恋の女神は逃避中
ある時、ふと気づくと予想外の展開の真っただ中。 もしかして乙女ゲームの世界? しかし、いろいろ気になることが有って・・・。 これは夢? というか夢であってほしいんだけど・・・。
***** 始まり *****
「ボウッとしてても踊れるほど余裕有るんだから、この(舞踏会の)後も付き合えよ?」
耳元で囁かれた声に、思わずビクゥッと体が跳ねる。 我に返ると確かに今はダンス中。
パートナーは目の前のイケメ・・・美形。 濃い茶色の狼みたいな髪に同色の目。 長身・筋肉質だけど細身。 ホントに背が高く、ハイヒールを履いた私と頭1つ分の差が有る。 マットな(艶のない)漆黒の軍用の礼装がすごく似合ってる。 体幹がしっかりしてるのか、ホールドもターンも安定感抜群。
なかなかイイ夢。
私はそれほど乙女ゲーやってないのに、以前やった乙女ゲーの世界が舞台ってのは納得いかないけど。
豪華絢爛な舞踏室、見事な演奏、華やかな女性達、綺羅綺羅しい男性達。 ゲームならではの華やかさ。 現実だったら気後れするから夢で良かった。
それに、夢じゃなきゃ踊れない。 ゲームでは、動かすキャラはヒロインでも、ダンスとかは外からの視点だし? 何よりも、現実では、私とかの一般庶民がダンスのステップや舞踏会のマナーなんて知るわけないんだから。
ん? でも、なんか引っ掛かる気が・・・。
***** ノーマルエンドの特典 *****
「後は貴女次第ですよ?」
曲が終わると進み出てきた別の美形が、踊りながら囁く。 緩くウェーブを描く金髪に青い目のいかにも『王子様』な華やかなイケ・・・美形。 おとぎ話の王子様そのままの衣装でも違和感ゼロ。 素敵笑顔と流れるような動きでリードしてくれる。 くるりとターンした時に、同じく金髪碧眼の王様と王妃様のお姿も見えたような・・・。
「王子、この人は貴方のものではありませんからね?」
そう言って、次の曲まで踊ろうとする王子から私をさりげなく引き離した男性。 この男性もまたイ・・・美形。 やや長めの黒髪を首の後ろで1つにまとめ、黒にも見える濃い茶色という馴染みの有る色の目には上品な細い銀縁の眼鏡。 スーツ風の漆黒の礼装姿には隙が無い。 頭脳派らしい見た目で、正確無比なお手本みたいなステップ。 でも、ホールドは優しく気遣いを感じる。
「さぁ、こちらへ。」
そっと私の手を取ったのも、これまた・・・美形。 腰まである銀髪を後ろで緩い三つ編みにして、薄いグレーの目。 冷たく見えがちな色合いだけど、儚げな雰囲気はまるで精霊。 礼装の白いローブが羽のように舞う、重力が減ったかのような独特のフワフワしたダンス。 彼だけでなく私まで同じように踊れるのは魔法?
