第2話 ギルドへの訪問者
テストの現実逃避に次話投稿です
カナたちのギルド、《眠りの森》に加入するのが決まったのはいいのだけれど、これから何をしたらいいのかがわからない。でも、僕はまだこの世界に来たばかりで右も左もわからない状態にあるわけだし、下手に自分で判断しないで、カナに聞いておくのが一番だろう。
「えっと・・・・・それでカナ、僕はこれからどうすればいいのかな」
「まずはうちのギルドまで行って、ギルドメンバーとして登録するわ。その後はまあ、町の施設の紹介くらいかな。世界の移動なんてしたら気疲れしちゃうもんね」
「はは、気を遣ってくれてありがとう。でも、あまり疲れとかは感じないから、大丈夫だよ」
「だーめ!自分でそう感じてたとしても、気づいてないだけかもしれないでしょ?」
「そもそも別に気なんて遣ってねーです。その後の武器選定で足手まといになられると護衛のこっちが困るんです」
「武器、選定?護衛?」
その後の二人の説明によれば、武器選定とは、とある遺跡に渡り人が行き、自分に合った武器を神様から授けてもらう儀式らしい。だけど武器を持たない渡り人には魔物が集まってくるらしく、そんな理由から、渡り人はこの世界でギルドに加入した後に、護衛とともにその神様に会いに行く、というわけだ。
「じゃあ、まずは隣にあるうちのギルドの方に行きましょうか」
「そういえばここはどこなんだ?」
「うちのギルドの宿舎、その管理人室よ。管理人さんは今はいないんだけどね」
「そうなのか・・・・・・・」
話が終わると、三人で宿舎を出て隣のギルドへと向かう。ちなみに宿舎は特に男女で別れるということはないみたいだった。
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隣に立っていた大きな建物の中に入ると、そこには十数人の人たちがそれぞれ思い思いに過ごしていた。ある人は店のカウンターで店員の女の子と笑いあい、ある人はテーブルで昼間から酒を飲みかわし、ある人は掲示板の前で何かを悩んでいたりと、様々だ。
僕が入口でギルドの中を見渡していると、二人の男女が近づいてきた。
「おっ、どしたよカナ!見ない顔引き連れてよ!なんだ、迷子にでもなって連れてきてもらったのか?ん?」
「おや、ついにカナにも春がきたのかな?今夜はお祝いしなきゃだね」
「そ、そんなわけないでしょ!?シ、シルフィもちち、ちがうわよ!この人は新しいギルドメンバーの渡り人で・・・・・・!」
今カナをからかっている二人のうち、男の方は、燃えるような紅い髪と切れ長の紅い目が印象的だ。服装は裾が短く、動きを阻害しないようになっている。女の方は、優しげな青色の瞳と、何よりその長い耳が特徴的で、銀色の髪はきれいに整えられている。服装は足の前が開いた茶色のワンピースに、白色のズボンを履いている。
「ハハハ!そんなに焦んなよ!じゃっ、自己紹介といくか!俺はアイギル・ボルトケイオンってんだ!職業はガンナー、属性は炎だ!気軽にギルとでも呼んでくれよ!よろしくな!」
「僕はシルフィアード・ミンクシア、錬金術師さ。あまり前線に出ることはないけれど、だからといって戦えないというわけじゃないからね?みんなは僕のことをシルフィって呼ぶから、君もそう呼ぶといい。よろしく新人さん」
「あ、如月夕馬です。いわゆる渡り人ってやつらしいですね。職業とか属性はわかりませんが、頑張りたいと思います」
「なんかかてぇな・・・・・。ま、そりゃあたりまえか!そんで、武器選定にはいつ行くんだ?お前らだけじゃ心配だからな。俺が護衛としてついてってやんよ!」
アイギル・・・・・ギルはそういって僕の背中をバンバンと叩いてきた。乱暴な言動だが、こちらの緊張をほぐそうとしたり、心配してくれたり、面倒見のいい頼れる兄貴分のような人間なのかもしれない。
「明日ですが、てめーはついてくるんじゃねーですよ。ゴブリン討伐依頼はどうすんですか?明日行くんじゃねーんですか?」
「そ、そんなもんは誰かに任せて・・・・・・・・」
