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【ニーチェ】利人と千恵が『善悪の彼岸』を読むようです。【哲学】  作者: 安藤ナツ


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【七〇】【性格】

【性格というものがある人は、自らの典型的な体験を何度でも繰り返すものだ。】


「【七〇】【性格】だね。今回はかなりアフォリズム――格言とか金言っぽい感じだね」

「ああ。非常に面白い自己認識に対する批評であると思うぞ」

「【性格というものがある人は】って、普通はあるよね、性格」

「少なくとも、俺達は性格と言う物をそれぞれが持っていて当然だと考えているな」

「でも、ニーチェはそれを否定的に書いているように見えるね」

「ああ。【自らの典型的な体験を何度でも繰り返すものだ。】だからな。【体験】を『失敗』に変えても凄くしっくりくる」

「『自分は不器用だ!』って思っている人が細かな作業が出来ないのは、本当に手先が不器用だからなのかな? もしかしたら、そう言った思い込みがより失敗の確率を上げているのかもしれないよね」

「気は持ちようじゃあないけど、そう言うことは往々にしてあるんじゃないか? しかもその性格を理由にして苦手な物を避け続けるから、ますます典型的な経験を繰り返す。悪循環って奴だ」

「つまり『性格』を理由にして逃げていても良いことなんてないから、もっと自分のことをきちんと見て、合理的かつ論理的な思考を持とう! って言うアフォリズム何だね?」

「いや、そう言うわけでもないと俺は思う」

「だよね。知っていたよ? で、どう【奴隷の道徳】と繋げる気?」

「俺の引き出しがそこしかないみたいに思われるから、そう言う言い方は辞めてくれる?」

「あれ? 違うの?」

「まあ、そうなんだけど。取り敢えず、今回はまだ考える余地が他にある」

「他?」

「【典型的な経験】が『成功』の経験である場合が検討できるだろ?」

「それはそうだけど、文章の雰囲気にあわなくない? 『性格というものがある人は、自らの典型的な成功を何度でも繰り返すものだ』だよ? なんて言うか、アフォリズムっぽくないような……。『成功する奴は成功し続ける』って、『失敗する奴は失敗し続ける』って言葉よりも、ある意味で何処にも救いが無い気がするんだけど」

「だが、実際問題、成功者って呼ばれる人はいるだろ? 彼等はきっと、自分の性格を良く知っているからこそ、同じ失敗を繰り返すことなく、成功を積み重ねることが出来るんじゃあないか?」

「『他を知り己を知れば』って奴? まあ、言われてみれば、別にそれ程に変な話じゃあないよね。確固たる自分がなければ、成功なんてできるわけがないだろうし」

「だろ? つまり【性格】と言う物は自分の成功や失敗に深くかかわっている物だから気をつけましょう、ってことだ」

「なるほどー」

「と、文字だけを読み取るとそんな所なんだが、俺には一つだけ引っ掛かることがあるんだ」

「良かった。『普通の名言でした』では終わらないんだね」

「ニーチェを学ぼうと言う根本のテーマはまだ忘れていないから安心してくれ。唐突に俺とお前が能力を使ってバトルを始めたら、話すネタが尽きたんだと思ってほしい」

「それは逆にアイデアが浮かびあがって来ているような……」

「阿呆な話しは置いておくとして、『繰り返す』と言うのはニーチェの哲学に置いて重要な意味を持つ」

「あ、【永遠回帰】だったけ?」

「そう。全ては永遠に今に戻って来ると言うニーチェ哲学の肝である【永遠回帰】。もっとわかりやすく言えば、世界は無限にループしていると言う時間の考え方だ。因みに、別に時間が直線的な物ではないと言い始めたのは別にニーチェが初めてではないぞ。古代ギリシャ当たりでは、むしろそっちが主流だったとか」

「雑談になっちゃうけど、どうして今は主流じゃあないの?」

「キリスト教」

「ここにも出て来るの?」

「キリスト教の宗教観は未来に救いがあるわけだからな。せっかく救われたのに、また最初に戻って来てしまうんだったら意味がないだろう?」

「確かに」

「逆にヒンドゥー教なんかは、創造する神、維持する神、破壊する神といて、定期的に世界を破壊しては創りなおしている。輪廻の考え方もあるし、もしこっちが覇権を握っていたら、時間が直線的な概念とはならなかったかもな」

「ふーん。じゃあ、ニーチェは東洋哲学にも影響を受けたってこと?」

「ああ。西洋哲学は『科学』の分野に大きく進歩して行き、東洋とは凄まじい技術力の差が産まれた。が、東洋の思想自体は西洋に負けずに発展していたんだ。『我思う故に我あり』なんて言い始める一〇〇〇年以上前から、『胡蝶の夢』なんて発想があったくらいだしな。もっとも、西洋人は技術力に劣った東洋の思想を重くは見なかったようだけど」