「ほら、おいで。」
私の手を軽く引き寄せて抱き込むようにして踊りだしたのも、やはり美形。 ライオンみたいな明るい茶髪に琥珀色の目。 正統派の夜会服は黒に近い紺色。 弾むようなステップで楽しく躍らせてくれる。 軽そうだけど、めまぐるしく変わる眼の表情からは本音が見えない。
「僕とも踊るんだよ。」
飛びつくようにしてダンスに誘ってきたのは、美形というより子犬。 短めの茶褐色の髪に碧の目。 黒っぽいエンジ色で、この場にふさわしいギリギリの堅さ(正統さ)とデザインの礼服。 動きやすさを優先したのがうかがえるし、ダンスも居間にも飛び跳ねそうな軽快さ。
休憩を挟みつつ順番に1曲ずつ踊り、舞踏会閉会まであと少し。
今まで踊ったのは、このゲームのメインキャラ達で好感度の高い順。 ゲーム中盤のこの舞踏会の後、誰と会うかでルートが分かれる。 ここまでに、好感度が突出したキャラが居れば、そのキャラとだけ踊るし、低すぎるキャラはダンスに誘ってこない。
ただし、序盤の選択肢で逆ハーレムを狙えるルートを選ぶと誰とも踊れない。 好感度が低ければ男性キャラ同士で妨害しあって結局誰も誘いに来ることが出来ないから。 逆に好感度が高いと舞踏会の直前にヒロインの奪い合いになったあげく乱闘騒ぎに発展して全員(ヒロイン含む)強制帰宅と謹慎することになるから。
逆に、さっきの私みたいに全員と踊れるのはノーマル(同級生)エンドのみ。 この事実がわかったときは攻略サイトが大騒ぎだった。 こんなオイシイ特典がノーマルエンド限定なんて、他のゲームにはまず無いからね。
おかげで、私は安心して踊れた。 だって、全員と踊れただけでなく、ノーマルエンドに向かってるのも確認できたから。 ゲームでもノーマルのみ狙った、というか、すべてを均等に進めると攻略サイトも何も見なくてもノーマルエンドになるんだけどね。 完全に均一ってのも難しいから、踊る順番で好感度を確認できるのはプレーヤーにとっても都合がいいしね。
でも、何か引っ掛かってる。 最初のダンスから、どんどん強くなるのに理由がわからない。
***** まさかのキャラ、登場? *****
「ラストダンスは、ぜひ私と・・・。」
「え?」
すでに全員と踊った。 あとは、ラストダンスを見物して、舞踏会後の誘いを断って帰宅するだけ。 頭の中で手順を確認してたら声を掛けられた。 聞き覚えの無い、でも、すごくイイ声。
声の方を見て・・・固まった。 『思わず』と思う間さえも無く、体も思考も停止する。
ラストダンスは特別な人と踊ることになってる。 だから、ノーマルルートでは誰も誘ってこない、はずなのに・・・。
<<<彼は隣国の皇帝。 断るなんて無礼は許されない>>>
それはわかってる。 けど、私は見たことも会ったことも無い。 だって、少なくともノーマルルートには出てこないどころか居なかった。 なのに、何故か、彼が何者なのか知ってる。 しかも、ラストダンスの誘い?
「どうぞ?」
「! はい。」
そっと促す声に我に返って応じる。 拒否できる相手ではない。 恥をかかせたとして、下手したら国際問題になる。 足を踏んだだけでも、隣国は動かずとも我が国が私を処罰するだろう。 何かを考える余裕は無い。 間違えず踊りきり、問題の無い応答をすることに集中しなければ・・・!
軽く後ろに流した黒髪は時々銀色の光がきらめいているように見える。 懐かしいような黒にも見える濃い茶色の目。 私より頭1つ分高く、ゴツすぎない程度に逞しい身体。 隣国の王族の礼服は、漆黒だが不思議な光沢を放っている。 ダンス中だからか、威厳はあっても威圧は感じない。 緩急をつけた独特の踊り方なのに相手を戸惑わせること無くリードする。
「後で談話室で少し話を。 侍従に案内させる。 陛下の許可はいただいている。」
「わかりました。」
曲の終了間際に囁かれる。 これも断れるものではない。 しかも我が国の国王が許可してるのでは誰にも止められない。
『でも、お願い、ちょっと待って。 状況とゲーム情報を整理させて! 閉会の挨拶の時間内に頭を整理するしかないわね。』
すばやく考えをまとめる。
まず、皇帝陛下が居る時点でノーマルルートではない、有り得ない。
じゃぁ、皇帝陛下はどんな立ち位置でどんな時に出てくるのか。 ・・・・・・???
・・・そういえば、2周目以降に、特殊な条件下で、隠しキャラが出てくるという話題で盛り上がってるスレが有ったけど、まさか『スペシャルルート』? 皇帝陛下は『隠しキャラ』?
