【七二】【持続】
【高き人間を作るのは、高き感覚の強度ではなく、持続である。】
「ほい。【七二】【持続】だ」
「なんて言うか、凄くストレートにいいこと言っているよね」
「ああ。なんかもう、これだけで完成されている感があるよな」
「いやいや。最低でも二〇〇文字は喋ってくれないと、投稿規制に引っかかるから、適当に何か喋ってお茶を濁そうか。日本に開国を迫ったのがペリー提督じゃあなくて、エルヴィス・プレスリーだった時の日本の歴史について語って見る?」
「全く興味の出ない話題をありがとう。その話題については多分一生語らないと思う」
「ビバ・ラスベガス!」
「さあ、馬鹿な話しは忘れるとして、【高き人間を作るのは】の【高き人間】とは、まあ【超人】の事だろう」
「ニーチェ哲学の集大成なんだっけ? もう、散々利人が説明したから良くない?」
「おい! そう言うこと言わない! 全然語れてない!」
「もう、二百文字過ぎたし、『継続は力なり』で終わらせない?」
「飽きて来てる!」
「ちょっとね」
「まあ良い。独り言が服を着て歩いているのが俺だ。一人でも喋ってやるさ」
「どんな奴だよ……。はあ。はいはい。付き合いますよ。【高き感覚の強度】って言うのは、やっぱり才能の事なのかな?」
「そうなると、【持続】は努力になるな」
「キノコタケノコ並みに揉めそうな話題だよね、『努力と才能』の問題って」
「『成功する為にはどちらが重要か?』みたいな話題は、議論が尽きることはないよな」
「利人はどっち派? 私は才能派かな。才能がなければ、どれだけ努力しても無駄だってアインシュタインも言っているし」
「『天才とは、一%の閃きと、九九%の努力である』って奴か」
「そうそう。努力をしても、結局は才能が物を言うんじゃない?」
「だが、かの天才は『天才とは努力する凡才である』とも言っているんだぜ?」
「マジで?」
「まあ、本当に言ったかどうかは確かめようがないけど、少なくともそう言う逸話も残っている」
「そんな……才能がないから頑張らなくて良いって自分に言い訳して生きて来たのに!」
「アインシュタインもまさか自分の言葉をそんな風に使われるとは思ってもなかっただろうな。話しが逸れつつあるから戻すが、どっちが大切ってこともないんじゃあないか?」
「出たよ、お上品な答えだことで」
「まあ、無難な回答であることは認めるけどよ、『子孫を残すのに男親と女親のどっちが重用か』なんて言われても困るだろ? 『水を作るには水素と酸素のどっちがより大切か』なんて答えが出るか? 両方とも当然必要だ」
「うわぁ。つまんない回答」
「だけど、事実だろ? どれだけ天性の才能を持とうとも、鍛え上げなければ意味がない。お湯と一緒さ、温め続けなければ直ぐに冷めちまう。そう言う意味で努力は絶対に必要だ。そして、ヤカンに水がなければ湯は沸かないんだから、才能だって必須だ」
「うーん。面白みのない結論だね」
「そしてページ数が余ってしまった」
「マジで雑談する?」
「そうだな。ちょっとだけ知り合いの【持続】の話しをしようと思う」
「はあ、面白い話し?」
「どうだか? その知り合いは数年前から毎日一〇キロ近く走っているんだ」
「は? 一〇キロ? 一〇キロって言うと結構な距離だよ?」
「まあ、最初はもっと短い距離だったし、歩いていたみたいだけどな。ことの始まりは既に良く覚えていないと言っていたが、『会社の先輩のアドバイス』が原因だとか、『森嶋先輩の好みが体力のある人』だからだとか、その辺はどうでも良い」
「本当にどうでも良い!」
「で、不思議なことにそいつはそれからずっと雨の日以外は一時間程度のジョギングをしているんだ」
「ふーん。よっぽど走るのが好きなんだろうね」
「いや、それがそうでもないんだよ。マラソン大会では完走するだけで拍手されるレベルの運動音痴だった。肥っていたし、運動なんて大嫌いだと思っていた」
「思っていた?」
「ああ。夜のジョギングを始めた当初は、誰もが直ぐに辞めると思っていたくらいだ。しかし不思議な物で、そいつは走り続けた」
「何で? 運動なんて嫌いだったんじゃないの?」
「本人いわく、『何で自分でも走ってるかわからん』だそうだ」
「ええ。頭おかしいよ、その人」
「ただ続けられると言うことは、そいつには合っていたんだろうな。今まで、運動なんて殆どしてこなかったのに続けられるんだから」
「えっと、つまり、【持続】がその人を運動好きに変えたってこと?」
「ああ。別に才能があったわけではないだろうが、運動を好きと思える程度には変わることができた。勿論、一流のアスリートになったわけでもないが、それでも自己の苦手を克服している。さっきは『どっちも大切』のようなことを言ってお茶を濁したが、ちょっとした些細なことでも【持続】は【高き人間】に近づけてくれるのかもしれないぞ」
「でもさ、それは結局、元々その人に『才能』があったんじゃないの?」
「それもあるかもしれない。だが、その才能に気付いたのも努力のおかげじゃあないか? 一体、どれだけの人間が自分の才能に気が付いていなことか。そいつは『日本の教育が俺から運動の楽しみを奪ってしまった』とか言っていたな」
「才能があるからって、それを好きになるとも限らないもんね。まあ、日本の教育が悪いのかどうかは知らないけど」
「それに、やっぱり続けて見ないと自分に向いているかどうかなんてわからないからな」
「『石の上にも三年』って奴だ」
「ああ。どちらかと言えば、『継続は力なり』よりもそっちの方が近いかもな」
「じゃあ、私達もこれを続けないと駄目だね」
「だな。と言うわけで、短いけどまた次回!」