれば、自然な話しなのかな?」

「ただ、同じ話ばかりと言うのも退屈だからな。あんまりニーチェ的な解釈ではなかったが、そう言うのも悪くない」

「『悪くない』って言い方は、最悪だね」

「そうだな。こう言う展開も良い物だな」


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