ちょっと待て。 だとしたら、コレは私の記憶ではない。 どういうこと? 情報無いから、私には今後の展開が読めないんだけど!? コワいから、いっそ全部夢であってほしい。 ていうか、夢だよね? 夢でも怖いから、もう起きたいんだけど?!
結局、情報も少なすぎるし何も証拠が無いしで、確証も得られず、対策も立てられなかった。
***** 絶対回避! *****
無策のまま、侍従に従って舞踏室を出る。 まだ夢は覚めてくれない。
「?!」
「「「「「「・・・・・・。」」」」」」
舞踏室を出てすぐ、談話室へと向かう廊下の両側からの視線。
彼らが並んでこちらを見ていた。 6人全員が侍従をすごい表情で睨みつける。
そして私に複雑な視線。 舞踏室での様子で私の驚きと困惑は伝わってるようだった。 私に拒否権が無いことも、自分達には止めることが出来ないことも分かっている・・・そんな苦悩が表情に見える。 でも、それよりもハッキリ見えるのは『執着』や『嫉妬』。
それこそが『引っ掛かる』ものの証拠だと、なぜか突然わかった。
『ボウッとしてても踊れるほど余裕有るんだから、この(舞踏会の)後も付き合えよ?』
あれは、好感度が6人で1番高かった場合のセリフ。 これで承諾すると、夜の庭園でいきなりの濃厚なキスに悲鳴さえあげられないまま、力が抜けて座り込むまで続けられる(R15なのに)。
他のキャラもそれぞれ激しい(ギリギリのR15)。 好感度が6人中最高かつ一定値以上の唯1人にのみ発生する、ノーマルから個人へとルート変更する唯一で最後の機会。
ん? でも、おかしい。 他のキャラのセリフもノーマルルートで聞いたのと違う。 ノーマルのより情熱的というか・・・。 え? まさか、好感度がノーマルの範囲を超えてる、とか?! そんな馬鹿な! でも、私の記憶ではなく、ノーマルルートでもないとしたら、何があるかわからない。 何があってもおかしくない。 私は最初からノーマルしかやる気が無かったんだから。 情報なんて集める必要無かったから。
実は、このゲーム、メインキャラは全員、落とすとヤンデレ化する。
定番の軟禁・拘束・監禁はもちろん、R18ではなくR15にもかかわらず、毎日のように夕方から翌日の明け方まで抱き潰してベッドから出られなくする、なんてキャラも居る(さすがに実行中のスチルとかは無い)。
そのわりにヒロインを殺すキャラは居ないが、私はヤンデレは嫌だった。 でも、テンプレな特徴だろうともキャラ達は魅力的だったし、ノーマルではクラス会で再会して記念(集合)写真なんてスチルが有るのを聞いたからプレーした。 ノーマルのみを。 他は放置で、ついでのように偶然入ってくる情報以外は集めもしなかった。
で、これ以上メインキャラには近づかないとして、皇帝陛下のエンディングはどうなんだろう? ヒロインが隣国に行くことになるのは絶対として。
やはり、ヤンデレ化? いや、皇帝がソレはマズイはず、ヒロインが正妃になるなら、だけど・・・。
まさか、側室にして監禁して・・・とか? 有り得なくは無い。
隠しキャラだから特別に、ヤンデレ化せずに普通に溺愛? 一番マシかな?
いくらなんでも、皇弟とかと複数で・・・てのは無いよね?
***** 皇帝からの質問 *****
さて、散々混乱し、色々有り過ぎて更に混乱し、周りが注目しまくってるのに気付く余裕も無かった舞踏室を出て、今は談話室。
談話室とはいっても、王宮の、対王族用のものなので、広くて豪華。 でも、むやみに派手なわけではなく、明るさと落ち着きを兼ね備えた上品な造りと内装で、すごくイイ感じ(私好み)。
室内に居るのは、皇帝陛下と私と控えている侍従と侍女・・・はともかく、何故に国王陛下に王妃様と宰相閣下までいらっしゃる? あ、何か失礼な言動をしないかとか、国に不利益をもたらす言質を取られた時のフォローとかかな?
