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【ニーチェ】利人と千恵が『善悪の彼岸』を読むようです。【哲学】  作者: 安藤ナツ


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【七三A】【孔雀の誇り】

【多くの孔雀は、すべての人の眼から〔自慢の〕尾羽を隠す――そしてそれが自分の誇りの現れだと主張するのだ。】


「孔雀を見たことがない人間はいないと思うが、念の為に説明しておくと、尻尾と羽根が凄まじく派手な鳥だ」

「生命の神秘と言うか、進化の凄まじさを感じる生物だよね」

「真っ当に生存することだけを考えるなら、邪魔になるだけのものを沢山付けているわけだからな」

「番を見つける為だとか、威嚇の為だとか言われているけど、それなら普通に飛行能力を強化した方が良い気がするんだけど、どうしてそんな進化をしたんだろう?」

「ああ言う無駄な装飾をすることによって『自分はこれだけ邪魔があっても生存できますよ』と主張していると考えるのが一般的らしいな。バンビとかが肉食獣を前にした時、その場で飛び跳ねるのも同じ理由らしい。『こんな無駄なエネルギーを使う余裕があるよ! だから追いかけても無駄だよ!』ってな」

「なるほど。小さなリスクを負うことによって、大きなリスクを避ける為の進化なんだね」

「刺青等の人間の自傷的な文化も、自らの勇気を示すことによって、無用な争いを回避しようと言う意志が根本にあるだろうな」

「中学生がちょっと悪い事したくなるのも、そう言うこと?」

「それは知らん。ただ、中学生男子は理屈じゃない。基本的に馬鹿なだけだ」

「そっかぁ……」

「と、言うわけで、【七三A】【孔雀の誇り】始まるぜ!」

「アバンが哲学と言うより、生物の講釈だったけどね」

「ロマンがあるよな、進化論って」

「話しを進めようよ。【多くの孔雀は、すべての人の眼から〔自慢の〕尾羽を隠す――そしてそれが自分の誇りの現れだと主張するのだ。】って書いてあるけど、要するに『能ある鷹は爪を隠す』的なアフォリズムなのかな?」

「どうだろうな。見ていこう。尾羽を広げた華やかなイメージが強い孔雀だが、あれは威嚇の意味があると言われていて、常日頃から全開にしているわけじゃあない」

「直ぐにボロボロになっちゃうだろうしね。って言うか、広げるスペースを探すのが大変そう。さっきの話じゃあないけど、かなり奇妙な進化を選んだよね」

「進化って言うのは環境に選ばれる物であって、自分で選ぶ物じゃあないけどな。兎に角、孔雀の尾羽って言うのは四六時中広げている物ではない。基本的に見せびらかさない。いや、安易に見せられる物ではないんだ」

「人間で言うと、凄い才能とか特技を持っているけど、披露する機会がないって所かな?」

「そう考えるなら、やはり『能ある鷹は爪を隠す』と言う寓意を持った話しになるだろうな。けど、よくよく考えて見れば、孔雀の尾羽って言うのはそこまで優れた物か?」

「いや、優れた物じゃないの? 綺麗じゃん」

「勿論、綺麗なのは認めるんだが、そんな風に思われている時点で意味をなしてないんじゃあないか?」

「『綺麗な物はそれだけで意味があるんだよ』」

「何で名言っぽく『』で囲っちゃってるの? 中身スカスカなんだよ! 孔雀の尾羽は何の為にあるんだ?」

「威嚇と求愛でしょ?」

「そう。普通に生きるだけなら無駄な装飾を付け加えたことで、生存することができた種が孔雀だ。なるほど。確かに先祖代々積み重ねて来た、孔雀を孔雀たらしめる存在だ。が、実際の所、あれは単なる虚仮脅しだ。ビームが出るわけでもないし、跳ぶ時は邪魔なだけの文字通りの長物だ」

