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【七三】【理想】

【自分の理想を実現してしまった者は、そのことによってその理想を乗り越えるのだ。】


「『その』が一文に何個もあると、凄く落ち着かないのは俺だけか? その『その』はどれを指しているんだよ! と焦っちまわないか?」

「わかるわかる。この場合は『自分の理想を実現してしまった者は、自分の理想を実現したことによって自分の理想を乗り越えるのだ』ってことだよね」

「余計わけわかんねーよ!」

「と、言うわけで、偶には導入部を逆にしてみたんだけど、どう?」

「俺が質問役だと違和感あるけど、お前の説明台詞は割と有りだな。嫌味な感じがしなくて良い」

「傲慢と言う自覚があることにびっくりだよ。治そうよ」

「はい。じゃあ、解説始めようか」

「が、利人。これをスルー」

「これはニーチェが理想について語っているな」

「思うんだけどさ、結構理想を叶えた後のことを話すなんて珍しくない? 普通はさ、『理想を持つと人生は楽しくなる』とか『こんな理想を持ちましょう』って言うアフォリズムになるのが自然な気がするんだけど」

「確かにな。逆に言えば、どんな理想でも良いから持って、それを実現することは当然だって伝えたいんじゃあないか? 理想を持つことはできても、それを達成できる人間って言うのは少ないからな。千里の道も一歩から。まずは絶対に目標を達成することから始めるんだ」

「【持続】のアフォリズムにも通じる所があるね、その話しは」

「連番だし、ある程度関係してはいるだろうな。それで、理想を叶えることで、ニーチェは【その理想を乗り越えるのだ。】と言っている」

「【理想を乗り越える】って言うのはどう言うことを指すんだろ? 理想を実現したんだから、それを乗り越えているのは当然なことな気がするんだけど」

「特に捻らずに考えれば、『自己克服』ってことじゃあないか? 理想を叶えることによって、『その理想(を抱いていた自分)を乗り越えるのだ』ってこと。何かしらの理想を持つって言うことは、何かしらの欠陥を持っていたってことだから、理想を叶えると言うことは、自分自身の成長でもある」

「うん。でも、やっぱり普通のことだよね、それって」

「ああ。だからどうしてそんな当たり前のことをわざわざ書いたのか、ってことを考えなくちゃならない。さて、このアフォリズムは【理想】と銘打たれているわけだが……千恵、お前の理想って言うのは何だ?」

「え? 理想? それは勿論『金』」

「凄い、言い切った。興味本位で訊くんだけど、金をどうしたいの?」

「金さえあれば人生も買えるからね。まずは、金だよ」

「資本主義万歳な回答ありがとう」

「何よ、その言い方。悪いわけ?」

「少なくとも、悪役な回答だと思う。因みにニーチェの理想は【超人】だ」

「ふーん。【超人】が金になるの?」

「資本主義万歳な回答ありがとう! 金とかじゃないの! 【超人】は!」

「ぶっちゃけ、観念的過ぎて良くわからないんだよね、それ」

「まあ、難しいし、俺も完全に理解しているわけじゃあないけど、ニーチェの言う【超人】は所謂人間を克服した存在なんだよ」

「さっきも自己克服とか言っていたわよね。要するに、このアフォリズムは自己克服によって超人を目指すことを勧めているってわけ?」

「そう考えるのが自然だろうな。自分自身を克服することにより、より人としての高さを得る。それこそがニーチェの言う【力への意志】によって生きる【超人】なんだろうな」

「なるほどねー。なんか【超人】とか大袈裟に言っているけど、要するに向上心のある人ってことで良いの?」

「まあ、その解釈も間違いではないな」

「じゃあ【超人】って結構その変にいるんじゃない? ポジティブな人でしょ?」

「いや。ただ単に自己を克服する向上心のある人ってだけじゃあ足りない。過去や因縁、周囲の環境、既存の道徳観、そして永遠に繰り返して変わらない自らの運命を前にしてそう思える人間こそが【超人】なんだよ」

「わかりにくいなー。もっと簡潔にプリーズ。ゲームで例えてよ」

「自分がクリアしたドラクエの動画を見続ける。勿論、死ぬまでだ」

「何が勿論なのか全然わからないんだけど。それに何の意味があるの?」

「正に、それなんだよ。『人生とは虚無だ』。結局の所、人生に意味なんてない。しかし、無味を知りつつ、その『人生』を『もう一度』と言える人間が【超人】らしい。極端な話し、理想を叶えると言うことすらも、この世界では本当は大した意味はない。が、それでも理想を達成してしまった者は、その無意味すら乗り越える存在に慣れるんだ」

「うーん。やっぱりその凄さがわかり難いんだよね、観念的過ぎて」

「じゃあ、逆のパターンを例として出してみようか。絶対に叶うことのない理想を追い求める果てに辿りつく場所のことを」

「【超人】の逆?」

「『天国』さ」

「あ、【超人】の反対は『神様』じゃあないんだ」

「まあ、『天国』も『神様』も似た様なものだけどな。【超人】が何度でも同じ苦痛に向かい、それを克服しようとするのに対して、『天国』は死んだら幸せな場所がありますよって説いているわけだ。真逆だろ?」

「確かに、大分方向性は違うよね。でも、それだったら『天国』を信じた方が良くない? 同じ無意味なら、楽な方が断然良いよね」

「だからこそキリスト教は流行ったんだろうな。この無意味な人生に、意味を持たせたんだから」

「人生の意味ねえ」

「古来の命題だ。『我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか』と言う絵を描いた後に自殺未遂したのはゴーギャンだったが、深く考えてしまえば行き着くのは虚無だ。生命は猛毒の海の底の灼熱から産まれたに過ぎないんだからな」

「悲しい結論だね。だから人は神に縋るんだろうかね」

「極端な話し、『明日』って言う概念だって似た様なもんさ。自分がまだ続くと言う前提がなければ人は今日も生きられない」

「それを克服する方法の一つが――」

「――【超人】と言うわけだ」

「虚無に虚無を重ねる天国か、虚無を見続ける【超人】か、どちらにせよ、人生ってのは度し難いもいのみたいだね」

「だからこそ、人生は退屈しない」

「私としては、お金が空から降って来てくれれば、意味なんて必要ないけどね。無駄遣いは得意なのだ」


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― 新着の感想 ―
[一言] ダークソウルのヘビーユーザーは超人の可能性が……? ちょこちょこ頭から読み直すと面白いお話なんですよね、この小説
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