「なるなる」

「話しを【永遠回帰】に戻そう。何回か話題に上げたが、ニーチェを代表する思想の一つで、無限ループ物だと説明して来た」

「『同じ人生を何度も自覚なく繰り返す』ことなんだよね」

「そう。そして【力への意志】を持ってそれを肯定することのできる【超人】へ至ることが、人類が次に進むべき道だと考えたんだ」

「【力への意志】は『もっと上を目指そう』って言う生命の持つ意志で、【超人】は――その意志によって動く人ってことで良いの?」

「と、言うか【全てを肯定できる人】と言った方が近いかもしれないな」

「【力への意志】で全てを肯定できる人が超人?」

「この【ルサンチマン】による哲学や宗教が支配する世界で、それに縛られずに自らの意志で動き、圧倒的に虚しいこの世の中を『もう一度』とすら言える精神の持主が【超人】だ」

「うーん、良くわからん!」

「まあ、俺だって正直わからん。が、ポイントなのはこのアフォリズムにも【永遠回帰】にも『繰り返す』と言う要素が噛んでいると言うことだ」

「偶然の一致で考えるには……って奴?」

「どうだろう。単純に偶然かもしれんし、俺の気にし過ぎかもしれない。が、まあ、考えるだけならタダだ。まずは動いてみることに価値があると言うことにしておこう」

「で? もし仮に、このアフォリズムの【繰り返す】が【永遠回帰】を示しているとしたら、どうなるの? って言うか、決まっているよね? 【性格】なんて物があるから【永遠回帰】があるってことになるんじゃない?」

「つまり、ニーチェは【性格】を持つと言うことに対して否定的だったのかもしれない」

「確かに、性格が故に失敗を犯すことはあるかもしれないけど、性格がない人間なんて言うのはあんまり想像ができないんだけど」

「でも、一切の性格がない人間って言うのは確実に居るぜ?」

「うそ?」

「赤ん坊だ」

「あ、あー。なるほど。産まれたばかりなら、性格なんてないかも?」

「そう。何も知らない赤ん坊は、善も悪も持たない。経験と言う物を持っていないのだから、あらゆる【遠近法】と無縁の存在だろう? 性格なんて物は持ちようがない。

「うん。その点に特に反論はないかな?」

「逆に言えば、性格と言うのは経験に基づいて形成されて行くわけだ」

「利人が良い性格になったのも、幼少期が原因なのかな?」

「…………その内に泣くぞ」

「よしよし。泣かないで」

「お前も良い性格してるよ……性格と言うのは過去によって作られ、過去によって縛られる呪いの様な物なんだよ。これについてはどう思う?」

「それは大袈裟じゃない? って言うか、無理があるよ」

「そうか? 違う性格になりたいって言う奴は多いと思うぞ? 俺達みたいな奴にはわからないかもしれないけど」

「むむっ。確かに『違う自分になりたい』って人は多いかも」

「それが全てではないとしても、性格と言うのは生きる上で必ずしも産まれてしまう呪いにも似た一面を持つ。過ぎ去ってしまった物事に心を奪われると言うのは、【力への意志】に取って無縁でなければならいことは前にも言ったっけ?」

「言ってないと思うよ。でも、常に上へ上へと進まなければいけないから、過去を振り返っている暇はない的なノリでしょ?」

「ノリとか言うなよ。が、そんな理解で問題ない。【永遠回帰】を【力への意志】によって克服する【超人】にとって、過去から産まれる【性格】と言うのは不要な物なんだろうな」

「うーん。性格のない人間。過去にまったくの影響を持たない人間。それってどう言う人なわけ?」

「間違いなく言えるのは、その都度その都度、自分で考えて生きていく人間だろうな。経験がないから、自分で行動するしかない。より良くなる為に、自分で考える。当たり前のことだけど、案外これをできる人は少ないぞ?」

「皆、前例に倣うのが大好きだもんね」

「そう言う性格なんだろうな」

「なるほどね。じゃあ、人類自体がそう言う性格なのかもね。何度も何度も同じ過ちを繰り返してるじゃん?」

「『民族』『宗教』『政治』沢山のしがらみから産まれた文化を、人類の『性格』に当て嵌めたわけか。スケールでかいけど、そう言う解釈も面白いかもな。人間は未だに人間を克服できていない。SF小説風に言うなら、俺達はまだ幼年期すら終わっていないのかもな」

「何故にSF風に言う必要が?」

「アーサー・C・クラークの『二〇〇一年宇宙への旅』と言えば、ニーチェの【ツァラトストラかく語りき】が根本のテーマにあるからな」

「へー。そうなんだ」

「ああ。他にもそのまま『ツァラトストラかく語りき』って言う交響曲もあったりするから、そう言った方向でもニーチェを掘り下げて行くのも面白いかもな」

「そうだね、でもさ」

「でも?」

「さっきの台詞は『幼年期の終わり』リスペクトじゃん」

「…………」

「その失敗を繰り返さないことを祈るよ……」


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