「誰かに襲われてしまったら、何の役にも立たないってこと?」

「そうだ。孔雀の尻尾は自らを大きく見せたいと言う虚栄心の象徴でもあるんだ」

「虚栄心って確か――」

「お前の心にある物だよ、千恵」

「あながち間違ってはいない」

「否定しない所がお前は偉いよ」

「冗談は置いといて、アレでしょ? 虚栄心って見栄を張ることでしょ?」

「うむ。孔雀の尾羽は正に、自分自身を必要以上の大きく見せようと言う虚栄心の現れとしての比喩なんだよ」

「確かにあの装飾過剰さは見栄を張てるっぽいよね」

「ああ。しかし『孔雀はその虚栄心を多くの人の目から隠す』」

「ん? 矛盾してない? 『大きく見せたい!』って気持ちを隠すの?」

「ああ。虚栄心なんてない方が良いものだからな。お前だって大したことないの偉そうにする奴になんてなりたくないだろう? だから、孔雀は自分の尾羽を普段は隠しているんだよ。なんとも高潔な生物じゃあないか」

「いや、別に孔雀はそんなことを考えていないと思うけど。所詮獣だよ? 孔雀は比喩的な表現のシンボルでしょ?」

「まったくその通りだし、俺の発言が間違っていたのは認めるけど、『所詮獣』って、お前。なかなか現代日本では聴かない台詞だぞ。なんか、好感度下がったわ」

「別に利人の好感度が下がってもどうでも良いよ。話しを続ければ、孔雀は自分自身を必要以上に大きく見せないことに、誇りを感じているわけだね」

「等身大の自分って奴なのか? 必要以上に自分を大きく見せないと言うことは、自分自身をしっかりと理解していると言う意味でもある。自己認識の正確さってのは生きていくうえでも大切だろうな」

「これが【七三A】であることを考えると、ニーチェの【理想】と言うのは虚栄心を押し殺している人間って言うことでもあるのかな?」

「そうだな。背伸びをした所で実際に背が伸びるわけでもない。実際に成長したわけでもないのに、成長した振りをすると言うのは意味がないし、ばれた時に恰好悪い。まあ、孔雀の羽根を綺麗なんだけど」

「美しい薔薇には棘があるけど、美しい孔雀の尾羽には意味がないと言うのもなんだか寂しい話しよね」

「それよりも、世の中には誇りのない人間が多過ぎる方が寂しいさ」

「あはは。特にネット上なんかだと、嘘を吐いてもばれにくいからね。皆尻尾を広げて自慢合戦に熱心だもんね」

「学歴だとか、就職先だとか、過剰な装飾品や贅沢品。皆、よっぽど自分が小さく見られるのが嫌いらしい。自分の求める【理想】がないから、他人が羨む姿に縋るしかないわけだ。自分の中にしっかりとしたビジョンがあるのであれば、自分自身の能力をはっきりと自覚しているのであれば、見栄を張るなんてことはただ恥ずかしいだけのことだからな」

「でも、矮小な自分自身を見られるのと、虚栄心で膨らんだ自分を見られるのであれば、嘘の自分を見て貰った方が楽って気持ちもわからなくないけどなぁ」

「だったら、しっかりと自分を【理想】に向かって育てれば良い。その過程を笑う様な奴も多いけど、それはそいつらがただ愚かなだけだ。【力への意思】から目を背けて、現状に満足した振りをする【末人】でしかない」

「うーん。でも、それが難しいから皆、虚栄心を満たす方に行っちゃうんじゃあない? 皆、私みたいに強くないんだよ?」

「自分に自信があるようで何よりだよ……でも、そうじゃあないならそれまでだ。弱いのは仕方がないし、愚かなのも許せるけど、『向上心がない奴は馬鹿だ』」

「あ、それなんだったけ? 夏目漱石?」

「確か『こころ』の台詞だったと思うけど。正確には『精神的に向上心がないやつは馬鹿だ』だったか?」

「別にニーチェの影響があるわけじゃあないよね?」

「時代的にはニーチェの後だけど、別にないと思うぞ? 芥川の『河童』はもろ影響があるけど――って言うか、話しが逸れたな」

「私達の会話って基本的に雑談に逸れていくよね。何でだろう?」

「それは単純に、俺達が自分の知っていることをひけらかしたい、孔雀の尾羽広げまくってる野郎だからだよ」

「なるほどね」

「言うは易しとは言ったもんだぜ」


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