「たいした話じゃない。 聞きたいことが有っただけで、こんな(大事)ふうにするつもりは無かったんだ。 周りは気にせず、答えてほしい。」
私の驚きと緊張を見て取ったらしい皇帝陛下が、そう話し始める。
けど、無理! 両国のトップばかりの中で、隣国の皇帝陛下自ら質問って普通じゃない。 というか、明らかに異常もとい非常事態。 私、何か変なこと言った? 何かやっちゃった?
「テラスで歌ってた歌、あれは何だ? 休憩のたびにテラスで歌ってただろう?」
「? ・・・!」
「「「?」」」
『たいした話じゃない』と言いつつ、いきなり爆弾発言。 確かに、歌ってましたけど?! アレ、聞いてたの?
それ以前に、普通、テラスの隅の人間に主賓が気付く? 様子からして、陛下・王妃様・宰相様は気付いてなかったっぽいのに・・・。
しかも『休憩のたびに』ってことは『休憩のたびに』聞いてたの? 嘘でしょ? 1つぐらいは聞いてたとして、あとは報告受けたとかですよね?
それにしても、主賓が何やってるの。
「どうした?」
「・・・祖先(からずっと住んでる国)の故郷の歌です。」
「緩やかな旋律と物悲しい曲調の曲ばかりだったな。」
「教えてくれた今は亡き曾祖母を思い出してしまったので・・・。」
「そうか。 ・・・貴方自身ではないのだな。 わかった。 下がって構わない。」
「・・・失礼します。」
ゲームのヒロインの曾祖母は遥か遠い異国の出身。
しかし、皇帝陛下のあの表情・・・。 悲しむような懐かしむような切なさも含んだ微笑み。 まさかの『皇帝陛下転生者説』浮上? もし、そうなら、話してみたい。 でも、隣国の皇帝と昔話(?)って、有り得ないよね。
それにしても、あの歌がフラグで曲数で好感度上がるとかって・・・無いよね?!
談話室を出て、そのまま帰る。 国王陛下達には皇帝陛下のお相手とか有るから、追いかけられて問い詰められなくて良かった。 今度は廊下に誰も居なかったのもホッとした。
***** お曾祖母様? *****
『こまめにメモしておきなさい。 情報は武器よ。 脅はk・・・説得に使えることもあるし、ね。』
こんなセリフで目が覚めた。 まだ周りは暗い。 眠くは無いけど、寝足りてない感じは有る。
きっと、昨日(まだ今日?)の出来事を考えてしまって、脳が眠りに入りきれなかったんだろう。 そこに、さっきのセリフ。
いつかの何処かでの誰かのセリフ。 思い出せないけど、言葉が向けられてるのは自分(私)だとわかるから、以前、実際に聞いたんだと思う。
それにしても結構ぞんざいな話し方だわ、と思ったら、突然思い出した。
あれは、お曾祖母様のセリフ。 はるか遠い異国から来て、『(お曾祖父様と)2人で周りを論破して結婚したのよ?』と笑っていた、私と同じ髪と目をした女性。
身内だけだと話し方がぞんざいで聞き慣れない言葉も出てくるけど、『もともと平民だから普段はこんなだったし向こうの言葉が出ることが有るだけ』、と明るく笑い飛ばしてた。
私の頭の中の言葉とかがが時々ぞんざいになるのは、間違いなくお曾祖母様の影響。
『情報は武器・・・』の話は、お曾祖母様の思い出話にまつわる忠告の一部。
お曾祖母様の故郷はとても娯楽文化が発展していた。 発想が自由で想像力が豊かで、色々な空想世界の小説もたくさん有った。
そんな文化の内で、架空世界の主人公や脇役として冒険や自由恋愛を楽しむものが流行った時期が有った。 言葉や行動の選び方で物語の展開が変わるタイプも有ると聞いて、興味を持った。 だって、自分が選んだことが物語の世界に影響するなんて、そんなのは聞いたことも見たことも無かったし、ただ読むだけよりもずっと気分を味わえるはずだもの。
『その1つが面白いのよ? 国や王様の名前がここと同じなの。』
時間が経つにつれ、共通する点はどんどん増えて、私の名前が決定打となった。 つまり『貴女(私)は物語と同じ状況に巻き込まれるかもしれない』とノートを渡された。
『そうだ、ノート!』と思って、ショックに固まる。 あれらのセリフが有りノートまで有るとなると、今は夢ではないのかもしれない。 もし、全部が現実だったら?