「ほぅ・・・・・冒険者が一度受けた依頼を放棄し、他者に代行させるというのです?本当にクズですね」
「ぐはっ・・・・・」
「大体この前『こんな魔物俺にかかればラクショーだぜ!』とか言ってワイバーンの討伐失敗したのはどこのどいつです?」
「ぐうぅ・・・・・・・・・」
「ワイバーンなんてある程度の冒険者ならだれでも倒せる下級竜種です。虚勢張るのはいい加減やめろです」
「う、うわあああああああああん!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・なんでだろう、さっきまでかっこいい頼れる兄貴がいたのに。今は子供みたいに泣きわめきながら走り去る残念系イケメンしかいない。あぁ、もう訂正しよう。ギルはムードメイカーであって、面倒見のいい頼れる兄貴分なんかじゃない。
「いってしまったね。一応、勘違いしないように言っておくけど、アイギルは冒険者になって日が浅い。にも関わらず、ワイバーンに傷をを負わせたんだ。才能自体はあるから失望しないであげてね。じゃ」
シルフィはそういって去っていった。あぁ、つまりあれか。下手に才能があったもんだから調子に乗って竜種に挑んで、コテンパンにされて帰ってきた、と。まあ、それでもすごい才能があるってことだから、調子に乗らずに地道に努力すれば有名な冒険者になれるんだろうなぁ・・・・・。
「さぁ、ギルド登録を済ませちゃいましょう」
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それは、ギルド登録も終わり、ギルも戻ってきた時に起こった。
「メラーナ!吾輩のメラーナはいるかぁ!!」
扉を乱暴に開け放ちながら入ってきたのは、腹は肥え太り、脂ぎった顔をニヤつかせ、指輪や金の刺繍の服などと過剰な装飾を施した、粘つくような、嫌悪を催すような声を上げる一人の男だった。
「・・・・・あの人は?」
「ギルド創設の時の出資者なんだけど、そのことを笠に着てギルドマスターに迫ってる気持ち悪い貴族よ」
「俺あの人のことあんまし好きになれないんだよな~。てか嫌い」
「私は部屋に戻ることにしますです。あんな豚と同じ空間にいるなんて耐えられないです」
「申し訳ありませんピグリム伯爵。現在ギルドマスターは王城の方へ出払ってしまっております」
「チッ!王城か・・・・・・!おい、いつごろ戻るかはわかるのか?」
「申し訳ありません。あの気まぐれ王女の呼出でありますのでいつ戻るかは・・・・・・・」
「クソッ!またあの王女か・・・!まったく貴様も使えんやつだな!」
「申し訳ありません」
「吾輩は今日は帰る!次はメラーナを用意しておくのだぞ!」
まるでギルドマスターのことをもののように扱い、自分勝手な貴族は乱暴に扉を閉めて帰って行った。
ピグリム伯爵の帰った後のギルドは、数瞬の静寂の後、一斉に悪口を言いだした。あのような言動をしていれば、不評を買ってしまうのは当然の結果だろう。
ピグリム伯爵と応対していた女性が近づいてくると、それがギルド職員の服装に着替えたシルフィさんだと気づく。
「ふぅ・・・・・・まったく薄汚い豚の相手をするのは疲れるものだね。僕はもう部屋にもどって休むことにするよ」
「お疲れー、シルフィ」
「シルフィさんよくあんなのの相手できるよな。尊敬しちまうぜ」
「だねー」
「さ!ユウマ!あんな豚のことなんか忘れて町に行きましょ!」
「そうだね。元々そういう予定だったわけだし、行こうか」
「俺も俺も!護衛はいけないからな!これぐらいはついていくぞ!何と言われようと絶対についてくぞ!」
「しょうがないわねぇ・・・・・・。ユウマがいいならいいけど・・・・」
「ユウ頼む!俺も行かせてくれ!いや行かせてください!」
「うん、もちろんいいよ。でも、明日の準備とかいいの?」
「町の案内のついでにやる!」
「ははは・・・・・・」
こうして、僕らは本来の予定通り、このギルドの有る都市、クラムを巡ることにした。
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