慌ててベッドから抜け出し、そっとチェストからノートを取り出す。 やはり、(ノートは)有った。 中をパラパラと見る。 それは、お曾祖母様が『プレー日記』と言っていたもの。
あらすじ・人物・人間関係・注意事項・感想(たまに文句や毒舌)が書いてある。 確かに今(現実)と共通する点が多い、多すぎるほど。 ただ、違う点も多い。
・・・もう、夢なんて言っていられない。
つまり、お曾祖母様の予想通り、ゲームと同じ状況が、お曾祖母様の世代ではなく私(曾孫)の世代で現実になりつつある、ということだから。 よりによって、私の世代なんて(面倒くさい)!
『貴女の人生では貴女が主人公。 ただし、貴女の言動で周りや自分を変えてしまう場合が有るのだから、言動に伴う責任を忘れてはダメ。 でも、人生を楽しむのも忘れちゃダメよ?』
ノートの最後のページ、まるまる1ページに大きな文字で書いてある言葉。
それを読んで、ふと気づいた。 ダンスの時、皇帝陛下と会った時、どこかいつもと違う感覚や違和感が有った。 それは、このノートの影響。
まだ幼いころ、このノートを受け取ったとき、ついつい一気に読んでしまった。 だって、興味を持ったモノについて、大好きなお曾祖母様が書いて物なのよ? 読まずにはいられなかった。 そして、読み始めたら止まらなかった。 自分や周りの人がそのまま物語になってるんだから、引き込まれるのは当然だと思うし、続きが気になるのも当然よね。
そういえば、最初のころは、自分が伯爵令嬢だということも夢だと思ってた。 ゲームのヒロインの立場とプレーヤーの気持ちで状況を楽しんでた。 状況が酷似してたから・・・。
でも、少しずつ違和感が増え、(認めたくなかったけど)疑惑は膨らみ、ゲームの影響は情報だけになっていった。
つまりは、夢だと思い込めなくなっていった・・・のよね。
って、まずいわ。 回想で現実逃避するより対策を考えなくちゃ。
次期将軍の彼の舞踏会のセリフはお曾祖母様のノートと同じだから好感度は結構高いはず。 早めの対策が必要かも・・・。
でも、他のメンバーは、ノートとはセリフが違ったから確証は無いけど、ノートのより情熱的だった気がするのよね。
つまり、お曾祖母様の予想より私としては嫌な方に展開が速いかも・・・。
そして、一番気になるのは、お曾祖母様のノートになかった皇帝陛下。 でも、それほど情熱的なセリフは無かったし、もう帰国してるし、大丈夫よね?
さぁ、『前は急げ』『備え有れば憂い無し』、計画立てて動かなくっちゃ。
***** お見合い(?)作戦 *****
まずは、公爵令息。
いつも笑顔だけど本音が見えないと思ったら、お父様の公爵様は外務担当で凄腕で有名、本人(令息)もその仕事を引き継ぐだろうと期待されてるらしい。 納得。
監禁という最も重度なヤンデレだから、最初に予防。
仕事で外国に行くことが多く滅多に帰ってこない父と、毎日のように出掛ける母。 互いに愛人疑惑を抱きつつも世間体とプライドとで平静を装う仮面夫婦。
結果、本人(令息)は、本格的に外務の仕事を始めると、『疑惑の原因が無ければいいだけのこと』とばかりに、自分の在宅時は邸宅内・外出時は部屋に監禁するようになる。 (部屋と言っても1日に必要なすべては揃ってる。) それも『邸宅内』には庭さえ含まない徹底ぶり。
そんな彼を、とある伯爵令嬢と会わせてみる。 美人なのに必要以上に表に出ようとしない彼女なら癒しにもなってくれるはず。 出会いは舞踏会で令嬢を(私がそっと押して)彼が支えるという王道。 でも王道、さすが王道、イイ感じに進んでる。 彼女は最低限しか出てこないから、タイミングが難しかったわ。
そんな時、皇帝陛下から手紙が来た。
王様の使者が持参、『先方の配慮を受け双方の内容を検めさせてもらう。すみやかに返事を。』との伝言付き。 皇帝と一介の貴族令嬢が手紙を直接遣り取りなんて有り得ないのはわかるけど・・・ね。 『先方の配慮』って、迂闊なことを書かないようにってことかな?
『あの時の歌の題名を教えてほしい。『荒城の月』という曲は知ってるか?』
あの時は、薄桃の花を咲かせた気を見て『さくらさくら』『花』、お曾祖母様を思い出して『故郷』を歌っていた。 『荒城の月』も教えてもらった。 シンプルな内容にホッとして返事を書き、使者に託す。
次は、子犬君。
あんな可愛さで、剣の腕は相当で次期近衛隊長候補らしい。 びっくり。
彼は、勤務中は王宮の自室に監禁、連れ帰っては邸宅に軟禁というタイプ。 ヤンデレというよりは執着愛で、いつでも相手を傍に置かないと落ち着かないので、そうなるらしい。
そんな彼には、とある子爵令嬢が合いそう。 彼女は大の本好きで王宮図書館になら自ら喜々として閉じこもる。 舞踏会で(私が)そんな噂をしたらアッサリ興味を示した。 単純。 でも上手くいくなら私は見守るのみ。
また、皇帝から手紙が来た。
『貴女と私の瞳の色は似ている。 貴女の瞳の色は誰に似たのか?』
少し内容が個人的になったような・・・。 『曾祖母と同じ』と返事。
今度は、王子様。
執着系だけど、閉じ込めるのではなく、連れまわす。 執務にも、自室にも、視察にも・・・。 それを実現するために、あっという間に婚約まで持ち込むので早めの対応が要る。
彼には公爵令嬢を。 普段は完璧な令嬢だけど、実はものすごく好奇心旺盛で行動派。 普通では見られない場面や行ったこと無い場所に行けるとなれば、喜んで付いていくだろう。 (わざと王子の近くで)旅行の話を振れば(その食い付きっぷりだけで)王子の興味を引けた。
またまた、皇帝から手紙。
『私の瞳も曾祖母譲り。 歌といい、曾祖母たちは同郷だったのかもしれないな。』
私のお曾祖母様は『2度と帰れないほど遠い』と言ってたと伝える。
そして、眼鏡の彼。
彼も連れまわすタイプ。 次期宰相候補なだけあって専属秘書という形で公私ともに独占することを望む。
そんな彼には、聡明な侯爵令嬢しかないでしょう? 彼女は、仕事で王都を離れられない父・侯爵に代わり、成人前の弟(後継者)を助けて領内を切り盛りしてる。 聡明だからこそ『生意気』と敬遠する男性が多いらしく、逆にそんな女性を彼が放っておくはずがないわけで・・・。 問題無し。
次の皇帝の手紙は、私にとって爆弾だった。
『ゲームというものを知っているか? 曾祖母が故郷で親友と恋愛ものに夢中になってたらしい。』
もしかして、同郷どころか親友? 『私の曾祖母も夢中だったようです』と返す手が震える。
最後に、将軍の子息。
彼こそが、相手を抱き潰して動けなくする体力バカ。 他のメンバーより大柄で次期将軍の彼と貴族令嬢では体力差は考えるまでもない。 動けないどころか衰弱するかも?
ということで、相手は王妃様の専属(女)騎士。 体力も釣り合うし、忠誠心も理解でき、彼が軍務で王都を離れても王妃様専属なら下手な男は近づけない。 舞踏会の警備で会って意気投合。 これで良し。
万事順調と思ったら、思わぬ事態が・・・。
『他の歌も聞きたいし、曾祖母の話もしたい。 来週、会談で行くので、その時に・・・。』
今回の手紙はいつもと違った。 これ、拒否権無いよね?
追い打ちをかけるように、いつもは無表情の使者がわずかに複雑な表情で告げる。
『国王陛下が相談したいことがあるとおっしゃってます。』
国王陛下には、曾祖母から教わった歌と手紙の内容以上のものは無いと説明。 信じてもらえたかは微妙だけど、それ以上に、王妃様のやけにキラキラした眼の方が気になった。
***** 女神誕生? *****
さて、ここは前回と同じ談話室。
廊下には、例の6人はもう居ない。 それぞれ上手くいっている様子。
で、テーブルを挟んだ目の前には皇帝陛下。
「ところで、女神様は他国の人間も救ってくださるのかな?」
「は?」
リクエストに応じて『荒城の月』を歌い、祖母の話をした後の、突然の皇帝からのセリフ。 訳がわからず聞き返すと、なぜか王妃様から反応が・・・。
「あら? 恋の相談? 貴方、やっと結婚する気になったの? もしかして?」
「女神? 救う? 恋? 相談?」
疑問符だらけの私に、王妃様曰く。
「最近の婚約ラッシュ、貴女の仲介だと評判よ? 例のダンスは恋愛相談だったのか、って。」
「だから、男も女も恋の女神たる貴女に近づこうと必死だという話だが・・・」
「え? 何ですか、それ。 私はそんなことやったつもりは無いし、女神なんかじゃないです。」
「短期間で6組婚約、そのすべてが例のダンスの相手では、ねぇ?」
「・・・・・・。」
まさか、自分から離したくて他の令嬢に押し付けたとは言えず・・・。
「女神でなくて構わない。 ぜひ、これから相談に乗ってほしい。」
国王陛下と王妃様の前で、皇帝陛下直々に・・・拒否したら処刑? っていうか、まさか、拒否したらそのまま隣国へ拉致?
とりあえず、話は聞くということでなんとか落着。
それにしても、これって、まさかの皇帝ルート?
いつのまに? 歌? 手紙?
なんとか猶予確保? でも、いつまで延ばせる?
回避方法は? 皇帝に釣り合う王女様とか知り合いに居ないわよ? 逃げる? どこへ?
『でも、皇帝ルートとは決まってないわよね? 求婚されたわけじゃないし? ・・・現実逃避?』
頭の中は色々なものがグルグル回ってまとまらない。 落ち着くためにも、少しくらいの現実逃避は許してほしい。
だって、相手が相手で誰にも相談できない。
家族も友人も巻き込むわけにはいかない。
本来なら頼りになる国王陛下は静観を決め込んでるし・・・。 王妃様なんて喜々として盛り上がってくれちゃいそうで、そうなると逃げ道は完全に消えるので無理。
それでも、誰か・・・・・・お曾祖母様・・・・・・助けて!!!
***** 完 *****
お曾祖母様の件は普通なら「頭の変な人」として皇帝ルート回避の切り札。 でも皇帝も同じ境遇で、しかも絶対的権力者。 曾祖母同士が親友だったことも有り、主人公の逃げ切りは困難?
この後の展開は、今は作者にも分からなかったりします。